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双翼、想いを運べ  作者: 蒸気鳥
第八章 帝都イモータリス
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アヴィスの翼

「…………えっ?」


「どうやらそなたは、何も知らずにのうのうと生きてきたようだな。まず両親の出会いに疑問を持たなかったのかえ? 高貴な身分の母親と、卑しい身分の父親が出会い、結ばれたことに」


 困惑し、思わず口が止まるテラの手前で、皇帝は厭味(いやみ)ったらしい笑いを浮かべて言う。


「お前の母親は『帝国でも有数の貴族』の出身だった。そんな彼女と、王国の貧民風情である父親の出会いを仲介し、文通を運んだのが当時翼人配達員だったアヴィスじゃ」


「あやつは『想いを運ぶ』などと(のたま)い、帝国が誇る高潔な翼人貴族と、スラムの犬とを手紙で結んだのじゃ。身分制度にそぐわないと再三に渡って警告はしたが、ついに二人が契りを結ぶときまで文通を運ぶのを止めやしなかった。だから、『反逆罪』で裁いてその翼を切り落としたのだ」


「高貴な翼人と下賤(げせん)な獣人を結んだのは、アヴィスだったのじゃ。もっとも、そのせいで当家は失墜し、没落したが。『身分を超えた愛』などと言えば聞こえはいいが、結果大勢の人間を裏切り傷つけることになったのじゃ」

「そ、そんな……お父さんとお母さんの仲を取り持ったのは、アヴィスさんだったんですか……?」

「そうじゃ。その後、アヴィスと切り落とした翼は行方不明になっていた。妾はてっきり死んだものと思っていたが……どうやら、そなたの両親が『恩人』として庇っていたようじゃな」


 ようやく、血縁関係のないアヴィスがテラの家に居候していた理由がわかった。

 両親は、自己犠牲の果てに二人を結んだアヴィスに、感謝と罪悪感の両方を抱いて彼女を(かくま)っていたのだろう。

 きっと、アヴィスもそれを受け入れるか迷っただろう。あの性格だから。


「それにしても、なんとも奇怪な姿よ。父親譲りの獣耳に、母親譲りの双翼。まるでキメラのようだ」

「き、キメラ……」


 テラは途端に悲しくなった。うつむき、誹謗に耐えるように口をキュッと結ぶ。

 確かに自分は獣人と翼人の混血だ。でも、だからといってウルドでは差別されることはなかったし、自分のそれが嫌だと思ったことは一度もなかった。むしろ誇っていた。


 ――しかし身分制度に限って言えば、帝国は王都よりも遥かに厳しかった。


 テラが悲しみに暮れたのは、自分がキメラ呼ばわりされたこともある。

 だがそれよりも、貧民生まれの父親が、翼人貴族の母親が、そして大切な両親を繋いでくれたアヴィスが悪く言われている方がよっぽど辛かった。

 するとそんな彼女の気持ちを汲んで、カエルムとアストラが強気の表情で矢面(やおもて)に立ってくれる。二人はドミヌスに凄んだ。


「おいおい。皇帝サマよ。その言い方はあんまりじゃねーの?」

「同感。テラと家族の出自を酷く言うのは、ボクとしても肯定できない」

「……ふむ」

「アタシは出自とか、血脈とか、関係ねぇ。そしたらアタシは『土人』だからな。しかも森の中でひっそり暮らしてた、未開の地の少数民族だ! ある意味貧民よりタチが悪いからな!」

「でも、ボクは貴族の出だよ?」

「あ、てめっ! 裏切ったなアストラ!」


 そんなやり取りを見ていたドミヌスは、次第に侮蔑(ぶべつ)の表情を解いていく。

 そして柔和(にゅうわ)な表情を浮かべると、穏やかな声に切り替えて謝罪した。

 感情の起伏が激しく、どっちが『本当の』彼女なのかテラは終始わからなかった。


「…………すまなかったな、テラ。妾はお前の母親と仲が良かったのじゃ。小さい頃から遊び相手だった。だから、どこぞの馬の骨とも知らぬ獣人に彼女を連れていかれるのが気に食わなかったのじゃ」

「……お気持ちはわかります。でも、アヴィスさんと、お父さんお母さんをこれ以上悪く言うのはやめてください。みんな私の『生みの親』で『育ての親』なんです……痛いです。苦しいです。とても」

「すまなかった。……あやつは確かゴブリンの肉が好きだったな。土産に干し肉でも持たせてやるか。ご両親にも、アヴィスにも、よろしく伝えておいてくれ」

「……かしこまりました」


 ――ようやく三人(主に二人)は重圧から開放された。テラは震える手に金色の封筒と手土産の干し肉を携えて、宮殿の回廊を歩く。封筒はいかにも高級そうな紙質で、まさしく逸品。銀の薔薇模様があしらってあった。

 テラは気苦労からか顔に影が差し込んでいた。が、それを隠そうとして気丈に振舞う。


「気になったんだけど、アストラちゃんと皇帝陛下はどういう関係なの?」

「……? 従姉妹(いとこ)だけど」

「い、従姉妹? 皇帝陛下と?」

「うん。ボクは皇帝陛下の親戚」

「お、畏れ多い……」

「気にしなくていいよ。軍隊にいるときはボクも一兵卒に過ぎないし。と言っても、この身分のお陰でこうやって自由に動けてるけどね」


 アストラは意に介していない様子だった。


「……ところでテラとカエルム。この後はどうするの?」

「あっ、夕ご飯食べたら今日は休んで、明日帝都を立つつもりだよ」

「わかった。じゃ、帝都の中でも一番美味しいゴブリン料理店を紹介するね。ドミヌスから貰って旅費で祝賀会にしよう」

「お、畏れ多いよ……」「ふう! 陛下ったら太っ腹!」

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