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座敷童になるとは思うまい  作者: 猫野住処
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第十一話 河童と私

 「ぅぅわわああああああ、あんた誰?! 何? カッパ!?

 ジャパニーズ・KAPPA!?」

 

 今日のハイライト。

 ふとっちょ河童が洗面器で泡風呂してた。

 

 ハスキーボイスがお風呂場に響いていたため、お姉様なのかお兄様なのか判断に迷うところが、またね、こう……うん。

 ふくよかで肌が緑色なとこまでは把握できた。

 シャンプーハットにも似た頭部の飾りは、俗にいう河童のお皿部分なのだろう。多分きっと。

 

 ベティさんというらしい河童さんとは、後ほどご挨拶しなければならないようだ。

 足早に浴室を辞したのち、ネロ様がいないことをイイことに、餌回りにあった猫ベッドにぐったりと身を預ける。

 よくある、足のないソファみたいなアレである。意外と居心地いいなー。はぁ。

 

 「そこまで驚きましたか? かの方は河童のベティ様です。

 お風呂を融通したり交流を持ったりする代わりに、水回りの管理をしていただいています」

 

 「めっちゃ驚いたわぃ! 河童って実在してんのかい!?」

 

 「実在しておりますが、あおい様の世界にはいらっしゃいませんでしたか?」

 

 昔話には聞いていたり、川の近くには必ず『ここあぶない』みたいな看板があって、そこには河童の絵が書かれているイメージだ。

 尻子玉っていう何か河童の好み特有の謎玉を人から搾取したり、お酒が好きそうなイメージが定着していたり。

 メジャーな妖怪として認識してはいたが、実物は見たことない。

 

 「イメージはあったけど、実物を見たのは初めて。

 そもそも、座敷童本人になるのも初めてだしなあ」

 

 そういうと、こたっちゃんは困った顔をして、眉尻を下げた。

 

 「ネロ様や私、せとさんに対してはそれほど驚いてなかったので、殊更驚かれたことに私が驚かされましたよ」

 

 だって、いてもお風呂の精とかだと思ってたけど、まさか河童だとは思うまい。

 

 「いや、あんまりにもガチで河童だったから、インパクトが大きかったというか。

 まあ、ネロ様の環境が思ったほど悪くなかったから、ほっとして、じゃあお風呂でも入ってゆっくりしちゃっても良く無くない? とか思ってたりした矢先で、気が緩んでたのは否めないかな」

 

 等と、意味不明な供述をしている私を見て、こたっちゃんは小さくため息をついた。

 

 「ため息つくと、幸せが逃げるよ?」

 

 「では、その分の幸せを座敷童様が補充してくださいな」

 

 「幸せの補給とかも仕事なの?」

 

 元の世界では、座敷童はいるだけで幸運がその家に舞い込んでくる、みたいなイメージだったけど。

 こっちでは私がせっせと幸せを集めてきて、みんなに配ったりしないといけないのだろうか?

 

 「いえ、言葉の綾ですよ」

 

 違うんかいっ。こたっちゃんなりのジョークなんだろうか。

 まだ座敷童的お仕事できてないので、うまく理解できないのだ、ごめんよ。

 返答に困っていると。

 さてと、こたっちゃんは手を一つ打った。

 

 「まずはベティ様とのお茶の席を整えましょう」

 

 そういって、こたっちゃんはテキパキと働き始めるのであった。

 

………

……


 ごろごろしているだけと言うのも、気が引ける。

 私は、スマホのメモ帳を開いて、こちらの世界で新しく知ったことなどを箇条書きにしていた。

 

 ・ネロ様(猫)、こたっちゃん(こたつ)、せとさん(PS5)、ベティさん(河童兼水回り?)

 ・家主はようきとこはる(爆発しろ)

 ・座敷童は地脈を整えるのに、霊力をなんやかんやする

 ・超常現象(自分向け)使うには、練習が必要。しなくても良いけど、その場合めちゃ体力使う

 ・必要物資の確保方法

 ・ゴミ撤去のために何をするか

 

 こんなんで大丈夫かなあ。

 まあ、覚書だから、また追記しようそうしよう。

 

 そうこうしているうちに、お茶の準備が整ったようだ。

 私たちサイズのミニこたつが用意されていた。

 天板の真ん中は、瑞々しい橙で彩られている。美味しそうなミカンだー、でもやっぱり縮尺、変。妖精版ミカン農家がいるんだろうか?

