6話 「ウェルダンの出会い」
よろしくお願いします。
………………
レオは、目の前の白銀の剣士をじっと見上げていた。
恐怖は、もう消えていた。
代わりに胸の中にあるのは、熱くなるような感情だった。
(この人が……剣聖……)
白銀の衣装。
腰に下げられた、見たこともないほど綺麗な剣。
それだけで、この人が普通じゃないと分かる。
剣聖はレオの方を見て、ぶっきらぼうに声をかけた。
「大丈夫か?」
「あ、はい! だ、大丈夫です!」
レオは慌てて立ち上がる。
「あの……ありがとうございます!」
「礼なんざいいよ」
剣聖はそう言いながら、気絶した男を足で軽く小突いた。
「ったく、ガキ攫おうとするとか終わってんな」
そして、ふとレオの腰を見る。
「あん?」
剣聖が目を細めた。
「お前……剣持ってるのか」
レオはぱっと顔を明るくした。
「はい! 今日お父さんに買ってもらったんです!」
「へぇ」
剣聖は少ししゃがみ込み、レオの剣を見る。
「黒曜石か」
レオは嬉しそうに頷く。
「はい!」
「良い剣選んだな」
「ほんとですか!?」
「ああ。ガキ用にしちゃ悪くねぇ」
レオはえへへ、と笑って剣の柄を撫でた。
剣聖は立ち上がる。
「んで、親父はどこにいんだ?」
「えっと……」
レオはしゅんとする。
「人が多くて逸れちゃって……」
「迷子か」
「迷子じゃないです!」
「いや迷子だろ」
「ち、違います!」
剣聖は少し笑った。
「まぁいい」
そして周囲を見渡す。
「本当なら一緒に探してやりたい所なんだが……ちょっとやる事があってな」
「やる事?」
「ああ」
剣聖の目つきが変わる。
「この辺に人身売買の拠点があるらしい」
「じんしんばいばい……?」
「人を攫って売るクズ共だ」
「……!」
レオは目を見開いた。
「じゃ、じゃあ悪い人達ってことですか!?」
「ああ」
「やっつけるんですか!?」
「まぁな」
その瞬間、レオの目が輝いた。
「み、見てみたい!!」
「……は?」
剣聖がギョッとした顔になる。
「いやダメだダメだ!」
「えぇー!?」
「危ないだろ!」
「でも剣聖さんの戦い見たいです!」
「ガキが見るもんじゃねぇ!」
「お願いします!!」
レオはぐいぐい近づく。
「絶対邪魔しません!」
「絶対って言うガキほど信用できねぇんだよなぁ……」
「ほんとです!」
「いや目がキラキラしすぎなんだよ」
剣聖は盛大にため息をついた。
「……はぁぁ」
頭を掻く。
「しょうがねぇな」
「じゃあ!」
「ただし約束だ」
剣聖は指を立てた。
「俺のそばから絶対離れるな」
「はい!」
「勝手に動くな」
「はい!」
「危ないと思ったら隠れろ」
「はい!」
「返事だけはいいな……」
そう言って剣聖は歩き出した。
レオも慌てて後ろをついていく。
しばらく裏路地を進む。
やがて、薄暗い古屋の前で止まった。
ボロボロの木の扉。
窓には板が打ち付けられている。
「ここだな」
剣聖が言った。
「ここに悪い人がいるんですか?」
「ああ」
剣聖は肩を鳴らす。
「今からここを蹴り破る。えーと……」
「レオです!」
「レオ、少し離れてろ」
「はい!」
レオはぱたぱた後ろへ下がる。
剣聖は扉の前へ立った。
そして脚を引く。
蹴り飛ばそうとした、その瞬間。
バンッ!!
扉が勢いよく開いた。
「死ねぇ!!」
中から男が飛び出し、剣を突き出す。
「!!」
レオは息を呑んだ。
だが。
剣聖は全く慌てない。
剣が刺さる寸前。
剣聖は手で剣の腹を撫でるように逸らした。
「なっ!?」
そのまま男の腹へ蹴りを叩き込む。
ドガァァンッ!!
男の身体が吹き飛び、部屋の奥へ突っ込んだ。
すごい音。
土埃が舞う。
「うわっ……!」
レオは少し怖くなった。
けれど目が離せない。
剣聖は平然と建物へ入っていく。
「おいおい」
肩を回しながら言う。
「いきなり攻撃するなんて卑怯じゃないか?」
部屋の中には男達がいた。
さっき吹き飛ばされた男を合わせて五人ほど。
剣聖は辺りを見渡す。
「なぁ」
低い声。
「ここ、人身売買の拠点で合ってるよな?」
「チッ……!」
「うるせぇ!!」
四人が一斉に飛びかかる。
剣が振り下ろされる。
レオは見ていた。
次の瞬間。
ゴォッ!!
