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10話 「聖なる光」

よろしくお願いします。


はぁっ、はぁっ……。


 肺が焼けるように熱い。


 喉が痛い。


 何度息を吸っても足りない。


 レオはダンが作った隙でリアの手を引いて逃げていた。


 そして燃え始めた村の中を走っている。


「はぁっ……はぁっ……なんで……なんでこんな事に……!」


 昨日までいつもの村だった。


 お母さんもいた。


 お父さんもいた。


 リアも笑っていた。


 なのに今は。


 家は燃え。


 人の叫びが響き。


 ゴブリンが歩き回っている。


 全部がめちゃくちゃだった。


「きゃっ――!」


 どさっ。


 突然、リアが転んだ。


「お姉ちゃん!!」


 レオは慌てて駆け寄る。


 リアは膝を押さえていた。


「はぁっ……はぁっ……い、いたいよぉ……もう……走れっ……ないっ……」


 見ると膝の皮が剥け、血が流れていた。


 震える指先。


 涙で濡れた目。


 レオの胸が締めつけられる。


「ダメだよお姉ちゃん!」


 レオは必死だった。


「ここから逃げなきゃ! 立って!」


 リアは苦しそうに首を振る。


「うぅ……私は置いていっていいから……」


「ダメだって!!」


 レオは叫んだ。


「逃げないと!!」


 自分でも驚くくらい大きな声だった。


「早く立って!」


 レオはリアの腕を掴み、半ば無理やり立たせる。


 震える手を握る。


「走るよ!」


 ぐいっと引っ張る。


 リアは痛みに顔を歪めながらも、小さく頷いた。


「……うん……」


 二人は再び走り出した。


 その時だった。


 ぎろり。


 道の先。


 一匹のゴブリンがこちらを見ていた。


 黄色い目。


 汚れた牙。


 棍棒を握る腕。


 レオの足が止まる。


(僕が……やるしかないのか……)


「レオ……?」


 リアの声が震える。


 レオはゆっくり剣を抜いた。


 黒曜石の刃が月明かりを反射する。


 父に教わった素振り。


 毎日の走り込み。


 木刀を振り続けた日々。


 全部が今、この瞬間のためにあった気がした。


「待っててお姉ちゃん。」


 レオは前を向く。


「このゴブリン、倒すから。」


 ゴブリンが棍棒を振り上げる。


「ギィィッ!!」


 駆け出した。


 レオへ向かって一直線に。


「うおおおおお!!」


 レオも叫びながら飛び込む。


 棍棒が振り下ろされるより早く。


 剣が閃いた。


 ざしゅっ。


 ゴブリンの上半身が斜めに裂ける。


 びしゃっ。


 生暖かい血が飛んだ。


 ゴブリンは目を見開いたまま倒れた。


 レオは息を荒げる。


「よ……よし……」


 震える手。


 だが勝った。


 レオは剣を収める。


「お姉ちゃん、行こ……」


「う、うん……」


 二人は再び走った。


 はぁっ、はぁっ。


 苦しい。


 村の景色は変わってしまっている。


 そして。


「あ……」


 見覚えのある家。


「マルタおばさんち……」


 だが扉は壊れていた。


 中からゆっくりとゴブリンが出てくる。


(マルタおばさんは……?)


 ゴブリンと目が合う。


 ぎろり。


「くそっ……!」


 レオは走り抜けようとする。


 しかし。


「ギィッ!!」


 ゴブリンが追いかけてきた。


(このままじゃ追いつかれる!)


 レオは振り返る。


「お姉ちゃん、僕の後ろにいて!」


 ゴブリンが棍棒を振り上げる。


 レオは地面を蹴った。


「うおお!!」


 剣が胸へ突き刺さる。


 ごりっと嫌な感触。


 勢いのまま剣を引き抜く。


 ゴブリンが倒れた。


 だが。


「はぁっ……はぁっ……」


 足が重い。


 体力が限界に近づいている。


 その時だった。


「きゃあ!!」


 リアの悲鳴。


「お姉ちゃん!?」


 振り返る。


 リアの足を別のゴブリンが掴んでいた。


 地面を引きずられている。


「は、離して!!」


 リアが必死に蹴る。


 ゴブリンがよろける。


 レオは迷わない。


「うおおお!!」


 剣を振り下ろした。


 びしゃっ。


 血が舞う。


 赤い飛沫がリアの頬にかかった。


「うっ……」


 リアは顔をしかめる。


 泣きそうな顔だった。


 レオは手を差し伸べる。


「お姉ちゃん、大丈夫!? 立てる?」


「う……うん……」


 再び立ち上がる。


「じゃあ行こう。」


 だが。


 二人の動きが止まった。


 そこにいた。


 何匹ものゴブリンがこちらを見ている。


「な……」


 レオの声が震える。


「なんで……こんなに……」


 リアが泣きながら言う。


「レオ……やっぱり私を置いていって……」


「え……?」


「その方が逃げられるでしょ……?」


「そんなのダメだよ!!」


「ダメじゃない!!」


 リアが叫んだ。


 レオは驚く。


 リアがこんな声を出すのは初めてだった。


「私がいいって言ってるんだから、一人で逃げて!!」


 涙があふれる。


「お願い……」


「レオが死んじゃうところ……見たくない……」


 レオの胸の奥が熱くなる。


 怖い。


 悔しい。


 怒り。


 どうしようもない現実。


 全部がぐちゃぐちゃだった。


(絶対に……)


 剣を握る。


「お姉ちゃん。」


 振り返る。


「僕は置いていかないよ。」


 ゴブリンたちが一斉に走り出した。


 その瞬間。


 暖かい。


 優しい。


 どこか懐かしい光を感じる。


 突然、頭の中に言葉が流れ込んできた。


 知らないはずなのに。


 なぜか知っている。


 口が自然に動いた。


「聖律斬!!」


 剣を横に振る。


 ザンッ!!


 白い光の刃が放たれる。


 大地を裂くように一直線。


 次の瞬間。


 ゴブリンたちの身体が真っ二つになった。


 どさどさと倒れていく。


 静寂。


 レオは目を見開いた。


「え……?」


 剣を見る。


「今の……感覚……」


 リアも震えていた。


「レオ……今……」


 だが立ち止まれない。


「いや……今は逃げないと!」


 レオはリアへ駆け寄る。


「お姉ちゃん、行こう!」


「う、うん……」


 ゆっくり立ち上がる。


 ぐいっと手を引く。


 だが。


「お、お姉ちゃん?」


「ご、ごめん……うまく歩けない……」


 リアの足は震えていた。


 レオは優しく言う。


「大丈夫。」


「ゆっくり行こ。」


 村の中ではまだゴブリンが家を漁っている。


 炎と煙が立ち上っている。


 二人は息を潜めながら進んだ。


「もうすぐ村から出るよ……」


 結界は完全に壊れていた。


(お母さん……)


(ダンさん……)


(みんな……)


 だが首を振る。


 今は考えるな。


 今は。


 逃げなきゃ。


 レオはリアを支えながら。


 村から出るために歩き出すのだった。

ありがとうございました。

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