12話 「それでも立ち上がる」
最近暑すぎますよね。
よろしくお願いします。
……勝てるわけがない。
レオは剣を構えながら、目の前の魔族を見つめていた。
エスターク・ノルギス。
その存在から放たれる圧力だけで、呼吸が苦しくなる。
手が震える。
足も震える。
体力はもう限界だった。
ゴブリンを何匹も倒した。
リアを背負って、馬車も使って、ここまで逃げてきた。
腕は重い。
足も動かない。
それでも。
(ここで倒れるわけにはいかない……!)
後ろではリアが倒れている。
だから。
なんとかしてお姉ちゃんを連れて逃げないと。
その思いだけがレオを支えていた。
その時だった。
握っていた剣が淡く光る。
「……っ!」
レオは大きく息を吸った。
肺いっぱいに空気を入れる。
そして。
剣を横へ構える。
脳裏に浮かぶ。
さっき放ったあの技。
自然と言葉が口をついた。
「聖律斬!!」
ザンッ!!
白い光の刃が放たれる。
夜を裂きながら一直線にエスタークへ飛ぶ。
しかし。
「ほぉ……」
エスタークは楽しそうに目を細めた。
「子供がここまでとは」
片手を前へ。
「上位魔法……リジッドシールド」
バチバチッ!!
透明な障壁が展開される。
次の瞬間。
ギィィィィン!!
激しい金属音が響いた。
光の刃が障壁へぶつかり、火花のような光を散らす。
そして。
砕けない。
突破できない。
やがて白い刃は霧散した。
「そんな……」
レオの声が震える。
エスタークは感心したように頷いた。
「子供にしては実に強力な聖律ですね」
「素晴らしい才能です」
褒められている。
なのに。
全く嬉しくない。
レオは後ろへ下がる。
倒れているリアを見る。
(お姉ちゃんはもう走れない……)
(ここでどうにかするしか……)
エスタークは穏やかな声で言った。
「それでは次は私が」
ゆっくり手をかざす。
赤い魔法陣。
空気が歪む。
炎が集まっていく。
一本の巨大な矢となる。
「上位魔法……フレイムアロー」
ヒュッ!!
炎の矢が放たれた。
「っ!!」
レオは咄嗟に飛び退く。
次の瞬間。
ドォォォォォン!!
背後で爆発。
土が舞い上がる。
熱風が吹き荒れる。
「熱っ……!!」
頬が焼ける様な熱風。
レオは歯を食いしばった。
(歯が立たない……)
(どうする……)
(逃げるには……)
その時。
地面に転がる袋が目に入った。
(あれは……!)
ダンが持っていた荷物。
レオの目が開く。
(これだ……!)
「エスターク!!」
「?」
エスタークが首を傾げる。
レオは全力で袋を踏みつけた。
パリンッ!!
次の瞬間。
ビカァァァァッ!!!
強烈な光が辺りを包む。
「うっ!!」
エスタークが思わず目を閉じる。
閃光玉。
馬車に積まれていたダンの忘れ物。
「今だ!」
レオはリアの元へ駆ける。
「お姉ちゃん!」
背負う。
立ち上がる。
走る。
もう足が限界だった。
肺が苦しい。
視界もぼやける。
それでも。
走るしかない。
「はぁっ……はぁっ……!」
だが。
ヒュルルルルルッ!!
風が唸る。
「!?」
ブワァァァッ!!
二人の体が吹き飛んだ。
「うわあっ!!」
ゴロゴロと地面を転がる。
レオは痛む体を起こした。
「いたた……」
前を見る。
そこには。
エスタークが立っていた。
そして笑っている。
「フハハハハハ!!」
楽しそうだった。
「まさか子供相手に先ほどと同じ手を食らうとは」
肩をすくめる。
「やはり慢心はしないと心掛けていても、してしまうものですね」
そして。
不適な笑みを浮かべる。
「そろそろ終わりにしましょうか」
再び手をかざす。
「上位魔法……フレイムアロー」
今度は一本ではない。
二本。
三本。
十本。
無数の炎の矢が空中に現れた。
レオの顔から血の気が引く。
「……え……」
逃げられない。
避けられない。
レオは思わず目を閉じた。
ドゴドゴドゴドガァァァァァン!!
凄まじい爆音。
地面が揺れる。
爆風。
土煙。
エスタークはゆっくり歩き出した。
「さて」
倒れているリアを抱き上げる。
「ん?何ですか、この植物は」
エスタークはリアが握っていた花を取って捨てる。
「少々心苦しいですが彼女も魔神様の元へ」
そして空を見上げる。
「ゴブリン達もそろそろ引き上げさせましょう」
「帰宅の時間ですね」
その時だった。
「……待て」
煙の中から声が響く。
エスタークが振り返る。
「?」
次の瞬間。
ギャァァァァン!!
白い光が飛来した。
速い。
「上位魔法……リジッドシールド」
素早く片手で障壁を展開する。
しかし。
バリィィィン!!
「なっ!?」
障壁が砕けた。
白い光がエスタークの横を通り抜けていく。
エスタークは目を見開く。
煙がゆっくり晴れていく。
そこに立っていたのは。
白銀の装束。
腰に下げられた剣。
静かな眼差し。
そして。
気を失ったリアを抱きかかえる男。
「…………………」
エスタークは黙って1人の男を見つめる。
男は周囲を見渡した。
燃える村。
立ち込める煙。
男は静かに呟く。
「……まさか、ここまで酷いことになっていたとは」
一方。
レオは咳き込んでいた。
「ゴホッ……ゴホッ……」
体を起こす。
「な……何が起きたんだ……?」
煙が晴れる。
その背中が見えた。
白銀の装束。
どこかで見たことがある。
そしてレオは思い出す。
(あれは……)
ウェルダン街で出会った。
誰よりも強そうだった。
あの男。
不屈の剣聖。
ギルバートが、そこに立っていた。
ありがとうございました。




