↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/15

11話 「燃える空の果てに」

よろしくお願いします。


「どりゃああああっ!!」


 レオは叫びながら剣を振り抜いた。


 ザシュッ!!


 斬り裂かれたゴブリンが悲鳴を上げる暇もなく倒れる。


 荒い息。


 震える腕。


 握る剣には血が付いている。


「はぁ……はぁ……」


 自分でも信じられなかった。


 さっきまで怖くて震えていたのに、今は少しだけ体が動いていた。


 何度かゴブリンに襲われた。


 だが、最初の一匹を倒した時よりも、ほんの少しだけ落ち着いて剣を振れている気がする。


(僕……戦えてる……?)


 もちろん怖い。


 今にも泣きそうだ。


 それでも。


 隣にはリアがいる。


 守らなければならない人がいる。


 だから立ち止まれなかった。


 やがて二人は村の外れへと辿り着く。


 そこから振り返った。


 そして。


 レオは息を呑んだ。


 黒い煙が何本も空へと昇っていた。


 燃えている。


 家が。


 畑が。


 いつもの景色が。


「……村が……」


 リアも呆然とその光景を見つめていた。


 優しかった場所。


 生まれ育った場所。


 それが今、炎と煙に包まれている。


 その時だった。


「ね……ねぇ……レオ……」


 リアの声が震える。


「なに?」


「足が……変かも……」


 その場に、へたり込んだ。


「お姉ちゃん!?」


 レオは慌てて駆け寄る。


 リアの足は震えていた。


「ご、ごめん……もう……歩けない……」


「ダメだよ!!」


 レオは叫ぶ。


「こんなところで止まったらダメだって!!」


 リアは申し訳なさそうに俯いた。


「……ごめんね……」


 レオは剣を鞘に戻した。


「おんぶするから!」


「え……?」


「早く!」


 しゃがみ込む。


 リアは少し躊躇った。


「でも……重いよ……?」


「いいから!」


 レオの声に、リアは静かに背中へ身を預けた。


「よし……!」


 立ち上がる。


 意外だった。


 リアは思ったより軽い。


 もちろん毎日鍛えてきた成果もある。


 だけど、それだけじゃない気がした。


(もしかして……聖律の力……?)


 そんな考えが頭をよぎる。


 だが今は考えている暇はない。


 走る。


 ただひたすら走る。


 やがて木に括り付けられた馬車が見えた。


「あった!!」


 レオはリアを荷台へ乗せる。


「お姉ちゃん、あと少し頑張って!」


「う……うん……」


 剣を抜く。


 ザシュッ。


 縄を切る。


(ダンさんが言ってた……)


 手綱を叩け。


 レオは震える手で縄を振り下ろした。


 パシン!!


 ヒヒィィン!!


 馬が鳴き、勢いよく走り出す。


 ガタガタガタガタ!!


 馬車が大きく揺れる。


 レオは必死にしがみついた。


(逃げるんだ……)


(とにかく逃げるんだ……)


 進む方向を見る。


 見覚えがあった。


(この道……)


(ウェルダン街へ行った時と同じだ……)


 少しだけ安心した。


 その時だった。


「……レオ」


 リアが小さく呼ぶ。


「ん?」


 振り返る。


 リアは荷台の隅に置かれていた花束へ顔を向けた。


「これは……なに?」


 そう言いながら、ゆっくりと手を伸ばす。


 指先は少しだけ花束から外れ、空を探るように揺れたあと、ようやく花びらへ触れた。


 まるで形を確かめるように、優しく指先を滑らせる。


 レオは少し照れくさそうに笑った。


「花束だよ。お母さんとお姉ちゃんに買ってきたんだ」


「……え?」


「ウェルダン街で」


「……そうなんだ……」


 花の香りを確かめるように小さく息を吸った。


「……………」


リアは少し間を置いてからぎゅっと花束を抱き寄せる。


「レオ…ありがとう…」


 レオも少し嬉しくなった。


 こんなことになってしまった。


 全部めちゃくちゃだ。


 でも。


 花を買っておいてよかった。


 そう思った。


 その瞬間ー--


 ゴオオオオオッ!!!


 空気が唸った。


「え……?」


 レオが振り向く。


 赤い光。


 巨大な火の玉。


「――!!」


 ドォォォォンッ!!!


 火球が馬車へ直撃した。


「きゃあああ!!」


「うわあああ!!」


 爆発。


 衝撃。


 木片が飛び散る。


 馬車が横転する。


 ヒヒィィィン!!


 馬が恐怖の声を上げ、どこかへ走り去っていく。


 レオは地面へ投げ出された。


 全身が痛い。


 息が苦しい。


「う……ぐ……」


 必死に顔を上げる。


「お……お姉ちゃん……」


 這うように近づく。


 リアも倒れていた。


「うぅ……」


「……よかった……」


 生きている。


 その時。


 静かな声が聞こえた。


「まさか、この私から逃げられると思っているのですか?」


 レオの背筋が凍る。


 ゆっくり振り返った。


「……っ!!」


 そこにいた。


 黒い装束。


 青い肌。


 頭に生えた角。


 村で見た人ではない人物。


「ま……まさか……」


 エスタークはため息をつく。


「あの人間に一本取られるとは不覚でした。」


 そして微笑む。


「やはり慢心はいけませんね。」


(あの人間……)


(ダンさんのことだ……)


 レオの胸が苦しくなる。


 エスタークは周囲を見渡した。


「おや?」


「ゴブリン達が聖律の力によって倒されたのを感知し、確認に来たのですが……」


 ゆっくりレオを見る。


「ただの子供だったとは」


「その幼さで既に女神から祝福を与えられているのですね」


 レオは震える手で剣を握った。


「だ、誰だ!!」


 叫ぶ。


「なんでこんな事するんだ!!」


 エスタークは軽く目を丸くした。


「ああ、失礼。」


「まだ名乗っておりませんでしたね」


 片手を胸に当て、優雅に礼をする。


「どうも」


「私、魔神の眷属」


「並びに世界理(せかいり)の十傑(じゅっけつ)が一席」


「エスターク・ノルギスと申します」


 その声は穏やかだった。


 まるで友人へ自己紹介しているかのように。


「本日はこの剣」


 手に持つ黒い魔剣を見る。


「断絶(だんぜつ)の魔剣を頂きに参りました」


 そう言って微笑む。


 炎の光がその顔を照らす。


 まるで全てが予定通りだったと言わんばかりの余裕。


 絶対的な自信。


 達成感。


 それらを隠そうともしない。


 レオは震えていた。


 怖い。


 逃げたい。


 でも。


 後ろにはリアがいる。


 だから。


 レオは震える足で立ち上がり、剣を構えた。


 その小さな姿を。


 エスタークは静かに見下ろしていた。


ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。