風みたいな衝撃が部屋を走る。
「がっ!?」
「ぐぁ!?」
男達がまとめて吹き飛ばされた。
壁に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。
全員気絶していた。
「え……」
レオは呆然とする。
何をしたのか見えなかった。
剣聖は振り返る。
「おーいレオ? もう良いぞ」
「は、はい……」
レオは恐る恐る中へ入った。
床には悪人達が転がっている。
「すごい……」
「まぁこんなもんだ」
剣聖は縄を取り出した。
「とりあえずコイツらは縛っといて……っと」
ぐるぐる巻きにしていく。
レオは感動した目で見ていた。
「け、剣は使わないんですか?」
「あん?」
剣聖は辺りの壁や床を調べながら答える。
「んなもん使わなくてもいいくらい弱かったからな」
「やっぱり剣聖さんって強いんですね……!」
「この拠点なんもねぇな、あと剣聖さんって呼ぶな」
「え?」
「俺はギルバートだ」
「ギルバートさん!」
「ああ」
「ギルバートさん強いですね!」
「当然だ」
即答だった。
「俺は強いぞ」
レオは目を輝かせる。
「へぇ……僕もギルバートさんとか、お父さんみたいに強くなりたいなぁ」
「お前の親父も強いのか?」
「はい!」
レオは大きく頷く。
「すっごく強いです!」
「ほぉ」
ギルバートはレオを見る。
「お前、良い目してるな」
「え?」
「俺の道場に入れてやっても良いくらいだ」
「道場?」
「ああ」
ギルバートは胸を張る。
「俺は聖都で道場やってんだ」
「聖都!?」
「おう」
「すごい……!」
「もっと強くなりたくなったら来いよ」
ギルバートは笑う。
「歓迎するぜ!」
「ありがとうございます!」
その時だった。
「うぅ……」
一人の男が目を覚ました。
ギルバートを見る。
そして腰の剣を見る。
「……不屈の…剣聖……」
「お、やっと起きたか」
ギルバートはしゃがみ込む。
「なぁ、お前らの親玉ってどこだ?」
「し、知らねぇよ……!」
「あん?」
「俺達はただ、手紙で送られてきた仕事をやってるだけだ!」
「誰に売ってる?」
「知らん!」
「攫った後は?」
「指定された場所に縛って置いてるだけだ!」
男は震えながら答える。
「儲けがいいからやってるだけなんだよ……!」
「クズだな」
ギルバートはため息をつく。
「どこの拠点も同じかぁ……」
そして男を指差す。
「まぁ、お前らは衛兵行きだがな」
しばらくして衛兵達がやって来た。
「剣聖殿! ご協力感謝します!」
「はいはい」
ギルバートは適当に手を振る。
悪人達は連れて行かれた。
静かになる。
「さて」
ギルバートはレオを見る。
「俺の仕事は終わったし、ここで親父来るまで待ってるか」
「お父さんここに来るんですか?」
「まぁな」
「あ、あのギルバートさん」
「ん?」
「さっき、不屈の剣聖って……」
「ああ」
ギルバートは腰の剣を軽く叩く。
「俺の持ってる聖剣が“不屈の聖剣”って呼ばれてるからだ」
「なんで不屈なんですか?」
「知らん」
「え?」
「まぁ気にする事じゃ無いな」
その時だった。
「おーーいレオ!!」
遠くから父の声が聞こえた。
「あ!」
レオが振り向く。
「お父さん!」
サイラスが走ってくる。
「ったく! どこ行ってたんだ!」
レオは駆け出し、抱きついた。
「ごめんなさい!」
「心配したんだぞ!」
「でもねお父さん! 剣聖と会ったんだ!」
「……剣聖?衛兵と一緒じゃなかったのか?」
「うん」
レオが振り向く。
「あれ?」
だが。
そこにはもうギルバートの姿は無かった。
「いない……」
「どこ行っちゃったんだろ……」
サイラスは眉をひそめる。
「まぁいい! とりあえず宿屋行くぞ!」
「うん!」
レオは歩きながら今日の出来事を全部話した。
はぐれた後の出来事。
剣聖の強さ。
全部。
ーーーーーーーー
宿屋へ着くと、サイラスはどかっと椅子へ座った。
「はぁー……」
大きく息を吐く。
「レオ」
「ん?」
「あのなぁ」
父は真面目な顔になる。
「剣聖と一緒にいたのはまぁいい」
「うん」
「でも危ない事するんじゃねぇぞ」
「……ごめんなさい」
レオはしゅんとする。
サイラスは頭を掻いた。
「まぁ、戦いってもんがどんな感じかは分かっただろ」
「うん」
「それは勉強としてはいい事だ」
そして少し優しい声になる。
「怖くなかったか?」
レオは少し考えた。
「……ちょっと怖かった」
「だろうな」
「でも」
レオは笑う。
「ギルバートさんが守ってくれたから大丈夫だった!」
サイラスは少し笑った。
「そうか」
そして立ち上がる。
「今日はもう疲れただろ。寝るぞー」
「はーい!」
ランプの火が消える。
暗闇の中。
レオは今日の出来事を思い出していた。
ギルバートさんの圧倒的な強さ。
不屈の聖剣。
(僕もいつか……)
そんな憧れを胸に抱きながら。
レオはゆっくり眠りについた。
ありがとうございました。




