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5話 「ウェルダン街」

すみません。

飲み会行ってて投稿遅れました。

よろしくお願いします。

ふと、レオは目を覚ました。


 身体が小さく揺れている。


 耳には、たくさんの人の声。

 馬の鳴き声。

 荷車の車輪が軋む音。


「……ん……」


 ぼやけた目を擦りながら、レオは身体を起こした。


 そして次の瞬間。


「……わぁ……」


 思わず声が漏れた。


 石畳の広い道。

 行き交う大勢の人々。

 高く並ぶ建物。

 露店から漂う香ばしい匂い。


 自分の村では絶対に見られない光景だった。


 商人が大声で叫んでいる。


「安いよ安いよー!」

「焼きたてだ!」

「今日入った薬草だぞー!」


 人々の声が重なり合い、街全体が生きているみたいに騒がしい。


「お、起きたか」


 隣から父サイラスが声をかけてきた。


 レオは目を丸くしたまま聞く。


「お父さん……ここ……」


「ここはもうウェルダン街だぞ」


「ここが……ウェルダン……」


 レオは呆然と呟いた。


 すごい。


 村とは全部違う。


 人の数も。

 建物も。

 空気も。


「お父さん! すごいよここ!!」


 身を乗り出すように言うと、サイラスは豪快に笑った。


「はっはっは! そうかそうか! 初めての街だからな!」


「ねぇ見て! あの建物大きい!」

「ああ、宿屋だな」

「宿屋!? あんな大きいの!?」

「街だと普通だぞ」

「うそぉ……」


 レオは目を輝かせっぱなしだった。


 そんな話をしているうちに、馬車は大きな厩舎の前で止まる。


「うし! 着いたぜぇ!」


 御者席のダンが大きく背伸びをした。


「あ〜腰いてぇ~……」


 サイラスは笑いながら馬車を降りる。


「おう! サンキューなダン。ほら、これ報酬金だ」


「毎度ありぃ」


 ダンは貨幣袋を受け取ると、中をちらっと見てにやりと笑った。


「流石元Sランク様は気前がいいねぇ」


「うるせぇよ」


「へへっ」


 ダンはそのままレオを見る。


「どうだレオ君、街は」


「すごい!!」


「だろぉ?」


 ダンは得意げに胸を張った。


「ほんなら明日の昼にここで落ち合うか」


「ああ、そうだな。じゃあ行ってくる」


 サイラスはそう言ってレオへ向き直る。


「さてレオ。剣を選びに行くか!」


「やったぁぁ!!」


 レオは飛び跳ねた。


「ついに真剣だぁ!!」

「ははっ、落ち着け落ち着け」

「だってずっと欲しかったんだもん!」

「分かってるって」


 サイラスと並んで、大通りへ歩き出す。


 人通りが多い。


 商人たちの声が飛び交い、荷車が横を通り過ぎていく。


「お父さん! あれ何!?」

「あれは果物屋だ」

「え!? 果物ってあんな種類あるの!?」

「街だからなぁ」

「うわぁ……」


 また別の方向を見る。


「ねぇねぇ! あっちは!?」

「あれは酒場」

「さかば?」

「酒飲む場所だ」

「ふーん……大人って感じ」


 レオはきょろきょろしながら歩いた。


 見るもの全部が新鮮だ。


 するとサイラスが立ち止まる。


「着いたぞ」


「お父さんここなに?」


「ん? ここは食堂って言って、ご飯を食べる場所だ」


「え?」


 レオが瞬きをする。


「剣は?」


「まずは昼飯だろ?」


「えぇー!?」


 レオは露骨に嫌そうな顔をした。


「剣買いに行きたいのに……!」


「まぁまぁ、そんな焦るなって」

「でも剣……」

「腹減って力出ねぇだろ?」

「むぅ……」


 レオは頬を膨らませたまま店へ入った。


 中は香ばしい匂いで満ちている。


「うわぁ……」


 焼ける肉の匂い。


 スープの匂い。


 パンの香り。


 それだけでお腹が鳴りそうだった。


 カウンター席へ座ると、サイラスが店主へ声を張る。


「よし! おっちゃん! 肉くれ肉!」


「はいよー!」


 奥から威勢のいい返事。


 ジュウウウウッ!


 肉を焼く音が響く。


 その瞬間。


 ぐぅぅぅ……


 レオのお腹が盛大に鳴った。


「…………」


 レオは顔を赤くする。


 するとサイラスが吹き出した。


「はっはっは! なんだ、やっぱ腹減ってるじゃないか!」


「ち、違うもん!」

「腹の音すごかったぞ?」

「うぅ……」


 恥ずかしくて俯く。


 その時、近くの席の男たちの会話が耳に入った。


「なぁ、今日ウェルダン街に剣聖が来てるらしいぞ」


「本当か?」


「ああ、おれ見たんだ」


「マジかよ。なんでこんな所に来てんだ?」


「うーん……もしかして何か起きるんじゃないか?」


 レオはぴくっと反応した。


(剣聖……?)


