第五話「魔法」
拝啓、お父さん、お母さん。
わたしは現在、異国の地にて高校一年生から飛び級して晴れて大学一年生となりました。
名前はヴィッセンベルク魔法大学と言うらしいです。
新しい学校では「魔法」なんていうものが流行っているみたいで、中庭では火の玉ドッジボールや、竜巻で洗濯物を乾かしたり、平らな地面から土の彫像を作り出したりと、目を疑うような光景が広がっていました。
トンデモ現象だけではなく、多様な種族もよく見かけます。
獣耳に尻尾が生えてる獣族や、見るからに強そうな角の生えた魔族、まだお目にかかれていませんが、エルフやドワーフなんかもいるらしいです。
そしてこれら全てが現実なんだと、驚きの毎日を過ごしております。
わたしはまだ流行りの魔法を扱えず、言語の勉強をしているところでございまして。
尊敬すべきお二人の息子だからでしょうか。
この頭は中々覚えが早くて助かっております。
不安ではありますが、どうか心配しないでください。
いつか日本へ帰ります。
それまでには、さぞたくさんの土産話が出来ていることでしょう。
この手紙が届いた際、おそらく読めないでしょうから別途日本語バージョンも同封しておきます。
追伸、我が親友達へ。
みんなが居なくて寂しいけど、俺は無事なので心配は無用です。
ちょっと天然なガイドさんいわく、異世界転移したのは俺だけだと聞いて安心しました。
日本の夏はさぞ暑いことでしょう。
ぜひ君たちもこの雪国へ旅行に連れて行きたいところですが、当分先になることを許したまへ。
追々伸、鷹也くんへ。
魔法やべー。異世界やべー。ゲームやアニメでしか見たことないものばっかでマジやべー。
お前もこういうの好きだったから、一緒にこの景色が見れないのが残念だ。
許せタカヤ。
「ふぅー。厳密に言ったら、まだ入学もしていない居候だけど、とりあえずこんなもんかなぁ」
手紙を書き終え、俺はペンを机へ置いた。
あの老人に魔法大学へ誘われてから、一週間ほど経った。
あのあと、大学の副学長とやらが俺たちの事情を聞き、しばらく保護といった形で急遽大学内の空き部屋を貸してくれた。
厳密には元々別の生徒が使ってた部屋だが、その生徒は現在大学を留守にしているらしい。
突然のことの上、そもそも他に空きがないらしい。
ともかく、ここの人たちには感謝しかない。
それでもあの時は怪しさしか感じなかった。
雪山で黒いローブを着て、杖を持った大人が三人。
今思えば、あれを怪しまない方がどうかしている。
「警戒してたのがバカらしい。だけどあの爺さん達も悪いよな。見た目が謎の組織すぎたもん」
それでも、あの場では他にどうしようもなかった。
俺とルナだけで雪山を彷徨い続けたところで、待っていたのは遭難か凍死だろう。
「あの場では他にどうしようもなかったし、ついて行って正解だったな。だけど……」
魔法。
未だにその言葉を口にすると、現実感が薄れていくような気がする。
空を飛ぶような風。
燃え上がる炎。
土から作られる彫像。
それだけじゃない。
この世界には、俺が今まで一度も見たことのないものが溢れている。
そんな現実離れした場所で、仮とはいえ住む場所まで与えてもらった。
あのまま雪山を彷徨い続けるより、何倍もいい方向へ進んでいる。
俺は先ほど完成した手紙へ視線を落とす。
この世界の言葉で書いたものだ。
文字はまだ少し怪しい。
それでも、一週間前にはほとんど何も分からなかったことを考えれば、かなりの進歩だと思う。
「ちょっと字は汚いかもだけど、読み書きもまぁまぁ。会話も支障をきたさない程度には出来るようになったのは喜ばしいことだな」
最初は、ルナが話す言葉すら理解できなかった。
それが、月の遺跡から北の遺跡へ移動した頃には、いつの間にか意味が分かるようになっていた。
今では日常会話に困ることもない。
手紙まで書けるようになった。
自分でも驚くほどの速さだ。
「何かを整理したい時は、やっぱ紙に書くのがいちばんだな」
机の上へ視線を戻す。
こうして書き出してみると、今まで起きたことが少しだけ整理できる。
「まず、ここは異世界で確定。魔法やドラゴン、非現実的なことで溢れてる」
これはもう疑いようがない。
「次にヴィッセンベルク魔法大学。ここはその名の通り、魔法を学ぶ場所」
ただ魔法を学ぶだけではない。
魔法について研究している人もいるらしい。
大学という名前の通り、俺が知っている学校とは少し違うようだ。
「手紙にも書いたように、種族が沢山いると」
この世界には、人族だけが暮らしているわけではない。
俺たち人族。
