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三ヶ月間 〜雨の日〜

放課後の教室。

今日は1日雨が降っている。


雨の日は嫌いだ。

じめじめするし、毛が湿気を吸って重くなる。


朝から空気がまとわりつくようで、気分まで鈍くなる。

制服はちゃんと乾いてるはずなのに、体に触れる感触がやけに気持ち悪い


……最悪だ。


ふと、横を見る。


カイカは、いつも通りだった。


「…お前、平気なのか?」


「なにが?」


「雨」


カイカは少しだけ首をかしげる。


「別に…なんでだ?」


「いや、じめじめするだろ」


カイカはさらに首をかしげる。


そういえば、こいつの毛並みはいつもと変わらない

……湿気を吸ってる様子が、まるでない。


少し気になって、カイカの首元に手を伸ばす。


「な、なんだよ」


カイカの事は無視して毛を触る。

”いつも通り”のサラサラふわふわしている毛並みだ。


触っていて心地いい…

カイカが僕の尻尾を触りたがるのも同じ理由かもしれない。


「お、おい」


気づけば、無心で撫で続けていた。

けど、雨の日になんでこんなふわふわなんだ?…


「そろそろ離せ!」


カイカに手を掴まれて、首元から引き離される。


「……触りすぎだ」


どこか落ち着かない様子で、カイカは視点を逸らした。


ふと、目に入る

カイカの尻尾は、いつもより大きく揺れていた。


「尻尾…動いてるぞ」


「…うるさい」


尻尾の動きは、まるで止まっていない。


僕は自分の腕の毛に触れる。

少しだけ、毛が重い。

やっぱり湿気を吸っている。


……なのに。


カイカに視線を戻す。


あいつの毛並みはやはり湿気を吸った様子がない。


「…お前、なんで平気なんだ?」


「さっきからなんだよ」


カイカが少し警戒した様子で返してくる。

いつも僕の尻尾を触ってるくせに…


「毛…湿気を吸ったりしないか?」


「……いや?」


カイカはまた首をかしげる。


「吸うものなのか?」


「うん…重く感じるだろ?」


カイカは本気で分かってない様子だ。

自分の腕に触れて、毛並みを確認している。


「変わんねぇな…」


やっぱり、こいつは少し変だ。

ていうか、ズルい…。


カイカと僕の違いは……


「……神獣種だからか」


気づけば、口に出ていた。


その瞬間。


カイカが、はっとしたようにこちらを見る。


――その目は、わずかに揺れていた。


驚きと、少しの動揺。

それから――ほんの少しだけ、悲しそうに。


「ごめん…不躾だった」


カイカは一瞬だけ黙る。


「……気にしてねぇよ」


ぶっきらぼうな声。


しばらくの沈黙。

雨の音だけが鳴り響く…。

空気が重い。


僕は重い空気に耐え切れずに席を立つ。

鞄を持ち上げる。


カイカは変わらずに席に座ったまま前を見ていた。


……これ、僕のせいか。


本人は「気にしてねぇ」って言う。

いつもなら、それで何も思わず帰るだけだ。


――だけど、なんだか心に引っかかる。


足を止めて、引き返す。


カイカの頭に、軽く手を乗せた。


「先に屋上行ってるぞ」


それだけ言って、教室を出る。




屋上への扉を開けると、相変わらずの雨だった。


仕方なく、階段に腰を下ろす。

鞄から本を取り出し、開く。


視線を落としかけて――止まる。


……カイカがいた。


カイカは何も言わず僕のすぐ隣に座る。


「さっきは…本当にごめん」


「はぁ…本当に気にしてないって」


小さくため息をつきながらカイカが言う。


「あっ…」


何か思いついたように、カイカの表情が変わる。


「どうした?」


「やっぱ、すごい気にしてる」


今更変なことを言ってくる。


「だから、お詫びに尻尾触らせろ」


…本当に変なことを言い出した。

けど、今回は僕が悪い。

大人しくカイカに尻尾を向ける。


カイカが尻尾に触ろうとする。


ーービクっ!


いつもと違う感触で驚き振り返る。

カイカの手にはーーブラシがあった。


「何してる…」


「ん?いや…毛並み、乱れてたから」


そういう問題か?


「はぁ…好きにしろ」


僕の尻尾にブラシが通される。

人にされるのが気持ちがいい。


……本に集中できない。


バレるのがなんとなく嫌で、本を読んでいるふりをする。


しばらくすると、カイカの手が止まった。


――いつもより、短い。


「……もういいのか?」


「ん?ああ、本がある」


カイカが自分の鞄から本を取り出す。


……珍しい。


いつもなら、寝るか――

僕の尻尾を触ってるか、なのに。


なんの本を読んでいるのか気になって、表紙に目を向ける。

……料理の本だった。


「何読んでるんだ?」


気になって、カイカに声をかける。


「ん? ああ……飯の本」


「珍しいな…」


「前にハンバーグ食べたいって言ってただろ?」


言った……確かに、言ったが。


カイカの本に、視線を向ける。


……雑誌なんかじゃない。


明らかに、専門書みたいなものを読んでいる。


横目で、少しだけ覗く。


……肉の配合、焼き加減、肉汁の閉じ込め方。


すごい細かな事まで書いてある。


……いや。


そこまでやるか?


ただのハンバーグだぞ。

ハンバーグってそこまで難しい料理だったか?


少しだけ、自分の認識を疑う。


少し呆れながら、窓の外に目を向ける。


相変わらずの雨。

じめじめして、空気が重い。


自分の腕に触れる。

やっぱり、少し重い。


……ズルいな。


小さく呟いてから、目を逸らす。


――やっぱり、雨の日は嫌いだ。

途中から雨要素がなくなってる気がする。

そして無理やり最後に出した気がする。

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