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双翼、想いを運べ  作者: 蒸気鳥
第十章 天空の宮殿を越えて、王都へ
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天球

 幾重にも連なる稜線を越え、三人はウルドを目指していた。既に王国領には入っているはずだが、帰ってきたという実感はテラには全くなかった。

 山はどれも表情、もとい山容が異なり、時折美しい滝がシルクのように山間を流れていた。だがまだイザヴェル山脈を認めることはできない。


「……この辺の湿地帯は『古戦場』って呼ばれてる」

「戦争でもあったの?」

「……あの並んだ二つの山、あれの神様が戦った場所って言い伝えられてる」

「何だ、おとぎばなしかよ」

「二柱の神様は力比べをしたかったみたい?」


 アストラは飛びながら山を指差す。一際高いその山脈は森林限界を超えているらしく植物が一切生えていない。剥き出しになった岩肌が連続し、人の立入を拒絶しているかのようだった。


「あの山はこの辺で一番高い。それぞれの尾根に名前がついてて、あっちからキレット、イドラピーク、コル地形、ウンブラ泣きと呼ばれてる。ちなみに、イドラピークの『イドラ』は著名な登山家で、そこで滑落死したからその名前がついた」

「イドラさんには不名誉な話だね……」

「余談だけど、ウンブラ泣きはウンブラ村の方に滑落すると十中八九死ぬから」

「確かに断崖絶壁だもんな。というか、あんなところ登るやついるのかよ……」

「帝国は登山家が多いからね。そこに山があれば登っちゃうみたいだよ?」


 名峰を越えようとしたところで、急に雲と霧が立ち込め始める。開けた世界が急に白けた世界へと変貌する。三人は雲を掻き分けるようにして飛行を続けた。


 ――それからどのくらい飛んだだろうか。

 突然、雲の先に影が差す。空の雰囲気がガラリと変わり、穏やかなそれが少しばかりの緊張を孕んだ。独特の『匂い』がする。それに真っ先に気づいたのは敏感なカエルムだった。


「ん……?」


 彼女は目を凝らす。すると前方に大きな影が映し出され始めた。


「……あれ」


 カエルムとアストラがほぼ同時に指を差し、テラも投影された影に気づく。


「あれって、もしかして……?」

「……うん。恐らく」



「――浮島だっ!」



 テラは一気に興奮して、頬を熱くして、思わず叫んだ。


「ほ、本当だったんだ……アヴィスさんの言ってたことは本当だったんだ!」

「あれが例の『浮島』ってやつか!?」

「……浮島は古代の技術で空に浮かぶ島のこと。その昔、まだみんなが強力な魔法を使えた頃に作られたんだって。気流に乗って彷徨ってるから出逢えたら幸運だね。ボクも初めて見るよ」

「すげぇ! 寄って行こうぜ!」

「私も行きたい! ……でもどう思う、アストラちゃん?」

「んー……」


 テラの問いかけにアストラは冷静を保ち、思案顔になる。腕を組んで口を噤んだまま唸っている。


「ボクも行ってみたい気はある。けど、浮島は古代の兵器だとか、魔術的な罠とか一杯あると聞くから、様子見ながら行こうか」

「了解!」


 三人は注意深く観察しながら浮島に向かっていく。次第に雲と霧が晴れ、その全貌が露わになった。


 広さは王都の宮殿ほどもない。すり鉢状の浮島は大理石のような石で形成されており、その上に小さな宮殿が載っている。

 ビムス村の郊外にあった古代の宮殿を彷彿させる、柱が立ち並んでいた。

 柱一つひとつに装飾や彫刻が施されているが、経年劣化なのか至るところが崩れたり欠けたり、色が抜け落ちたりしていた。屋根だけは崩れ落ちていなさそうだ。


 テラは思わず興奮する。浮島の話はアヴィスから何度も聞いたことがあった。だが世間的には、その遭遇率の低さから半ば伝承扱いだったし、こうして間近で本物を見られるとは思っていなかったからだ。


「うわぁ、凄い……ああ、本当に存在したんだ……っ!」


 テラの口から感嘆の声が漏れ出た。後光が差し込んでいるせいもあってか、浮島の神殿は神々しく、美しい純白に見えた。三人は浮島を回り込むようにして上空を旋回する。神殿の前には庭園らしき場所が見えた。もっとも、庭といっても植物の類は生えていないが。噴水の跡みたいな構造物もある。


