プロローグ「剣士を夢見た日」
よろしくお願いします。
基本はレオ目線です。
ここは聖国エリュシオン
その広大な領地の端に、ひっそりと存在する小さな村があった。
外れと呼ばれる場所だが、そこには人の温もりがあった。風は穏やかで、朝は鳥の声に満ち、夜は静寂が優しく降りてくる。
そんな村の一軒の家から、にぎやかな声が響いていた。
「レオ! 7歳の誕生日おめでとう!」
父の明るい声が響く。
「女神の祝福がある事を願ってるぞ!」
そう言って父は豪快に笑った。
母のサラも優しく微笑みながら頷いた。
「本当におめでとう、レオ」
レオは少し照れくさそうに頬をかきながら、
「……ありがとう」
と答えた。
すると、隣にいた姉のリアが前に出る。
「はい、これ。誕生日プレゼント」
「え?」
差し出されたのは、丁寧に編まれた手拭いだった。
母が優しく言葉を添える。
「リアが頑張って作ったのよ」
レオはそれを受け取り、じっと見つめる。
少し歪なところもあるけれど、それが逆に温かかった。
「……お姉ちゃん。ありがとう」
そう言って少し恥ずかしそうに笑うと、リアは満足げに腕を組んだ。
「当然でしょ?わたしの力作なんだから!」
その口元は、わずかに緩んでいた。
家族の笑い声が、部屋を満たす。
そんな和やかな空気の中、レオは少しだけ視線を落とした。
そして、言いづらそうに口を開く。
「あのさ……」
「ん?」
父が顔を向ける。
「そろそろ……僕も、お父さんみたいな剣士になりたい」
一瞬、静寂が落ちた。
父は目を丸くしたあと、ふっと笑う。
「そうかぁ。もうそんなこと言う年になったか」
そう言って、レオの頭を大きな手でわしゃわしゃと撫でた。
「なら、そろそろ教えてもいい頃かもな」
「ほんと!?」
レオの目が輝く。
だが、すぐに横から声が飛ぶ。
「えぇー? レオにはまだ早いんじゃないの?」
リアがからかうように笑う。
「そ、そんなことないって!」
レオはむっとして言い返す。
「僕、お父さんみたいに強くなるんだ!」
その言葉に、母が眉をひそめた。
「ダメよ。まだ早いわ」
「えー!」
不満を漏らすレオに、父が肩をすくめる。
「まあまあ、サラ。今日は誕生日だぞ?」
父に軽く抱き寄せられ、母はため息をついた。
「……もう、あなたったら。怪我させたら怒るからね」
「任せとけって」
父はにやりと笑った。
レオはそのやり取りを見て、胸が熱くなるのを感じていた。
――父は元Sランク冒険者。
名をサイラス・バレットと言う。
しかも、上位の剣技を使える数少ない剣士だ。
この世界には何を扱うにしてもいくつかの階位がある。
確か、下位、中位、上位……そして、そのさらに上の階位もあったはずだ。
名前までは覚えていない。
けれど――
(上位が、すごいってことだけは知ってる)
下位の剣技は努力で届く。
だが中位からは違う。
女神の祝福がなければ扱えない。
そして上位ともなれば、それは“選ばれた者”の証だった。
(お父さんみたいに……なりたい)
その想いは、もうただの憧れじゃなかった。
翌日。
朝早く、レオは父のもとへ駆けていく。
「お父さん! はやく教えてよ!」
父は準備をしながら苦笑した。
「おいおい、朝から元気だな」
「だって約束したでしょ!」
「まあな。でもな――」
父は剣を背負いながら言う。
「やることやってからだ。今日はゴブリン退治に行かないといけない」
「えぇー……」
レオは露骨に肩を落とす。
「じゃあ、待ってる」
「いい子だ。すぐ戻るさ」
そう言って父は出ていった。
その背中はやっぱり大きくて、かっこよかった。
――だからこそ。
レオはこっそり父の剣に手を伸ばした。
「……これくらい、持てるって」
ぐっと力を込める。
だが、
「う、うわっ……!」
剣は想像以上に重く、体がふらつく。
「ちょ、ちょっと! 危ないってバカ!」
リアが慌てて叫ぶ。
「だ、大丈夫だって……!」
必死に踏ん張るレオ。
その時、
「レオ!」
母の鋭い声が飛んだ。
「すぐに置きなさい!」
びくっとして、レオは慌てて剣を置いた。
「ダメでしょ!」
「……はい」
しゅんとするレオの横で、リアがくすくす笑う。
「ほらね、無理なんだって」
レオはじっと姉を睨んだ。
「……なんだよ」
「なに?」
火花が散りかけたところで、
「レオ、罰として今日はお母さんの手伝いね」
「えぇー!?」
その後、罰として母の手伝いをすることになり、半日が過ぎた。
リアはというと、本を読んでいる。
「ねぇ、それ何の本?」
「……どうせレオに言っても分かんないから」
「分かるし!」
言い返そうとした瞬間、
「二人とも、祈りの時間よ」
母の声がかかる。
「はーい」
二人は並んで祈りを捧げた。
レオはふと疑問を口にする。
「ねぇ、これって毎日やる意味あるの?」
リアが呆れたようにため息をついた。
「レオはバカね」
「ぬ!?」
「毎日祈ることで、選ばれた人が女神に役割を与えてもらえるの」
「役割?」
「そう。力の方向性みたいなもの」
リアは少しだけ真面目な顔になる。
「……わたし、お母さんみたいな聖職者になるのが夢なの」
「えー?」
レオはにやっと笑う。
「お姉ちゃんみたいな意地悪な人が選ばれるわけないよーだ」
「なにそれ!?」
再び始まりそうな喧嘩。
当然、
「はい、掃除!」
母の一声で強制終了。
そして夕方。
父が帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
父は疲れた様子で腰を下ろす。
「最近、魔物が活発になってるな……」
母が少し心配そうに言う。
「結界、貼り直した方がいいかもしれないわね」
「ああ……そうだな」
その会話を、レオはぼんやり聞いていた。
でもすぐに思い出す。
「あっ! ねぇお父さん! 剣!」
「ああ、そうだったな」
父は立ち上がる。
「よし、まずは――筋トレだ」
「え?」
「腕立て伏せ、いくぞ」
「えぇ!?」
レオの想像していた“剣の修行”とは違った。
だが、
「最強の剣士になるんだろ?」
「……うん!」
歯を食いしばって、腕立てを始める。
さらに走り込み。
気づけば体は限界だった。
その夜、レオは布団に入った瞬間、眠りに落ちた。
「ふふ……可愛いわね」
母が寝顔を見て微笑む。
リアはため息をついた。
「こんなんで最強の剣士なんて……何年かかるのやら」
その言葉に、父は静かに笑った。
「レオはなるさ」
確信に満ちた声で言う。
「最強の剣士にな」
小さな村の、小さな少年の夢。
それはまだ、始まったばかりだった。
ありがとうございました。




