A-158 パルムール王国の参加者
それから数日が経って話がまとまり、各国へイベントの通達が行われると同時に、俺たち参加予定者たちも独自の人脈で声を掛けて、人を集めた。
イベントのタイトルは国際武闘大会――『頂上決定戦』。
その名の通り、そして予定通り、この大会に参加できるのは優勝経験のある人ばかりなのだが、俺は大会で優勝した経験がないという問題も並行して発生している。まぁこちらは、イレギュラーということでなんとか対処してもらうことができそうだ。
かなり以前に、優勝した迅雷の軌跡と戦う――みたいなことをやったことはあるけれど、それを知ってるのは世界が破滅したことを知っている七人だけだし。
覇王の称号を持っていることや、人づてに俺の実力は伝わっているんだろうけど、戦いを知っているのはごくごく少数の人間に限られていると思う。特に、若い世代は。
ベノムを倒し、世界が復活してからの俺の活躍――あぁ、一応真っ黒な月のコピーと戦う所は見てもらったことがあるな。
その戦いを見ていた人は、俺の強さをある程度知ってくれていそうだけど、それも随分と昔の話だし、その頃はまだみんなステータス的にも弱かったから、『今の自分なら』と思っている可能性もある。
だが、子供に期待されている以上、パパは負けませんよ。
万が一、一対一で負けることがあれば俺の覇王の職業も奪われることもあるんだろうけど(ちなみに、子供に対してわざと負けてみたけどダメだった)、それは俺の体がもう少し老いてからになるだろうな。
ダンジョンではもっぱら黒騎士に負けてばかりだけど、まだまだ探索者たちには負けてられない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その日、俺はSSランクダンジョン内にあるパルムール地区の住宅街、そのうちの一軒にお邪魔していた。ネスカさんが確保した家である。
昔は紅の剣のパーティリーダーとして活躍していた彼女も、他のメンバーが引退してからはソロでの活動をしているらしい。もしくは、野良のパーティに入ったりとか。
家の中にはネスカさんの他、パルムール王国の王子様がやってきていた。というか、ニーズ君なんだけどね。当時の王様から『息子もSランクダンジョンに連れて行って欲しい』と頼まれた、あのニーズ君である。
「パルムールからはネスカさんとニーズ君は確定か。まぁ順当かな」
そんな王子様の彼も、現在はステータスはカンストさせ、かなりの実力者に育っている。初めて会った頃はBランクダンジョンもクリアしていなかったのに、人生どうなるかわからないものである。
「『頂上決定戦』とはいいますが、僕たちからするとエスアールさんが出場する時点で結果はわかりきったようなものなんですがね」
と、ニーズ君。雰囲気は昔と変わらず柔らかいものだけど、目の力強さというか、強者特有の自信が体からにじみ出ているような雰囲気がある。この辺り、クレセントとかが顕著なんだよな。あいつはなんかこう、プロって感じがする。
「そのための三対一じゃないですか? クレセントさんや翡翠さん、そこにセラさんやシンさんが加わったら可能性はあるかと」
「いやいやネスカさん、俺はまだあいつらには負けないし――そもそも、あいつらがペアを組むのって、俺が誰かと組むぐらい良くないことじゃないか?」
以前は丁寧な言葉で接していたけれど、俺側は砕けた口調に変わっている。まぁ、ネスカさんとニーズ君は昔のままなんだけども。
「それはたしかに、優勝と準優勝が決まっている大会というのは少し、盛り上がりに欠けてしまいそうですね……」
ニーズくんが顎に手を当てながら悩まし気に言う。
そうそう。でも彼女たちも俺ほどではないが、そこそこ知名度は落ちているので、知らない人も多いだろうからあまり心配はしなくても良い気はするが。
なぜか低いオッズを見て、不思議に思う人が大半なんじゃなかろうか。
「というかさ、キミらも全職業のレベルは上げ切っているんだから、条件は俺たちと一緒だぞ? さすがに今回は全スキル使える覇王職は使わないし、みんなと同じ条件でやるんだから」
「条件は一緒でも、培ってきた経験が違いますよ。パルムールの国民もネスカさんや僕を始めとして育ってきていますが、やはりリンデール――その中でもエスアールさんは先を走ってますからね」
「むしろ五対一にしてほしいんですが……それでは参加者が足りなくなりそうですよね」
そんな覇気がないことでどうする。
なんて思ったけど、一応彼女たちにも意欲はあるらしく「次期国王として、民に恥ずかしいところは見せられませんからね。隙があれば勝たせてもらいます」だとか、「エスアールさんの戦いは、皆さん研究してますからね」なんてことも言ってくれる。
「うんうん。そうやって食いついて来てくれると嬉しいな。俺はパパとして子供たちにカッコいいところを見せたいんだから、張り合いの無い相手だと困るんだよ」
「もう参加者全員と戦ったらいいんじゃないですか?」
「それはさすがに無理があるだろ……」
いくらなんでも目が足りないし頭も足りない。
無理とか不可能なんて言葉は使いたくないけれど、テンペスト時代ですら俺はパーティ戦のランキングでトップに立てなかったのだし。その俺が、多少技量は落ちる相手だとしても数十人はきつい。
「一度、どこまで増やせるかとかやってみたいですよね! SSランクダンジョン内でしたら怪我はしませんし、やってみません?」
「なんでネスカさんはそこまでして俺を追い込もうとするんだ……」
「だってエスアールさん、そういうの好きでしょう?」
うっ……まぁ言われてみたら、記録が伸びていくのは楽しい気もするが……最終的に負けが確定している勝負って言われるとちょっと忌避感があるし、みんなを巻き込むってのが苦痛だ。
だからそれは却下で。
ネスカさんの提案を丁重にお断りさせていただいたところで、今度はニーズ君が口を開く。
「エスアールさんは不満でしょうが、僕としては正直、今回は負けても満足できそうです。現在の探索者の頂点というものを、多くの人に知ってもらうことができるのですから」
ニコニコと笑って、そんなことを言う。
子供たちや妻たちにカッコいいところを見せたいという気持ちが大半だけど、ニーズ君のような人達に失望されないためにも、対人戦を改めて復習しておこうかな。