「すげーな……空の上にこんな立派なものがあるなんて」

「今は廃れつつあるけど、昔はこんな風に魔法を使ってたみたいね?」

「何で魔法なんて便利なものが廃れたんだろーな?」

「……さぁ? 古代人に聞いてみたら?」

「聞かねぇよ! 聞けねぇよ!」


 アストラの先導で、三人は宮殿の前にある中庭に降り立つ。カエルムは開口一番に言う。


「ん? なんか、嗅いだことある匂いがするな……」

「匂い? なんの?」

「最近会った人の匂いがすんだよな……誰だっけ」

「……ここから先は何があるかわからない。用心」


 アストラはそう言うと軍刀を鞘から引き抜いた。陽光に照らされて刃が煌めく。テラもそれに倣った。カエルムは拳を打ち鳴らしてうなずく。


「それにしても、小ぢんまりとはしてるけど立派な建物だね」

「大きさ的に、祠みたいなものだと思う。以前帝国軍が調査で入った浮島は、もっと広くて大きかったって。報告書に書いてあった」


 軍靴を鳴らしながらアストラは神殿に入っていく。中は暗く、静寂が横たわっていた。

 三人が足を踏み入れると、人を感知したせいか、壁にかけられた燭台に火が灯る。仄かな灯りが闇を裂いた。


「わかった! この匂いは――」


 とカエルムが言った途端。

 カタカタと何やら音が鳴り、柱の裏から五体の骸骨が現れる。外套をまとい、手には錆びた剣を持ち、穿かれた眼窩(がんか)で三人を捉えている。

 髑髏からは表情を読み取ることができないが、明確な殺意が感じられた。


「何で骸骨が動いてやがる!?」

「あれもきっと魔法なんだよね?」

「……そうだね。魔法だね。あの剣で切られたら破傷風になりそう」

「心配するとこそこ!?」


 テラは剣先を骸骨兵に向ける。骸骨はそれに呼応するように、無音の(とき)の声をあげて剣を振り上げて飛びかかってきた。

 テラは剣でそれを受け、拮抗する。その隙にカエルムが靴底で骨盤辺りに重い蹴りを入れる。骸骨はよろけて一歩後退した。

 一方のアストラは慣れたように、飄々と攻撃を躱す。そして無駄な動きを削いだ剣術でもって頭骨を一閃した。致命傷を受けた骸骨兵は大理石の床に崩れ落ちた。間髪入れずにアストラは踏み込み、後ろにいた二体目の骸骨を薙ぎ払う。


「すげぇ、これが帝国軍人の剣術かよ……」


 カエルムの感嘆の声にアストラは答えない。二体目を追撃し、強靭な肉体をもってして三体目に取りかかっていた。

 その間、テラとカエルムは一体に集中せざるを得なかった。だが、テラは堅実に刺突を繰り返し、カエルムは蹴りを繰り出し、少しずつ相手を圧している。

 不格好ながらも剣身で攻撃を受け、防御した。テラはスミレ色の髪の合間から汗を散らして、カエルムは茶色のおさげを振って動き回る。


「ふっ!」

 攻撃に転じたテラの切っ先が肋骨を折った。骸骨は怯み、半身を翻す。


 カエルムはその隙に尾骶骨(びていこつ)を蹴り込み、骸骨は倒れ込んだ。

「テラっ! 今だ!」

「うん! 任せて!」

 テラは起き上がろうとした骸骨の頭蓋骨を穿つ。そのまま、敵は崩れ落ちた。

「えいっ! えいっ!」

 そして、テラは倒れて動くなった骸骨の頭を何度も踏みしめて砕く。その光景にカエルムは茶髪の隙間から汗を流した。


「テラ怖ぇ……」

「念のため、ね?」

 テラとカエルム組が一体を倒したところで、アストラは四体目の骸骨兵を倒した。

 果たして、骸骨は一体も残らなかった。


「……終わったね」

「この骸骨さんたちは一体何者なんだろう?」

「恐らく、浮島の『守護者』的なものだと思う。前に調査で入ったときも、同じような骸骨が襲ってきたらしいから」

「……そっか、私たち侵入者だもんね。何か悪いことしちゃったな」

「考えてもしゃーない。先に行こうぜ」


 テラ一行は先に進む。

 やがて神殿の最奥、広い空間に出た。吹き抜けになっており、空気が入り込んで空を一望できた。祭壇のようなものが広間の中央に鎮座している。

 その祭壇の中央辺り、古代遺跡に似つかわしくない生身の人影が、胡坐(あぐら)を掻いて座っていた。



「――やあ、テラ。待ってたよ」



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