帰路へ……
イモ―タリスの空が朝焼けで彩られた。
三人はほぼ同じタイミングで目を覚ます。テラは生あくびして、腕を伸ばす。寝返りもロクに打てず、さすがに体はカチコチだった。「ああクソ。寝不足だ」とカエルムは文句を呟く。
そして、アストラは目をこすりながら言う。その手には、昨晩まで白かったはずの羽根が。理由は不明だが、真っ黒に染まっていた。
「あれ、テラの羽根が黒くなってる?」
「何でだろう? 前にもあったんだよね」
「へえ、変わってんな? 不思議な羽根なのか?」
「……病気?」
「え!? 怖いこと言わないでよ!?」
「一度、病院に行った方がいいかも――ところで、宿代の支払いは割り勘?」
眠たげで覇気のないアストラの提案に、テラは両手を打ち鳴らして謝罪する。目をキュッと閉じた。
「ごめん! アストラちゃんお願い! 実は路銀なくしちゃって……ほら、カエルムも」
「ちっ。悪いが、一銭も金がねぇんだ」
「そうやってボクに貢がせて、絞り取るんだ……」
「一生のお願い!」
「まだ出会って一日とかなのに、ボクは都合のいい銀行みたいに使われるんだ……」
「この借りは必ず返すから!」
「……ま、いいよ。どうせ全部ドミヌスのお金だし、足りなきゃ領収書切ってもらうから」
「おい、いいのかよ? それって女帝に金を請求するってことだろ?」
「まかせて」
アストラは親指を立てて得意げに言う。テラとカエルムは少し不安になったが、どうせ帝都を離れれば咎められることもないだろう。
帝と血縁関係もあるみたいだし、あの軽口を叩ける関係なら本気の喧嘩にまで発展することはないはず。ありがたく、言葉に甘えることにした。
三人は部屋を出て、朝日を浴びて抑圧感から解放される。
「……さて、どこ行こうか」
「食糧と装備類がないから、調達したいんだよね。あと『スペス郵便局』で王都行きの荷物も回収したいし」
「携行食糧だね。じゃ、懇意にしてる雑貨屋を紹介するよ」
三人は『スペス郵便局』に寄ってサライから王都行きの荷物を受け取り、また重くなった配達鞄を肩にかけて、通りの商舗を回って買い出しに興じた。
「……これも買っちゃいなよ、乾燥肉。高価だけど味に深みがあって美味しい」
「……このメーカーのポーチは頑丈で使いやすいから何個か買っておこう」
「……ついでにこれも買っちゃえ。帝都名物の民芸品」
「お、『これ』も買おうぜ! 面白そうだ!」
「あ、あの、さすがにこんなに買っちゃうとドミヌス陛下に申し訳ない気が……」
アストラは「何が?」と言わんばかりに小首をかしげ、店主にドミヌス宛の領収書を切ってもらっている。
テラは苦笑いしつつ、心の中でドミヌスに謝辞を述べて会計を通る。
まだ牛皮の匂いが残る真新しいポーチに食糧を入れた。これで当分糖分には困らない。
「これで、準備万端だね。帝都もっと回りたかったなぁ」
「アタシももっと観光したかったな。こんな都会は初めてだったし」
「……また来ればいいよ。いくらでも紹介してあげる」
テラは見返り、京師を眺望する。石造りの建物が並ぶ帝都イモ―タリス。
どこまでも厳かな雰囲気で、王都のそれとは全く異なっていた。堂々とした佇まいはテラにとっては新鮮で魅力的、心惹かれるものだった。ここを心ゆくまで堪能できないのは残念でならなかった。
惜しみつつ、二人は精悍な顔立ちの城壁を越えていく。やがて帝都は小さく遠景となっていく。そして霞んで見えなくなった。
テラとカエルムは後ろ髪を引かれる思いで再び旅程に戻るのだった。帰路へと。