獣耳や尻尾などの動物的特徴を持つ獣族。
角が生えていたり、異形の姿をしていたり、人間に近い姿の者もいれば、二足歩行の動物のような姿をしている者もいる魔族。
「あのワニの魔族やキリンの魔族、日頃の生活大変そうだったなぁ……」
真っ直ぐ伸びた首のせいで、扉の縁に顎先をぶつけてたワニ魔族と、長い首を曲げきれずに後ろ首を擦ってたキリン魔族を思い出す。
ともかく大学の中では、この三種族をよく見かける。
だが、それだけではない。
エルフ。
ドワーフ。
そして、幻と言われる龍族。
「エルフは一瞬見かけたな、ドワーフも下町の酒場で店やってるらしいし、そのうちお邪魔しに行くか」
この世界には、全部で六種族いる。
それが基本らしい。
長い耳と、どこか幻想的な雰囲気を漂わせていたエルフは既に見かけた。
龍族に至っては、幻と言われるほど会えないらしい。
ドワーフはまだ見ていないが、この世界各地にいるとのこと。
この魔法大学の少し南方には短い橋が架けられている。
その先にあるのが、北方都市ヴィッセンという街だ。
大学へ来る途中に通り過ぎただけだったが、かなり活気のある街だった。
店には入らなかったものの、ドワーフが経営している店も多いみたいだ。
今度、ゆっくり観光してみたいところだ。
「その時はルナも連れていこう」
そう考えたところで、ふと別のことを思い出した。
「結局まだあの子のこと何も分からないんだよな……」
夢で見た白い少女と同一人物。
日本人離れした、いわゆる美少女。
もしこれが鷹也だったなら、きっとテンションを上げて舞い上がっていたのだろう。
だが、今までのやり取りを考えると、俺が抱いている印象は少し違う。
むしろ手のかかる妹。
そんな感じだった。
「お前は妹みたいなもんだからサ……」
「私はあなたの妹じゃないよ?」
「ドゥワッハ!!?」
心臓が止まったかと思った。
慌てて振り返る。
そこには、いつの間にかルナが立っていた。
まったく気配を感じなかった。
お兄ちゃんはいるけど、と続けるルナだったが、それを拾うことも出来なかった。
驚きで止まりかけた心臓を、何とか落ち着かせる。
それにしてもこの子、本当に神出鬼没だ。
俺が机へ向かっている間に、いつの間に部屋へ入ってきたのだろう。
「ナターリアが呼んでたよ。私たちに聞きたいことがあるんだって」
「副学長さんが?」
あの日、俺たちを大学へ誘ってくれた老人。
あの人はここの教授で、一緒にいた二人の大人も、この大学で研究をしている魔法使いだったらしい。
俺たちがホイホイついて行って、最初に案内されたのが副学長のナターリアさんだった。
そのナターリアさんが、俺たちに用があるらしい。
「分かった。ちょうどやることも無くなってきたところだし、行こうか」
俺は立ち上がる。
ルナも俺の隣へ並んだ。
そして二人で、ナターリアさんのいる場所へ向かった。
───
「では改めて、ヴィッセンベルク魔法大学の副学長兼学長代理、ナターリア・エルメスです」
俺たちの目の前に座っているのは、麗しいおばあ様という言葉がよく似合う女性だった。
優雅に紅茶を飲みながら、灰白の髪を揺らし、深緑の瞳を細めて微笑みながら名乗りをあげた。
どうやら、この人は人族の中でも偉大な魔法使いらしい。
副学長という肩書きではあるが、本来の学長は放浪癖があり、中々大学へ帰ってこないらしい。
そのため、実質的な学長を務めているのが、このナターリアさんなのだとか。
「こちらこそ改めて、陽翔って言います。よろしくお願いします……」
隣に座っていたルナが、俺に続くように口を開いた。
「私の名前はルナ、ハルトは私のお兄ちゃんじゃないよ」
「はあ……?」
ナターリアさんが、俺とルナを交互に見る。
ちょっとおバカっ、その話は忘れなさい。
俺は心の中でそう願った。
「コホン、それでは本題に入らせて頂きます」
空気が変わった。
俺も姿勢を正す。
ナターリアさんが真っ直ぐこちらを見る。
何を言われるのか。
この一週間、大学に入ったというより、お世話になっていたという方が正しい。
朝に書いた手紙では、あたかも入学したような書き方をしてしまったが。
正直に言えば、少し背伸びをしていた部分もある。
両親を不安にさせまいとした、涙ぐましい努力なのだ。
もし、そろそろ落ち着いたなら出ていけ、と言われたら。
俺はどうすればいいのだろう。
「ハルトさん、ルナさん、あなた達を正式にヴィッセンベルク魔法大学の特別招待生として入学を認めます」
「え……?」
思わず聞き返してしまった。
入学。
今、そう言ったのか?
