3話「ふわふわの誕生日」
話を考えるって難しいですよねー
よろしくお願いします
「――っ!?」
ボンッ!!!!
突然、家の中に爆発音のような音が響いた。
次の瞬間、白い煙がぶわっと広がる。
「わあああっ!?!?」
レオの悲鳴が響く。
顔中を真っ白にしたレオが、慌てて台所を走り回った。
「あちちちちっ!! 水!! 水ぅ!!」
涙目になりながら桶へ駆け寄り、そのまま顔を突っ込む。
ばしゃんっ、と水が跳ねた。
「ぶはっ……!」
顔を上げると、髪にも粉がべったりついている。
マルタは腹を抱えて笑っていた。
「なんでパンケーキ焼くだけで爆発するんだい、レオ君!」
「わ、わかんないよぉ……!」
レオは濡れた顔を袖でごしごし拭く。
焼いている途中、突然生地が跳ねたのだ。
何が悪かったのか、本人にもよく分からない。
マルタは笑いながらも、ちゃんとフォローしてくれる。
「はいはい、もう一回作るよ」
「うん……!」
レオは真剣な顔で頷いた。
今度は慎重に粉を混ぜる。
卵を割る時も、そーっと。
焼く時も、火加減を何度も確認した。
「そうそう、そのくらい」
「う、うん……!」
生地がじゅわっと焼ける音がする。
甘い香りが、ふわりと部屋に広がった。
ひっくり返す。
今度は爆発しない。
「……できた!」
丸く焼けたパンケーキを見て、レオの顔がぱっと明るくなる。
何枚か焼き終わる頃には、机の上に綺麗なパンケーキが並んでいた。
マルタは満足そうに頷く。
「よし。じゃあ味見してみようか」
「味見?」
「これはね、シロップをかけるともっと美味しいんだよ」
とろり、と黄金色のシロップがかけられる。
甘い香りがさらに強くなる。
レオはごくりと喉を鳴らした。
「……いただきます」
ナイフを入れる。
すると、スッと沈み込むように柔らかかった。
「わ……」
恐る恐る口へ運ぶ。
「――っ!?」
目を見開く。
しっとりとした生地が、口の中でふわっとほどける。
さらに、シュワッと溶けるような感覚。
今まで食べたことのない食感だった。
「お、美味しい……!」
思わず声が漏れる。
「でしょ?」
マルタは得意げに笑う。
「これはお姉ちゃんも喜ぶ!」
レオは嬉しそうに言った。
「マルタおばさんありがとう!」
「いいってことさ」
マルタは窓の外をちらりと見る。
「ほら、もう夕方じゃない。早くリアちゃんに渡してあげな」
「うん!」
レオは大きく頷いた。
パンケーキとシロップを大事そうに抱える。
「ばいばい!」
「転ぶんじゃないよー!」
レオは手を振りながら、マルタの家を飛び出した。
一方その頃。
バレット家では、父、サイラスが帰宅していた。
「おう! 帰ったぞ!」
扉を開けながら声を上げる。
「あら、お帰りなさい」
サラが台所から顔を出した。
サイラスは食卓を見るなり目を丸くする。
「うお、すごいなこれは」
テーブルいっぱいに、豪勢な料理が並んでいた。
肉料理にスープ、焼きたてのパンまである。
誕生日らしい華やかな食卓だった。
その時。
「ただいまー!」
勢いよく扉が開く。
ギリギリのタイミングでレオも帰ってきた。
「あら、おかえりレオ」
「ただいま!」
息を切らしながら席へ向かう。
これで全員揃った。
サイラスは笑顔で言う。
「それじゃあ――」
サラも微笑む。
「リア!」
「お誕生日おめでとう!」
家族全員の声が重なる。
リアは少し照れながら笑った。
「ありがとう!」
サラは優しく言う。
「リアの未来に、女神の祝福があることを願ってるわ」
「うん!」
リアは嬉しそうに頷いた。
そして皆で食事を始める。
賑やかな時間だった。
サイラスが肉を頬張りながら聞く。
「そういえばリア、聖職者になってどうするんだ?」
リアはぱっと顔を上げる。
そして目を輝かせながら言った。
