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破局の系譜

秋の冷たい風が、通り沿いの街路樹をカサカサと鳴らしていた。

駅近くのカフェのテラス席。テーブルを挟んで向かい合う彼女――由香(ゆか)は、冷めきったカフェラテのカップに落とした視線をずっと上げようとしなかった。


「巧くんってさ」


ぽつりと漏らされた声は、風の音にかき消されそうなほど小さかった。


「私のこと『好きだ』って言ってくれるし、デートの予定もちゃんと立ててくれるよね。プレゼントも、私の欲しかったものを覚えててくれた。……すごく優しいと思う」


「だろ? 俺、お前と付き合えて本当に嬉しいし、これからも――」


「ううん、違うの」


巧(たくみ)の言葉を遮るように、彼女はゆっくりと首を振った。その瞳には、諦めと悲しみが混ざり合った独特の陰りが差している。


「巧くん、私と手を繋いでる時も、キスしてる時も……ずっと心がここにないの。私を抱きしめながら、私越しに『別の何か』を見てるみたいで、怖かった」


「な……なに言ってるんだよ。俺は普通に、お前のことが――」


「『私じゃなくて、他に好きな人がいるでしょう?』」


まっすぐに見つめ返されたその言葉に、巧は詰まった。喉の奥に大きな固形物がつかえたように、声が出ない。

好きな人? 他に? 誰を?

巧の頭の中には、思い当たる女性の影など一人として存在しなかった。自分は間違いなく、由香を好きになって、恋人として愛そうとしていたはずだった。


「私、誰かの代用品になりたくないよ。巧くんが自分の本当の気持ちに気づくまで……私とはもう会わない方がいいと思う」


彼女は伝票を掴むと、一度も振り返ることなく店を出て行った。

取り残された巧は、冷え切った店内を見渡しながら、ただ自分の手元を見つめていた。


これで、何度目だろう。


大学生の時に初めて付き合った彼女には、「巧くんと一緒にいても、なんだか一人でいるみたい」と言われて半月で振られた。

社会人になって付き合った二人目の彼女には、お互いの家を行き来する仲になったはずなのに、「私に触れてる時、なんだか無理して頑張ってるみたいで痛々しい」と泣かれた。

そして、今回の由香だ。


どの恋でも、巧は自分なりに本気だった。記念日にはプレゼントを用意し、優しく接し、世間一般の「理想の彼氏」であろうと努力してきた。なのに、最後には必ず女性側から見放され、同じような言葉で突き放されるのだ。


行き場を失った足が向かったのは、自分のアパートではなかった。

駅から徒歩十分の場所にある、築浅の静かなマンション。迷いなくエレベーターに乗り、3階の部屋の前に立つ。

慣れた手つきでインターホンのボタンを押すと、数秒の静寂ののち、スピーカーから聞き慣れた声が流れてきた。


『……はい』

「俺。巧だけど」

『……開けるよ。上がって』


カチャリと解錠の音が響く。巧は逃げ込むようにドアを押し開けた。

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