つまり。
本当に大学一年生になってしまった。
「すんごい飛び級……じゃなくて、良いんですか? 僕、魔法なんて一ミリも使えないんですけど……」
隣にいるルナはまだしも。
俺は魔法を見たことはあっても、使ったことなど一度もない。
それどころか、魔法についての知識すらほとんどゼロだ。
「仰る通り、異例中の異例です。ルナさんはその身に神級魔法を宿していますが、ハルトさん。今時珍しい魔法に対する知識が皆無の貴方は、文字通り何も無い」
勇者の剣でも刺さったのだろうか。
素晴らしい切れ味の何かが、俺の心臓を貫いた気がする。
何も無い。
そんな言葉を真正面から言われると、思った以上に項垂れてしまう。
しかし、ナターリアさんは続けた。
「ですがそれは、貴方が無限の可能性を秘めてることを意味しています。何より初級魔法であれば、訓練次第で誰でも使えるようになりますからね」
「は、はぁ……なるほど……?」
そう微笑みかけてくれた彼女からすると、俺には無限の可能性があるらしい。
そう言われると、少しだけ気持ちが楽になる。
それから、ナターリアさんは最初の授業として魔法について説明してくれた。
いわく、魔法には五つの基本属性と五つの派生属性があると。
火、水、土、風、雷。
さらに熱、氷、岩、音、磁力。
火を起こしたり、水を操ったり、まぁでしょうねと言った具合。
属性の得手不得手は才能によるのだとか。
そして五つの階級が存在するとも。
初級、中級、上級、星級、神級。
初級魔法は訓練すれば誰でも使えるようになるらしい。
中級や上級は才能と努力次第。
星級は、魔法を極めた者しか辿り着けない極地。
そして、神級。
基本的な属性魔法とは異なり、概念魔法や事象魔法がこれに当たるらしい。
文献には重力魔法や念話魔法などがあると。
どうやら神級の中でも当たり外れがあるのかもしれない。
限られた人間に生まれつき備わっている特別な魔法。
さらに、同時に二人以上には顕現しない。
オンリーワンの魔法。
そんな説明だった。
「じゃあ神級魔法とは、努力で身に付くものではないということですか?」
「えぇ、その解釈で間違っていません」
なるほど。
そうなると、隣にいるルナは選ばれし者ということなのだろう。
彼女が使う魔法。
あの瞬間移動。
あれが神級魔法に当たるらしい。
同時に二人以上には現れない特別な能力。
そう聞くと悪〇の実を連想するが、それで間違っていないのだろう。
まさしく、神に選ばれし者にしか扱えない神級魔法。
そんなところだろうか。
英紀なんかは使えそうだな。
そんなことを考えていると、ナターリアさんが話を続ける。
「魔法を行使するにはいくつか方法があります。ひとつは詠唱魔法、呪文を唱えることで安定的かつ高い効果を発揮出来ます。対して無詠唱魔法、こちらは鍛錬が必須な上に効果も落ちる。ですが発動までの速さは、戦闘において勝敗を分けることでしょう」
なるほど。
要は治癒や援護をする際は詠唱あり。
スピード感が求められる前線では詠唱なしで攻撃するのが主流なのか。
「魔法陣や魔術刻印が刻まれた魔導具を媒体に発動する方法もありますが、こちらは魔術に当たるのでここでは最低限しか教えていません」
そう補足をつけるナターリアさん。
どうやら魔法の他にも魔術という別分野があるらしい。
「そして魔法を扱うに当たって最も重要なのが、魔力です。これは生命あるものなら例外なく体に備わってるものであり、空気中にも充満しているエネルギーです」
「おぉ、例外なくですか! なら僕にも備わってるってことですか!」
「貴方がアンデッドでは無い限り、そうなります」
異世界ジョークの実績を達成した。
生命あるもの全て、か。
そう考えると、魔力というものは思っていたよりもずっと身近なものらしい。
「魔力とは即ち、生命力。魔力を増やすことで寿命が伸びたりあるいは、生命力が上がることで魔力も増える、と言った具合ですね。かくいう私も、一般的な人間の数倍は生きてますよ」
カップに入った紅茶を飲みながら、妖艶な笑みを浮かべるナターリアさん。
「へぇ、すごくお美しいのでもっとお若いかと……」
これでいいのか?
