無能な冒険者
「もう明日から来なくていいから」
この言葉を聞くのもついに5回目か、とどこか達観した気持ちでパーティーリーダーの声をきく。
「いくら身体能力が高くでも、一つもスキルが使えないんじゃ、うちに居場所はないよ」
そう言うと、どさりと預けておいた荷物が目の前にぶちまけられた。
唇を噛みながら、カバンからこぼれた荷物を拾おうと地面に膝をつく。
そんな俺を見下すように一瞥してから、パーティメンバーは足早に去っていく。
こんな能無しには、少しの時間さえ割いてやるのも惜しいとばかりに。
「またやってるよ。いい加減諦めればいいのに」
誰が言ったか、その一言で酒場からはどっと笑いが溢れる。
昔なら反論の一つや二つ威勢良く言い返していたが、今となってはそんな気も起こらない。
自分に才能がなく、役立たずなお荷物だと言うことを、この三年間で嫌という程実感してしまったから。
荷物を拾い終え、俺を嘲笑する冒険者たちに背を向け逃げるように酒場を後にする。
これでパーティを追放されたのは5回目。
俺の使えなさっぷりはこの街の冒険者全員に行き渡り、もはや誰もパーティなど組んでくれないだろう。
それもこれも、俺が持つ意味不明な職業のせいだ。
俺以外に見たことも聞いた事もない《魔銃使い》と言う職業は、どういう訳か、一つもスキルを発動させることができない。
冒険者にとって、職業は非常に大切だ。
生まれた時に神から職業を授けれた人間は、生身の人間を遥かに超える力を持つ。
職業を授けられなかった《職無し》には絶対に不可能な、スキルと呼ばれる奇跡を行使できるからだ。
冒険者は、例外なく職業持ちであり、スキルを用いて人類の敵たる魔物と戦う。
スキル無しでは到底魔物たちとは戦えず、一方的に蹂躙されてしまうからだ。
もちろん、俺の職業にもスキルはある。
ただ、何度発動しようとしても何も起こせず、頭の中に『発動条件を満たしていません』と言う機械的な音声が流れるだけだった。
当然、スキルの発動ができない俺は戦いで役に立つことはできず、参加するパーティの足を引っ張り続けた。
「もういい加減、潮時かな……」
おとぎ話に出てくるような冒険者になるのが、夢だった。
剣を振るい、魔法を放ち立ちはだかる敵を斬り伏せて未知の世界を冒険する。
けれど、そんな夢に、この手は届きそうもない。
「幸い、《職無し》に比べれば身体能力は高いしな」
この三年間、得たものが全くなかったわけではない。
スキルの中にはパッシブスキルと呼ばれる、身体能力を底上げするスキルも混じっており、そのスキルの恩恵だけは受けることができた。
だからこそ、無能と蔑まれながらも三年間冒険者を続けることができたのだ。
冒険者は魔物を倒し、魔物が持つ魔石を吸収することで自分のスキルを鍛えることができる。
普通の冒険者は、攻撃に使えるアクティブスキルを鍛える事に集中するが、アクティブスキルを一切使えない俺は集めた魔石を全てパッシブスキルにつぎ込んでいた。
だから、身体能力だけはそんじょそこらの冒険者には引けを取らない。
ただ、いくら俊敏に動けようが、高速移動系のスキルを発動した冒険者には追いつけず、いくら力をつけようが、攻撃スキルを放ったルーキー冒険者の一撃にすら及ばない。
結局、スキルが使えなければ身体能力がいくら高くても意味がない。
ただ、普通に暮らす分にはむしろパッシブスキルの方が有用だろう。
もう十分身の程は知ったし、諦めてもいいんじゃないだろうか。
「……なんて思ってるのに、足は勝手にここに向かっちまうんだな」
ふと顔を上げれば、いつの間にか俺は一つの店の前に立っていた。
成り立ての冒険者御用達の、安い武具屋だ。
作り損なった剣や、魔物が落とした使い道の分からないガラクタなどが二束三文で投げ売られている。
「三年前は、すべてが輝いて見えたんだけどな」
初めて冒険者になった時、一番最初にこの店で買い物をした。今腰に下げている剣と同じ、腕の長さほどのロングソードを買った。
いつか、伝説の冒険者のように立派な武具を身につけるんだと意気込んでいたと言うのに、三年たっても何ひとつ進歩していない。
「ちょっとだけ見ていくか」
これで最後にしよう、と店の中に一歩足を踏み入れる。
無造作に壁に立てかけられた剣や槍を横目に、店の奥に入っていくと、妙に気になるものが置いてあった。
「これは……?」
それは、一見してガラクタにしか見えなかった。
大きさは手の平二つ分程度。
