イモ―タリス
飛びながらアストラがテラの顔を覗き込んできた。
「さて。無事に帝都イモータリスに着いたわけだけど、ここから先案内は必要?」
「できれば欲しいところだけど、それだとアストラちゃんに迷惑かけちゃうから」
「……ほんとに?」「う、うん」
「……良いの?」「えっと」
「……帝都は広いよ?」「あ、あう」
アストラはぐいっと顔を近づけ、灰色の瞳で覗き込んでくる。
テラは単純に冷徹だと思っていたアストラが思いの外人懐っこくて少し驚いた。
「アストラは素直じゃねーな。正直に案内したいって言えばいいのに」
「……じゃ、カエルムがついてきて欲しいみたいだからついてく」
「何でそうなる!」
「ボクは任務の関係で一度軍の詰所に行かないといけないから、テラはその間に郵便局に行くといいよ。『スペス郵便局』だよね?」
「うん! わかった、ありがとう!」
「じゃ、またあとで」
アストラは郵便局がある辺りを指差すと、二人に背を向けて空を滑っていく。
様々な高さの建物が存在する帝都だったが、飛び抜けて背の高い塔がいくつかあり、それが軍の詰所のようだった。
テラは『スペス郵便局 帝都支局』の看板を見つけ、ゆっくり旋回しながらポーチの金具を鳴らしながら降下していく。
ふわりとスカートを翻して着地し、服の汚れを払ってから郵便局の扉を開けた。カエルムも続いた。
「いらっしゃいませ……あら?」
「こんにちは、初めまして。王都から来ました!」
「あら、新人さん? ノエル以外の人が来るなんて珍しいわね。しかも若い女の子が二人も!」
受付に立っていたのは、亜麻色髪のエルフ女性だった。色白な肌に黄色の瞳、スラッとした立ち姿で、白衣に身を包んでいる。彼女は手を広げて二人を歓迎した。
「私はサライ。よろしくね!」
「私はテラで、こっちがカエルムです」
「まぁ、二人ともこんなにボロボロになっちゃって……」
「話すと長いんですが、道中色々ありまして。とりあえず伝票と荷物お渡ししますね」
テラはカウンターにとりあえず全ての荷物と伝票を広げる。久方ぶりに配達鞄の中身が軽くなった。
「ありがとう。じゃ、一個一個確認していくわね。これは王都行きで……」
「あ、荷物は全部私が運ぶので!」
「いいの? それじゃ、お願いしようかしら。みんな出払ってて、配達できる人がいないのよ。いかんせん人手不足でね……」
「あはは……『スペス郵便局』はどこも人手不足なんですね」
「へぇ。こんな大層な制服だからさぞかし大きな郵便局なんだろうと思ってたぜ」
テラは思わず微苦笑する。ウルドで働く副所長は無事だろうか。なんせ彼女は今、自分とアイリスの分まで仕事をこなしているのだから。
アイリス……彼女のことを思い出すと胸が痛んだ。彼女は、無事だろうか……?
サライが荷物を仕分けている間に、扉が開いてアストラが入ってくる。
「……配達? ボクも手伝うよ」
「ありがとう、アストラちゃん!」
サライから荷物を受け取り、テラはそれを配達鞄に戻す。
それからサライに丁寧に地図で目的地を指してもらい、アストラと確認する。ウルドのそれも複雑だが、帝都の道路事情は度を増して複雑だった。
テラは思わず顔をしかめた。実は地図とかそういうのはあんまり得意ではない。
――それから、テラとカエルムとアストラの三人は離陸した。白鳩の群れと共に飛ぶ。
帝国の空は王都と違って透き通ってはいなかった。独特の鉄臭さや煤煙みたいなのを感じた。だがそれに関してもテラにとっては新鮮で、目新しいものだった。
テラは眼下に広がる異国情緒を目の当たりにする。市場に並ぶ新鮮な野菜も王都のものとは姿形が違う。料理店の店先で出される料理も見たことないものばかりだった。
そこは王都と違ってすべてのスケールが大きかった。建物も、街路も。
「うわぁ、広いね!」
「王都はこんなに広くないのか?」
「うん。こんな広い場所はないかなぁ」
「王国って田舎で手狭なんだな!」
「うぐ……」
返す言葉がなかった。確かに、帝都の繁栄のそれと比べれば、イザヴェル王国のそれなんて可愛いものだ。
帝国の建築様式は王都のそれと随分違う。古代に建てられたであろう大理石の建造物に、鉄骨の補強や柱を組み込んでおり、いかにも無骨な風貌をしている。王都の柔らかな印象ではなく、どちらかというと冷たい無機質な感じがした。
テラたちは建物を調べながら活気溢れる市場を抜ける。すると、今度は視界が開けて大きな広場に出た。中央には偉人と思しき巨象が屹立し、帝国の長い歴史を空想させた。




