Aー159 着々と準備は進む
それからさらに月日が経ち、『頂上決定戦』の開幕まであと一か月となった。
出場メンバーが各国からリンデールに集まり、まるで甲子園の時のように大勢の観客の前でくじ引きが行われて、大会でのパーティメンバーが決まった。
俺はソロでの参加だから俺は盛り上がっているみんなを眺めていただけなんですけどね。寂しくなんかないやい。
各国の参加者は七名ずつではあるが、俺たちのいるリンデールだけは俺を含めて八名。
六か国から七名ずつで四十二人。今回戦うパーティは三人固定なので、合計十四パーティ。
そこに俺がぽつんとソロで入るから、十五組で争うような形になるわけだ。
なんとなく予想していたことだけど、見事に全員が顔見知りなんだよなぁ。
そりゃ各国の代表者たちだから、みんな黒騎士のいるSSランクダンジョンに来ているような奴ばかり。ほぼ全員がステータスをカンストさせており、頂上決定戦の名にふさわしい出場者たちになっていると思う。
そんな風に大会の大枠が決まってきたところで、俺が大会に臨むにあたって、モチベーションを大きく左右する出来事が二つあった。
まず一つ目。
パーティメンバーとトーナメントの組み合わせが決まってすぐに、賭けが始まった。
そして毎日数回、賭けの倍率――オッズの更新が行われているのだけど、予想以上に俺にオッズが集まっていなかったのだ。
全十五パーティ中、なんと十位人気である。
いやね? 俺だって一番人気になるとまでは思っていなかったけど、俺の戦いを知っている奴は少なからずいるし、もう十年近く前だけど、闘技場で戦ったこともあるから、「ぶっちぎりになっちゃったらどうしよっかな~」みたいにニヤニヤしちゃった夜もあった。
それが十位とは……おかげで子供たちがめちゃくちゃ不機嫌になってしまったんだが。
「SSランクダンジョンに来てる私の知り合いは、今回は賭けないって言ってたっスね」
「ほう、なんで?」
「一般の人が知らないSRさんを知ってるから、ずるいと思ったんじゃないっスか?」
「えぇ……それなら別の人に賭けたらいいじゃん」
「お金の無駄って言ってたッス」
というのが、クレセントの話。
そして翡翠から聞いた情報によると、どうやら『彼が強いのは風の噂で知っているが、それは昔の話だろう? それに、いくらなんでも三対一では分が悪い』みたいな感じで話している人が結構いるようだった。
そういう話を聞いたらさ、俺としては沸々と負けず嫌い精神というか、絶対に見返してやるみたいな気持ちが高まってくるんだよ。どんなもんじゃい――と強さを見せつけたくなる。
目立つのが嫌いな癖におかしなことを言っている自覚はある。
だけど、この世界で一番であることは俺のアイデンティティのようなものだし、なにより子供たちにカッコいいところを見せたいじゃないか……!
お父さんすごーい!
パパすごーい!
って言われたいじゃないか! あ、もちろん嫁さんたちにも、久方ぶりにドキドキしてもらいたいし? ちょっとマンネリ化してきているような気もするから、ここいらで男の魅力とやらをバシッと見せつけたいわけですよ。
……なんか俗っぽいな、俺。
ま、まぁとりあえず、賭けのおかげでモチベーションが高まっているということが、一点。
二つ目の話をしよう。
「うむ。いいじゃろ。最近はワシものんびりさせてもらっておったからの」
イデア様が頑張ってくれたというお話である。なんと今回の大会――だけでなく、各国に一つずつ、SSランクダンジョン仕様――つまり、死亡しないエリアを闘技場に作ってくれたのだ。
これまでの闘技場で戦いは、エリクサーが潤沢にあるから腕や足を切り飛ばすなんてことは普通にあったけれど、胴体の切断や首や頭を狙うことはできなかった。まだレベルが低いうちならいいけれど、ステータスが上がれば木剣でも十分すぎるぐらい殺傷能力がありますからね。
それが今回から解禁されたわけである。
死亡時は二十四時間再入場不可というルールはこちらにも適用されているから、総当たり戦というのは難しい。だけど、トーナメント方式ならば問題ない。
本当にありがたい限りである。
そしてこのルールの変化が何を意味するかというと――俺やクレセントたちの得意分野、テンペストのゲームと同じ仕様になった――ということだ。
とはいえ、大会出場者――SSランクダンジョン出場者たちは、もうすでにSSランクダンジョン内で似たようなことをやっているから、アドバンテージがめちゃくちゃ高いかと言われると、別にそうでもない。
俺も含め、みんなが気兼ねなく、本気でやりあえる環境になったというわけである。
良きかな良きかな。
「なんかおとーさん、負けちゃいそうな気がしてきたなぁ……ねぇ、本当に勝てるの?」
庭でセラと肩慣らし程度に剣を打ち合っていたところ、それを見ていたエリエラがそんなことを言い始める。そしてその流れに乗って、ライラも「あまり投票されてなかったみたいだもんね」と口にした。
票が集まるのと強さはまた別の話――セラの攻撃をさばきながらそんな風に反論しようとしたのだけど、俺の代わりに一緒に稽古を見ていたフェノンとシリーが反論してくれた。
ちなみに、フェノンとシリーの子――シャノン、アルノ、シルベルトの三人は家でお昼寝中。
「ふふふ、貴方たちが思っている何倍も、お父さんって凄いんだから。ずっと一緒にいた私たちにだって、まだよくわかってないぐらいなのよ」
「クレセントさんと翡翠さん、それからノアさんぐらいなんでしょうね。本当の意味でエスアールさんの凄さを理解しているのは」
「そうね。シリーの言う通り。一緒にダンジョンに潜って、結婚している私たちでさえこんな感じなんだから、街の人たちにエスアールさんのことを理解しろというのも、無理な話なのよ」
そんなにややこしい話かなぁ?
誰よりも攻撃を受けず、誰よりも攻撃を当てる。すなわち強い! みたいな感じでもいいと思うんだけど。
娘たちのほうをチラチラ見ていると、「よそ見してると痛い目をみるぞ!」とセラから叫ばれてしまった。ごめんなさい。
「じゃあ痛い目を見せてみな」
「……言ったな? ――よし、エリエラ! ライラ! お父さんに攻撃だ! フェノンとシリーも援護してくれ! その自信、粉々に打ち砕いてくれる!」
おいおい、三人だけならまだしも、娘を使ってくるのは卑怯だろ!