「決まってるじゃない、お父さん!」
椅子の上で少し身を乗り出す。
「私が偉い聖職者になって、みんなに美味しいご飯を食べてほしいの!」
さらに勢いよく続ける。
「そしてバレット家は一生安泰! 毎日、聖都の最高級お肉が食べ放題!」
一瞬静かになって――
サイラスが大笑いした。
「はっはっはっ! リアは絶対すごい聖職者になれるぞ!」
大きな手で頭をわしゃわしゃ撫でる。
「そしてお父さんたちを助けてくれ!」
「ふふん!」
リアは得意げに胸を張った。
レオはそんな姉を見ながら思う。
(お姉ちゃん、ちゃんと皆のこと考えてるんだな……)
普段は意地悪ばっかりなのに。
少しだけ、すごいと思った。
そんなこんなで皆ご飯を食べ終える。
するとサラが、ふと思い出したようにレオを見る。
「レオ、ご飯の後に何かあるんじゃなかったっけ?」
「あっ、うん!」
レオは慌てて立ち上がった。
「実は……お姉ちゃんに食べてもらいたいものがあって……」
そう言って、隠していた皿を取り出す。
「じゃじゃーん!」
ふわふわのパンケーキが現れた。
「僕の手作りパンケーキ!」
リアはきょとんとする。
「何これ?」
サイラスとサラは感心したように声を漏らした。
「おぉ……」
「すごいじゃない」
レオは少し照れながら説明する。
「これはパンケーキっていう、最近聖都で流行ってるやつなんだ!」
そしてシロップを持ち上げる。
「これをかけて食べると、めっちゃ甘くて美味しいんだよ!」
とろり、とシロップをかける。
「お姉ちゃん、食べてみて!」
リアは少し警戒しながらフォークを入れた。
ふわっと沈み込む。
「……やわらか」
小さく呟く。
そして、そのまま口へ運ぶ。
「もぐ……」
数秒後。
「――!!」
リアの目が大きく開かれる。
「な、何これ……!」
驚いた顔のまま、もう一口食べる。
「すっごいふわふわ……!」
さらに頬が緩む。
「美味しい!」
ぱっとレオを見る。
「レオ、私のために作ってくれたの!?」
「う、うん!」
「ありがとう!」
リアは本当に嬉しそうに笑った。
レオは少し照れくさそうに笑い返す。
「お父さんとお母さんもどうぞ!」
二人にも取り分ける。
サイラスは一口食べて目を丸くした。
「なんだこれ、ふわふわだ!」
サラも驚いている。
「本当に美味しいわ……!」
レオはほっと胸を撫で下ろした。
(よかった……)
作ってよかった。
本気でそう思った。
リアはというと、
「ん〜〜っ!」
幸せそうな顔でパンケーキを頬張っている。
口いっぱいにしながら笑っていた。
そんなこんなで、賑やかな誕生日の夜は過ぎていく。
夜。
寝る前。
リアはベッドの上で本を読んでいた。
どうやらエリックから貰った本らしい。
「ねぇお姉ちゃん」
隣に寝転びながらレオが聞く。
「エリック君から何の本もらったの?」
「んー?」
リアはページをめくりながら答える。
「千年紀っていう昔話の本だよ?」
ちらりとレオを見る。
「まぁ、レオには難しいかもねー」
「むっ……」
レオは少しむくれる。
(僕だって読めるし)
そう思いながら後ろから覗き込む。
しかし。
「……ううん?」
眉をひそめた。
「お姉ちゃん、この文字何……?」
見たことのない文字だった。
リアはくすっと笑う。
「お母さんにも読めないんだから、レオに読めるわけないじゃない」
「え、お母さんにも読めないのに、お姉ちゃんには読めるの?」
「うん」
リアは当然のように頷く。
「私は天才だから」
ふふん、と得意げだ。
レオは言い返せなかった。
「……もう寝る」
ふてくされたように横になる。
リアは一瞬だけレオを見る。
それからまた本へ視線を戻した。
静かな夜だった。
その日、リアは誕生日を満喫したのだった。
ありがとうございました