 あとでこたっちゃんに聞いてみないとなあ。

 

 リビングダイニングはフローリングもどきなのだが、こたっちゃんの采配により、こたつの下にはカーペットが敷かれていた。

 座布団も人数分用意されており、歓待の準備は完璧であった。

 こたっちゃんGJ!

 いそいそとこたつに入り温まっていると、お風呂場からベティさんがやってきた。

 

 

 頭上のお皿が冠のように煌めき、深い紺色の衣には星々が幾色にも光り輝いている。

 ふわりと軽やかさを感じさせるその布は、シルクのスカーフを元にしているのだろう。布地の艶やかさが、それぞれの輝きをさらに引き立てつつ、全体をまとめている。


 うーん、実にファビュラス。

 

 この単語がしっくりくる存在は、ベティさんを置いて他にはいないだろう。

 つか、そのスカーフどっから調達した? こはるの趣味とは違う感じ。セレブ仲間がいたりするのだろうか?

 

 「お待たせしちゃったわねん。お招きありがとぉ。

 私は河童のベティよ。改めてよろしくね、キトゥンちゃん」

 

 「あ、うえっと。初めまして……です。私、天野愛生って言います。まだ不勉強でして、色々お世話になります」

 

 「あらやだ、もぅそんなに畏まらなくてもいいのよん。

 困ったらお互い様、分からないことがあったら、いろいろ教えて、あ・げ・る」

 

 口癖なのだろうか、甘いハスキーボイスで優しく話しかけてくれるベティさん。

 目は円らでありながらも、お化粧が上手なのか目力がある。

 くちばしも艶やかで、リップ……的な? お手入れしているのだろう。ぷるんというかきらんというか、あれだ。

 綺麗系女優がリップのCMで見せるキメ顔に擬音を付けた時の、あのきらきらをビシバシと放っている。

 

 圧がすごいよ、圧が!

 

 「お話しの合間になりますが、そろそろお茶菓子をどうぞ」

 

 こたっちゃん、ナイスタイミング。空気の読めるこたつの精素敵。

 そんなことを思いながら、お茶菓子が用意される様子を眺める。

 

 小さなお盆がどこからともなく取り出されたと思ったら、その上にはデザートが彩りを添えていた。

 一つは緑色のロールケーキだ。中身のクリームに粒あんが入っているのだろう。

 もう一つは小豆色とクリーム色が二層に分かれた、つるんとしたプリンだ。

 更にもう一つ。小さなあんころ餅が三つずつ。一つは小豆、一つはきな粉をまぶしたものだ。一口サイズで、ころころとした見た目は素朴であるが、確かな美味しさを体現している。

 

 「では、いただきましょう」

 

 ベティさんにロールケーキ、私にはプリン、こたっちゃんにはあんころ餅が供された。

 それぞれに温かいお茶も配られる。

 

 「ありがとぅ、いただきます」


 「わーい、いただきます!」


 「どうぞ召し上がれ、私もいただきますね」

 

 プリンを一口掬い、口元へ運ぶ。至福の時だ。

 つるんと喉を通る、クリーム部分が私の頬を緩ませる。

 美味しい!

 更に小豆部分を底から掬ってきて、はむり。

 あー、小豆の味が優しいぃー。

 

 そして、お茶を一口。ずずー。

 

 お茶の苦みが、甘さを抑えつつも、すっきりと調和して。

 美味い!

 

 その後、ベティさんにロールケーキを手ずから一口分けてもらったり、こたっちゃんにあんころ餅の味違いを一つずつ分けてもらったりした。

 プリンは二人とも既に食べたことがあるとのことで、一皿まるまる食べさせてもらった。

 もらってばっかりで申し訳なく思ったけど、二人とも快く譲ってくれたので、遠慮せずいただいた。

 私も将来、こういう度量が広い人物になりたいと思う。

 私って成長するのか良く分かんないけど、座敷童的に。

 

 そんなこんなで甘味的に打ち解けた気分にはなっていたのだけど。

 

 「ちょっとねぇ、お風呂場で困ったことがあるのよねん」

 

 そんな言葉を聞いたこたっちゃんは、お茶を一口飲みくだし、真剣な顔つきになった。

 

 「困ったことって、どんなですか?」

 

 私もお茶を飲み、ふっと一息ついてから、ベティさんに向き直るのであった。

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