彼女がいなくとも時は進む
「こんにちは、配達です!」
「あらテラちゃん。今日も十数分遅れで届けてくれてありがとう。お礼にニンニク持って行って頂戴!」
「ありがとうございます、セミタさん! 皮肉を検知しました!」
「冗談よ! アイリスちゃんがいなくなって大変なんでしょう?」
「そうなんです。担当地区が増えて、なかなか思い通りに配達できないんです……」
あれから三日。アイリスの『自信を持て』という言葉に奮起されたテラは、以前に増して仕事を頑張っていた。持ち前の速さを生かして仕事に打ち込んでいた。
アイリスが以前担当していた区域と、元々自分が担当していた地区とを、一日で回るのは決して容易なことではない。でも、テラは一生懸命にこなしていた。
すると、セミタは少し影を帯びた表情で尋ねてきた。
「……ねぇ、テラちゃん。ちょっと『治安的に危なくなってる場所』に配達をお願いすることってできるかしら? ギオン村って、私の姉が住んでいる村なんだけど」
「大丈夫ですよ! 便箋と封筒いりますか?」
「じゃあ頂戴。――あのね。ギオン村って、どうも最近ゴブリンとの紛争があったみたいで、かなりの犠牲者が出てるみたいなのよ」
「王国領でそんな物騒なことが起きてるんですか?」
「そうなのよ。それで不安だから姉にはウルドに引っ越してきて欲しいんだけど、プライドがあるのか、頑なに村を離れないの」
「それは心配ですね……」
「だからもう一回説得する手紙を送りたいのだけれど……姉のサリアはなんせ頑固だから。せめて……『今までの感謝』だけでもを伝えたくて」
重い言葉だった。珍しく沈痛な表情のセミタは便箋に筆先を向ける。時折止まっては、思考して、前の行を読み返して文面を書き進めていった。
テラはそんな様子を穏やかな顔で見つめる。急がせるわけでもなく、静かに。
セミタは手紙を書き終えたらしく、何度かそれを見返してから封筒の封を閉め、それをテラに手渡した。
「じゃ、これをギオン村に送って頂戴。お代はこれね」
「はい、承りました! セミタさんの『想い』はきちんと運びますね!」
「どうかお願い! 私の姉サリアに、私の気持ちを伝えてあげて!」
――テラは手紙を配達鞄に収めると、飛び上がって次の目的地を定める。
「次、エスケスマンションのヨウムさんだね。その前にお昼休憩しようかな?」
彼女は目的地の途中にある露店でお気に入りのハムサンドイッチを買い、やはりお気に入りの時計塔の屋根で昼食を摂る。
銅板屋根に登ると、どこまでも青天井が広がっていた。遠くには白んだイザヴェル山脈が聳えているのが見える。どこを取っても、このウルドは風光明媚だった。
「……アイリスちゃん、今どの辺飛んでるのかなぁ」
「もうイザヴェル山脈超えたかな? アイリスちゃん優秀だから、もうノウェイ村辺りまで行ってたりして」
「早くお土産話聞きたいなぁ……!」
彼女との思い出が脳裏を巡る。
テラはアイリスのことを想うと、居ても立っても居られなくなって、サンドイッチを一気にパクつくと、そそくさと仕事に戻るのだった。




