Aー161 大会前日
大会前日。
明日からの予選を経て本選――みたいな形ではなく(他国では出場者選定のために予選を行ったところもあるらしい)、今回の頂上決定戦ではいきなりトーナメントの初戦が始まるような形になっている。Aブロックの一回戦だ。
いやぁ、思った以上に大事になっているなぁ。正直、ある程度大きな賑わいにはなるとは思っていたけれど、想定の五倍以上は盛り上がっている。
他国からも大勢の観客がやってきているため、リンデール王都の宿はもちろん全部埋まっているし、近くの街も早いもの勝ちでガンガン埋まっているらしい。テント泊をする人もかなり多いらしく、そのための広場を新たに作ったぐらいだ。
そして大会前日の今日――明日に向けて体調を整えたいところだが、登場選手紹介をするために一度闘技場に行ってきた。
なんでも、今日はこの後闘技場にて出場者以外の人で演舞みたいなことをしたり、実際に試合を行い明日に向けてボルテージを上げていく予定らしい。色々な部門が稼ぎ時なんだろうなぁ。
リンデールで開催できたのは、たぶん国同士でなにかしら取引があったりしたんだろう。言い出しっぺが俺たちだから、その辺り強気に交渉とかができたんだろうな。
まぁそんなことはいいとして。
俺が闘技場で紹介されて挨拶しているのを、家族や関係者たちは関係者席から見ていた。そして俺の他にもクレセントや翡翠、迅雷の軌跡にシュウくん、セラなんかもいたから、家に帰ってくるまではどちらかというと『すごい盛り上がりだね』みたいな話ばかりだったのだが、帰宅して少し落ち着いたところで、エリエラとライラの二人が心配そうに聞いてきた。
「おとーさん、明後日勝てそう?」
「初戦負けとかしちゃやだー」
二人ともソファの上にうつ伏せになって、じたばたと足を動かしながら言う。
ちなみにフェノンとシリー、そして二人と俺の子供たちは王城に行っている。明日から始まる大会の流れの確認という建前の、孫の顔見せらしい。
「俺よりもセラの心配したほうがいいんじゃないか?」
「だっておかーさんはほぼダンジョンから引退してたんだから、負けてもしょうがないもん」
それもそうか。子供たちの言う通り、俺は大会にこそ出ていないものの、探索者としての活動は続けているし、今回はソロかつシードでの参戦である。
だから明日はお休み。というか、四日目までお休み。満を持して登場してあっさり負けたら、そりゃ子供たちもがっかりするだろう。
「ふふ、二人とも心配しなくとも、エスアールは勝つ。二人が心配すべきは、私がエスアールにどんな無様な目に合わせられるかという点だ」
「おとーさん! おかーさんいじめたらダメなんだから!」
「えぇ……さっきと言ってること違うんじゃない?」
というかセラ。俺に意識を向けすぎてうっかりしているのかもしれないけれど、一回戦はともかく、二回戦でキミは翡翠のいるパーティと当たるんだぞ? すまんが、セラは負けます。
ちなみに、セラが順調に勝ち進めば準決勝――三回戦で当たる位置に俺はいる。共にBブロックだ。
そして反対側のAブロックに、シンとシュウくんのパーティ、クレセントのパーティ、スズのパーティがある。だから明日はこいつらの応援だな。
初戦でクレセントにあたるスズは、組み合わせを見た瞬間悟った顔をしていたなぁ。申し訳ないが、笑ってしまった。
一応、スズのパーティにはニケットとフェーマで人気の探索者がいるから、二番人気なんですけどね。それでもクレセントには遠く及ばないだろう――というのが、今のところの俺の予想。番狂わせがあっても面白いだろうが、それは俺視点の話。
世間的には、クレセントが勝つことが番狂わせに見えるんだろうな。
「おとーさんがすごいって言うのはみんなから聞いてるけど、みんなとの違いがよくわかんない」
「ぶわーってかっこいいスキルとか使ったりしないの?」
彼女たちが見る俺の戦いというのは、基本的にスキル無しの基礎練習みたいな感じだし、そう思われるのも無理はないか。SSランクダンジョンに子供を連れていけるわけでもあるまいし。
「スキルを使うことだけが全てじゃないんだぞ~。お父さんいつも言ってるだろ? 基礎が大事なんだって。相手の攻撃を避けて攻撃を当てる。これができれば負けないんだ」
「なんか地味だね」
「じ、地味……」
お父さん泣いちゃうよ? いやでもね、たしかに霊弓術士のスキルである束縛の矢とかは大量の矢が対象に降り注ぎ巻き付いていくから、めちゃくちゃすごく見えたりするけど、上のレベルだとまず当たらないし、どちらかというと相手の移動制限に使うようなスキルなんだよな。
それに今回、みんなと条件をそろえるために俺は覇王職を使わず、三次職の魔王で参戦するつもりだから……アクティブスキルとしては重力魔法なんだが……聖者の絶界や霊弓術士の束縛の矢に比べれば地味。
「でもたしかに、お父さんに攻撃って全然当たらないよね~」
「わたし一回当てたことあるもん!」
「わたしも~」
そりゃキミたちが喜ぶんだもん。当たりに行っちゃうよ。
まぁそれも、数年前に一度だけではあるが。だから、彼女たちは『今日こそ当てる』と頑張ってくれていたりする。あれがわざとだと言ったら嫌われそうだから絶対に言えない。
大人たちは知っていて黙ってくれている。というか俺が口留めしている。ごめんね。
「前にも言ったけど、俺にポンポンあてられるようになったら、その時はエリエラもライラも、シンよりも強くなってるさ。それを、今回の戦いで証明してみせよう」
なんてカッコつけてみたものの、対人戦が鈍っていてあっさり攻撃食らいまくったらどうしよう。子供たちの手前、負けはもちろんのこと、攻撃を受けることがそもそもガッカリの対象になりかねないな。
頑張らねば。