角ばった形をしており、大きな穴も開いている。
恐らく手で握るための取っ手と、指をかける金具もついていた。
「なぁおっさん、これなんだ?」
ガラクタを手に取り、店主である大柄の男に声をかける。
店主は手にもつそれを一瞥し、あぁそれか、と口を開いた。
「いつも通りまとめ買いしたガラクタたちに混じってたんだが、使い道は分からん。魔道具かとも思ったが、魔力を流してもうんともすんとも言わねえし、ただの凝った作りした金属の塊だよ」
そうなのか、と思い物は試しと魔力を流し込んでみる。
すると、頭の中に突然声が鳴り響いた。
『スキル取得条件を達成しました』
『< スキル : 魔弾生成 > を獲得しました』
『< ミスティックウェポン : 魔銃ルヴィリアラ >の所有者登録が完了しました』
『< ウェポンスキル : 破神の紅弾 > を獲得しました』
頭の中に鳴り響く音に、動悸と興奮が止まらなかった。
冒険者を始めてから初めて体験する、スキルの変化。
まさか、という思いが胸中を駆け巡る。
「な? 何も起こらないだろ」
店主に声をかけられ、ハッと顔を上げた。
不自然にならないようにぎこちない笑顔を浮かべ、確かに頷く。
「でも何に使うもんなんだろうなこれ。気になるし、買っていってもいいか?」
「そんなガラクタをか? まぁ好きにすればいいが、相変わらず物好きだなお前さんも」
ほら寄越せ、といって俺が持っていた金属の塊受け取る。
念の為、と店主が鑑定機にかけてみるが、やはり何の反応もしない。
価値がないことを確認してから、店主はほらよ、と品物と一緒に金額を提示してくる。
「毎度」
幸い、今日はギルドからもらった報酬があるまだ残っているため、その場で全額を払う。
決して高くはないが、これからの生活に保証がないことを考えると、これで本当にガラクタだったら明日からの生活に響くなぁなどと思いながら、店主に銀貨を手渡した。
店を後にし、沈みかけの日を背に町の外へと足を運ぶ。
これからの時間は町の外に出てくる人も少なく、手に入れたスキルを試すにはもってこいだ。
ある程度町から距離をとったところで、買ったばかりの金属塊を懐から取り出す。
先ほど頭の中に流れた音声が正しいのであれば、これが魔銃と呼ばれるものなのだろう。
「こうやって持つのかな……?」
持ち手の部分に手をかけ、指を金属片にかける。
こんな道具を扱ったことは今までないが、なんとなくこれで使い方はあっているように感じた。
「……よし、やるぞ」
大きく深呼吸して、先ほど手に入れたスキルを使用する。
スキルの使用方法は簡単で、スキル名を口に出せば良い。
「魔弾生成」
口に出した途端、魔銃を手にした右手を介して、急激に魔力が引き出された。
初めての感覚に取り乱しそうになるが、もう一つ深呼吸して心を落ち着かせる。
「す、スキルが発動した……!」
初めてのアクティブスキルの成功に心が踊る。
握りしめた魔銃は夜の暗闇の中でその存在を誇示するように、淡く光っていた。
「こう、使うのかな?」
何かに導かれるように、目の前に生える樹木へと魔銃を向ける。
体の中からこみ上げる衝動が溢れ、一つの言葉を口にした。
「フレイムバレット」
それは、今まで何度も口にし、何度も落胆させられてきた言葉。
一度も発動したことのないアクティブスキルの名を口にしながら、引き金を引いた。
瞬間、熱風が吹きすさぶ。
炎弾が夜の闇を引き裂いて、人の倍の太さはあろうかという木の幹に直撃した。
一拍を置いて、地響きを立てながら大木は地に倒れる。
炎弾が触れた部分は塵も残さず燃え尽き、えぐり取られたような大穴が開いていた。
「ま、まじかよ……」
目の前で起こった光景が信じられず、無理やり言葉をひねり出すのに数秒の時間を要した。
フレイムバレットは初めから覚えていたスキルで、他の職業、例えば魔法使いでいう初級魔法同じ扱いのはずだ。
にも関わらず、一人前の冒険者が放つ中級魔法と大差ない力を見せた。
「これが、俺のスキル」
今までなんども自分の職業を呪った。
自分の夢は絶対に叶わないんだと諦めもした。
けれど。
「……叶うかもしれない。御伽噺に出てくるような、冒険者になる夢が!」
うおぉ!と、夜空に向かって咆哮を上げる。
まだまだ自分の職業について確かめないといけないことも多い。
それでも、永い永い間待ち望んだ最初の一歩を、ようやく踏み出せたことを、確かに実感していた。




