Aー162 頂上の超常
大会当日。
今日はAブロックの一回戦が行われる日だ。
試合開始は午前の十時で、そこから二時間ごとに試合が合計四試合行われる。トーナメントが進み、二回戦、準決勝と進むうちに、徐々に試合時間も伸びていくという形になっていた。
試合開始前の一時間は、開会の挨拶だったり、本日の試合の見どころなんかを解説者が話すらしい。司会はリンデールから一人だけど、解説は各国から一人ずつ、リンデールからはレグルスさんが出てくれるらしい。
というわけで、本日リクドウ家――俺たちは試合はないけれど、朝の八時過ぎには闘技場付近にやってきていた。街の賑わいに感心しつつ、家族と一緒に闘技場へ向かっているところである。
「今日は一試合目からシンたちの試合だからな。闘技場のチケットも人気だったろう」
「それでこんなに人が多いのかな~?」
「んー、もしかしたら少し減るかもしれないけど、これから数日間は多いことには変わりないと思うぞ」
いたるところに、人を誘導するためか、もしくは諍いを鎮圧するためか、衛兵が配置されている。スリとかも多そうだし、お仕事は多そうだ。
子供たちはそれぞれ、シルベルトはシリーと、フェノンはシャノンと、そしてセラはライラと、俺はエリエラとアルノと手を繋いで歩いている。総勢九名の大所帯だが、大人は全員ステータスが高いので、人の波に流されることはない。ぶつかってきた人が弾かれるなんてこともしばしばだ。
ちょっと迷惑になっているような気がしなくもないが、子供たちを守るためだ。できるだけ小さくまとまっているので、許して欲しい。
少し道の脇に移動して休憩しつつ、周りの喧騒に負けないように大きめの声で妻や子供たちと会話をしていると、俺たちと同じように人混みから逃れてきた男二人の会話が聞こえてきた。
「いやぁ~、たまんねぇなこの人の多さ。気分悪くなっちうまうぜ」
「会場まで辿り着けたらあとは楽だろうな。それまでの辛抱だ。というか、もう見えてるじゃないか」
「屋根の上とか走っていきてぇよな」
「衛兵に間違いなく捕まるぞ。せっかく手に入ったチケットをおしゃかにする可能性があるのなら、危ない真似はしたくない」
俺は時々屋根の上ダッシュをしているけど、見つかるようなヘマはしていない……はず。
「はぁ、まじでドキドキしてきた。俺、先月の給料を全部シンにぶち込んだぜ。まだ一回戦だけどよ、気が気じゃねぇ。カミさんに黙って賭けたからな」
「なんだ、お前のところじゃ賭け事は反対されてるのか? 金額の問題か?」
「いや、カミさんは『エスアールにしておけ』って言うんだけどよ、いくら称号持ちっつったって、一人じゃ無理だろ? 称号持ちならシンも一緒だし、そりゃ一対一ならエスアールに分があるって話もよく聞くが、一対三じゃ無理があるだろ」
「ふうん? それで、お前が勝手に賭ける先を変えたってことか」
「まぁな。なにしろシン以外の残りのメンバーも大型ルーキーのシュウに、ジル=ヴィンゼットだぜ? 当然のように一番人気だ。そういうお前は?」
「俺か? 俺はクレセントのところだ。あまり知られていないが、かなりの強者らしいぞ。ちなみに、俺の情報によるとクレセントはシンよりも強いらしい」
「……いくつか大会は優勝してるらしいが、その大会にシンはいなかっただろう?」
男たちはそんな会話を繰り広げているけれど、いかんせん周囲はいたるところで会話が行われているから、注意して耳を傾けていないと内容なんて入ってこない。
その証拠に、家族のほとんどは子供たちと会話をしたり、うんざりした様子で人混みを眺めたりしている。
まぁ一部の子供は俺と一緒に、男たちの会話を聞いていたわけだが。
「ぷぷ、あの人、シン先生たちに賭けたんだって。おとうさんに負けちゃうのに」
「こらアルノ、そういうこと言っちゃいけません。シンたちだって頑張るんだから」
「そうだよアルノ~。それに一回勝負なんだから、どうなるかわからないよ?」
「いや、俺が勝つけどね」
「……おとーさん? わたし、せっかくおとーさんの話に乗ったのに」
ごめんねエリエラ。ついつい口が動いちゃった。二人の頭を撫でつつ、『ごめんごめん』となだめていると、男たちの会話に動きがあった。
いや、会話に動きがあったというか、三人になっていた。
男二人の間に割り込み、二人と肩を組むようにして、その男はニヤニヤとした笑みを浮かべている。というか、見知ったやつだった。
「おいおい~、お前ら自国の探索者が勝つとは思ってないのかよ。ちったぁ会話に登場させてくれてもいいんじゃねぇのぉ~?」
ニケット王国の探索者だ。SSランクダンジョンに来ているし、俺と何度か会話もしたことがある。名前はなんだっけ――マルセルだったか?
ということは、あの男二人はニケット王国から来た客だったか。
突如として現れた自国の探索者にしどろもどろになっている二人を見て、マルセルさん(たぶん)は笑う。
「はっはっは! そんな怯えんなよ。別に怒ってるわけじゃねぇって。祭りなんだから、楽しんでなんぼよ。お前らが誰に賭けようが、それはお前らの自由だしな? だけどよ、俺が例え一回戦で負けようが、拍手ぐらいはしてくれよな? 対戦相手はみんな化け物ばかりなんだから。この『頂上決定戦』に出場できること自体、スゲーって思ってもらいたいわけよ」
マルセルさん(そんな名前だった気が……)のその言葉に、男二人はコクコクと頷く。
それからしばらく、マルセルさん(なんか違う気もする)は二人の緊張をほぐすように他愛のない話をして、そのおかげか、男二人の口数も増えてきた。
「バツセルさん(マルセルじゃなかった、バツセルだった)は、明日のBブロックですよね。賭けてはないけど、応援してます!」
「おうよ。声援ちゃんと聞いてるから、頼んだぜ」
「すんません。二日目のチケットは取れなかったんで、会場の外から応援してます!」
「おいおいなんだそれ! 聞こえるわけねーだろ! ははっ」
などと、楽しそうに会話をしている。子供たちはすでに男たちの会話から興味を失ったらしく、俺と手をつないだまま、他の子たちと話をしているようだった。
「ちなみに、バツセルさんは誰が優勝すると思ってるんです? あ、自分以外で」
「おいおい気を遣うなって。別に気にしてねぇから。で、誰が優勝するか、ね――この大会、なんか変だと思わなかったかお前ら?」
「変? ですか? そりゃこれだけ大きな大会ですから、開催スケジュールも長いし、イレギュラーも多そうですけど」
「そうじゃなくてよ、お前、たぶん他の上位探索者にも同じようなこと聞いてるだろ?」
「まぁ……ちょこちょこと」
「一定以上の探索者、何も答えなかったんじゃねぇか? 具体的には、Sランクダンジョン踏破者は」
「そ、そうです! なぜかみんな、お茶を濁すような感じで。まぁ賭け事が絡むから、あまり安易なことは言えないんでしょうけど」
「まぁそれもあるだろうがな……ま、その理由も、大会が始まったらわかると思うぜ。これから八日間、頂上の超常の戦いを、楽しんでくれや」




