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1話 「まだ剣にならない日々」

お待たせしました!

1話です

そして次の日から――


 筋トレの日々が始まった。


 朝、まだ空気がひんやりしている時間に起こされる。


「起きろ、レオ」


 父の声に、眠たい目をこすりながら体を起こす。


「……ねむい……」


「剣士になりたいんだろ?」


「……なる……」


 半分夢の中のまま外に連れ出される。


 腕立て伏せ。


 最初は十回もできなかった。


「ほら、あと三回だ」


「む、むりぃ……!」


「できる!」


 淡々とした声に背中を押される。


 震える腕で、なんとか体を支える。


 腹筋、走り込み、そしてまた腕立て。


 朝が終わる頃には、腕も足も自分のものじゃないみたいに重くなる。


 昼は母の手伝い。


 水を運び、薪を割り、畑の世話をする。


「レオ、手を止めない」


「は、はい……」


 母は優しいが、手加減はしない。


 そして夕方。


 父が帰ってくれば、また軽い鍛錬。


 そんな日々が、繰り返される。


 何日も、何日も。


 最初は文句ばかりだった。


「なんでこんなことばっかり……」


 けれど、ある日気づく。


 昨日より、少しだけ回数が増えていることに。


 ほんのわずかな変化。


 でもそれが、嬉しかった。


(……強くなってる?)


 小さな実感が、レオの中で芽を出し始めていた。


 ――そして、月日が流れる。


 ある日の朝、父が言った。


「よし、レオ」


「なに?」


「そろそろ木刀に移るか」


 レオの目がぱっと明るくなる。


「ほんと!?」


 だがすぐに顔をしかめる。


「……え、まだ真剣はダメなの?」


 父は苦笑する。


「最強の剣士になるんだったら、基礎が大切なんだ」


「うぅ……」


 レオは不貞腐れたように頬を膨らませる。


 それでも、木刀を手に取った。


 向かったのは、村の外れの開けた場所。


 風がよく通る、広い空き地だった。


「まずは構えだ」


 父の声が、少しだけ厳しくなる。


「足の位置、腰、肩。全部つながってると思え」


「……こう?」


「違う。もっと自然に立て」


 何度も直される。


「振るぞ」


 ぶん、と空気を切る音。


 しかし――


「力みすぎだ」


「え?」


「力を抜け。剣は振るんじゃない、通すんだ」


 言葉は難しい。


 けれど、父の動きは美しかった。


 無駄がない。


 風そのものみたいに、滑らかだった。


 レオは何度も、何度も振る。


 ただ、真似するように。


 すると――


「おや、サイラス君」


 声がかかった。


 振り返ると、村長のオルセンが立っていた。


「こんなところで何をしているんだ?」


 父は軽く頭を下げる。


「ああ、オルセン村長。息子に剣を教えているところです」


「ほう!」


 村長はレオを見て、にやりと笑った。


「この村でサイラスの剣技を継ぐ者がいれば、安泰だな!」


 大きな声で笑う。


「レオ君! 父のような剣士になるんだぞ!」


「は、はい!」


 思わず背筋が伸びる。


 村長は満足そうに頷き、そのまま去っていった。


 再び静寂。


「ほら、続けるぞ」


「うん!」


 再び木刀を振る。


 何度も、何度も。


 気づけば、腕が上がらなくなるまで。


 夕方。


「お父さん……もう無理……」


 その場にへたり込む。


 腕は鉛みたいに重かった。


 父は笑う。


「はっはっは! まだまだだな!」


「うぅ……」


 悔しいけど、立てない。


「今日はここまでだ」


 父の一言に、ほっと息をつく。


 二人で家に帰る。


「あら、おかえりなさい」


 母が出迎える。


「ちょうどご飯ができたところよ」


 食卓に並ぶ湯気の立つ料理。


 その匂いだけで、疲れが少し軽くなる。


「今日な?レオが木刀を――」


 父が話し始める。


「へぇ〜やっと?」


 リアがにやにやする。


「うるさいな!」


「どうせすぐバテたんでしょ?」


「バテてないし!」


「はいはい」


「もう!」


「こら、リア」


 母がたしなめる。


 父は横で笑っている。


 そんなやり取りは、いつものことだった。


 笑って、怒って、また笑う。


 そんな日常が、続いていく。


 やがてレオは、一人で素振りをするようになる。


「もう姿勢も形になってきた。あとは数だ」


 父にそう言われたからだ。


 だが父は忙しくなっていた。


「最近、魔物が増えてきてる」


 そう言って、出かける日が増える。


 一人で木刀を振る時間が増えた。


 その日も、風の中で木刀を振っていた時――


「あの……」


 後ろから声がした。


 振り返ると、同じくらいの年の少年が立っている。


「レオ君だよね……バレットさんちの……」


「そうだけど。誰?」


「僕、エリック・レーン」


「エリック……あ、村長のところの?」


「うん! そうそう!」


 ぱっと明るく笑う。


「で、どうしたの?」


 するとエリックは少しだけもじもじしてから、


「実は……リアさんのことが好きなんだ!」


「……え?」


 一瞬、思考が止まる。


「もうすぐ9歳の誕生日でしょ? だからプレゼントしたくて……」


 レオはぽかんとする。


(え? お姉ちゃん?)


 思わず口に出る。


「なんであんなお姉ちゃんがいいの?」


「え!?」


 エリックは真剣な顔になる。


「あんなじゃないよ!」


「この前僕が怪我したとき、助けてくれたんだ!」


「優しくて、可愛くて……僕のお嫁さんにピッタリだよ!」


「……ふぅん」


 レオはなんとも言えない顔をする。


「だから、その……好きな物とか教えてほしくて」


「んー……本かな」


「本?」


「いつも読んでる。でも見せてくれないけど」


「そっか! ありがとう!」


 エリックはぱっと顔を輝かせる。


「やっぱりリアさんは素敵だなぁ!」


 そう言って走り去っていった。


 残されたレオは、苦笑する。


「……よく分かんないや」


 そしてまた木刀を振る。


 腕が動かなくなるまで。


 夕方、家に帰ると、いつも通りの光景があった。


 ご飯を食べて、体を拭いて、布団に入る。


 その夜。


 レオは苦しさで目を覚ました。


「……うぅ……重い……」


 上を見ると――


 リアが乗っていた。


「……なにやってんだよ……」


 押しのける。


 ごろんと転がる姉。


「んん……」


 寝ぼけているだけらしい。


「……ほんと、なんでこんなのがいいんだか」


 ぼそっと呟く。


 そしてまた、眠りに落ちた。


 明日もきっと、同じ日が続く。


 けれどその一日一日は、確実に――


 未来へと繋がっていた。

ありがとうございました

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