 気になる。


 すごく気になる。


 だがその時。


「はいよ!」


 どんっ、と肉料理が置かれた。


「うおぉ……!!」


 レオの目が輝く。


 肉汁がじゅわっと溢れている。


「美味しそう!!」


「ほら、食え食え」


「いただきます!!」


 レオは夢中で食べ始めた。


「うまっ!?」

「はっはっは! そうだろ?」

「お肉やわらかい!」

「ここの飯は美味いからなぁ」


 バクバク食べる。


 サイラスが笑う。


「おお! レオ、いい食べっぷりだな!」


「だって美味しいもん!」

「その歳でそれだけ食えりゃ立派だ」

「もっと食べれる!」

「お、言うじゃねぇか」


 サイラスも食べ始めた。


 しばらくして。


「ごちそうさま!」


「食った食った」


 二人は店を出る。


「また来るぜ!」


「いつでも来な!」


 店主が手を振った。


 武器屋へ向かいながら、レオはさっきの話を思い出す。


「ねぇお父さん」


「んー?」


「剣聖って何?」


 サイラスは少しだけ考えるように頭を掻いた。


「剣聖かぁ……」


「強い人?」


「ああ。強いぞ」


「どれくらい?」

「そうだなぁ……」


 サイラスは空を見ながら答える。


「聖剣に選ばれた奴がなれる存在だ」


「せいけん?」

「特別な剣だよ」

「へぇ……!」


 レオは目を輝かせる。


「お父さんより強い?」


「…………」


 一瞬だけサイラスは黙った。


「……俺と同じくらいかもな」


「えぇ!? お父さんと!?」


 レオは驚いた。


 サイラスはレオにとって最強だ。


 そのサイラスと同じくらい強いなんて想像できない。


「それじゃあお父さんも聖剣使えるの?」


「ん? あ、あぁ! もちろんさ!」


 サイラスはなぜか少し目を逸らした。


「そ、そんなことよりほら着いたぞ」


「わぁ!!」


 目の前には武器屋。


 壁一面に武器が並んでいる。


 剣、槍、斧、短剣。


「すご……」


 レオは吸い込まれるように店へ入った。


「へいらっしゃい! どんな武器をお探しですか?」


「ああ、この子に合う剣を探してる」


「なるほどねぇ」


 店主はレオを見る。


「坊主、剣士目指してんのか?」


「うん! 最強の剣士になる!」


「ははっ、いい目してるなぁ」


 店主は一本の剣を持ってきた。


「それならこれはどうですかい? 黒曜石で出来た軽めの剣だ。このくらいの年ならちょうどいい」


「……!」


 黒い刃が光を反射する。


 レオは息を呑んだ。


「かっこいい……!」


 サイラスが笑う。


「ふーむ……俺はいいと思うな。レオはどうだ?」


「この剣めっちゃいい! これにする!」


「即決かよ!?」


「だってカッコいいもん!」


「はっはっは!」


 店主も笑う。


「坊主気に入ったみたいだな」


「うん!!」


「んじゃこれで」


「あいよ」


 サイラスは金を払い、レオは剣を受け取る。


 ずしり。


 重い。


 木刀とは違う。


「うわぁ……本物だ……」


 店主はおまけで鞘を付けてくれた。


「ほら、腰につけてやるよ」


「わっ!」


 カチャ、と腰に収まる。


 レオは何度も触った。


「かっこいい!!」

「似合ってるじゃねぇか」

「ほんと!?」

「ああ」


 その後もレオは店中を見回った。


「お父さんこれ見て!」

「ああ、デカいな」

「これ短い!」

「短剣だな!扱いやすいぞ」

「この武器変な形!」

「それは扱い難しいぞ」

「へぇぇ……!」


 そして夕方。


「よし、そろそろ帰るぞー」


「うん!」


 外へ出る。


 人がさらに増えていた。


「うわぁ……すごい人……」


「ああ。仕事終わりかもな。宿に向かうか」


 二人は人混みへ入る。


 だが。


「うぅ……歩きにくい……」


 人に押される。


 視界が大人の背中で埋まる。


 そして。


「あれ?」


 サイラスの姿が消えていた。


「お父さん?」


 周囲を見る。


 いない。


「どこ……?」


 不安になる。


 レオは人混みから逃げるように細い路地へ入った。


「お父さんー……?」


 その時。


 ガシッ。


「!?」


 腕を掴まれた。


 振り返る。


 吊り目の男が笑っていた。


「君ぃ、こんなところで何してるんだい?」


「えっと……お父さんを探してて……」


「そうかそうか」


 男はにやにや笑う。


「お父さんならこの先にいるから」


「え?」


 路地の奥を指差す。


 暗い。


 人気がない。


 レオは違和感を覚えた。


「……え? でも、お父さんはあっちに……」


「いやいや、こっちだって」


 ぐいっと押される。


「やだ!」


「おいおい、暴れるなって」


「離して!」


「大丈夫だって」


「嫌だ!!」


 男の顔が歪む。


「おいガキ!」


 ドゴッ。


「ぐっ……!」


 蹴られて倒れた。


腹に衝撃が走り、レオは地面へ倒れる。


「うぅ……っ」


「こんな路地に入ってきちゃダメだろ?」


 怖い。


 涙が溢れる。


「うるさいガキはお仕置きだ!」


 男が手を振り上げた。


 だが。


 その腕が止まる。


「おいおい……偶然路地を歩いてりゃ、こんな事になっているとはな」


 荒々しいが落ち着いた声。


 男の腕を誰かが掴んでいた。


「くっ……! 離せ!」


 男は暴れる。


 だが全く動かない。


「ここら辺が人身売買の拠点だな?……」


 男の顔が青ざめた。


 白銀の衣装。


 腰には、一目で“普通じゃない”と分かる剣。


 白い鞘には細かな紋様が刻まれている。


「そ、その服……その剣……!」


 男の声が震える。


「お前……剣聖……!?」


「……それがどうしたよ?」


 男の顔色が変わった。


「ヒィッ!? や、やめろ!!」


 レオは呆然と見上げる。


(この人が……剣聖……)


 男は必死に蹴る。


 だが剣聖は微動だにしない。


「うるせぇな」


 次の瞬間。


 男の身体が崩れ落ちた。


 気絶している。


 何をしたのか見えなかった。


 レオは涙目のまま剣聖を見つめる。


 安心。


 驚き。


 そして。


 胸の奥が熱くなるような憧れ。


 それを抱きながら、レオは白銀の剣士を見上げ続けていた。

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