合ってるのか?
まさか、目の前のおばあ様が数百歳です、とか言われても、なんてお世辞を言ったらいいのか分かるわけがない。
いくつも年上の女性なんて、母親か学校の先生としか話したことがないのだから。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、ナターリアさんは笑った。
「ふふ、まだお若いのに、年寄りの扱いを心得てるようですね」
そら、あなたからしたらベイビーも同然でしょうけども。
心の中でだけ呟く。
しかし、次の言葉を聞いた瞬間。
俺の意識は一気に引き締まった。
「それで、こと魔力に関してですが……、ハルトさん、貴方には光るものがあるようで」
──来た。
どうやら異世界転移したようだ、と気付いてからずっと期待していた。
俺にも隠された才能とやらがあるみたいだ。
さぞチート級なのだろう。
それを使って、この世界を我が手中に収めようぞ。
そんな妄想まで浮かんだ。
俺は期待を胸に、彼女の言葉を待つ。
「貴方はどうやら、魔力操作が並より得意なようですね」
「ハハハ! ええそうでしょうとも、この僕に秘められた才能それ即ち……え、それだけ?」
思わず素が出た。
ナターリアさんは穏やかな表情のままだ。
「他に特に気になる点は……えっと、見当たらないですね」
「うそ……だろ……」
まだだ。
落ち着け。
魔力操作が並より得意。
それだけ聞いたらショボイ。
だが、きっともっと凄い才能なのだろう。
例えば。
空気中にも魔力があると言っていた。
それなら、空気中の魔力を操って、自分は楽をしながら高出力な魔法を放てたり。
相手の魔法に対して、魔力操作で逆に利用したり。
そんな事が出来るのであれば、まさしく天賦の才だろう。
そんな期待を込めた眼差しをカップを傾ける彼女に向けると、意図を汲んだのか特徴を伝えてくれる。
「燃費が良い、って感じです」
電気自動車ですか?
「低燃費でお財布に優し……じゃなくて、まぁ分かってましたよ。人生そんな上手くいかないことは……」
とはいっても、残念なのは残念だ。
異世界に来た。
魔法がある。
ドラゴンもいる。
そうなれば、自分にも何か特別な力があるのではないかと期待するのが普通だろう。
少しくらい夢を見たっていいじゃないか。
「嘆くことはありませんよ。魔力によって身体能力の強化も出来るので、燃費がいいに越したことはありません。うちの生徒の一人に、その道を極めんとする子もいますよ」
それはつまり、いわゆる魔導剣士、みたいなものだろうか。
「魔力や魔法に関してはある程度わかりました。それで僕達はこれからどうしたら……?」
今後について尋ねる。
俺たちはまだ、この世界について何も知らない。
なら、まずは知ることから始めるべきだ。
ナターリアさんは少し考えてから答えた。
「まずはここに慣れてもらうことに専念しましょう。当大学にある書物も、好きに読んでいただいて構いません。授業は……まだ分からない事が多いでしょうから、しばらくは自由出席と致しましょうか」
至れり尽くせりじゃないか。
仮とはいえ衣食住を与えてもらえて。
この世界の知識を学ぶ機会まで与えてもらえる。
しかも、その自由まで保証してくれる。
怪しい。
そう思う気持ちが、むしろ強くなってきた。
あまりにも美味しすぎる。
こちらにメリットしかない。
「その……ありがたいのですが、正直そこまでして頂くのは……」
「構いませんとも、子供は何より守るべき存在。私共になにか得があるとしたら、それこそが最大のメリットです」
聖母……ッ!
副学長ナターリアさんの正体は、聖母マリアだったのか……ッ!
あまりにも慈愛に満ちた眼差しで真っ直ぐ見つめられては、断ることなどできない。
我ながら単純だとは思うが、右も左も分からない異文化異世界では藁にもすがる思いになってしまうのも致し方ないだろう。
「分かりました、ありがたく甘えさせていただきます、聖母様」
「あら?」
聖母様は不思議そうに首を傾げた。
──
学長室を出る。
俺は途中から座ったまま眠っていたルナを引き連れながら、部屋へ戻る道を歩いていた。
まさか、本当に大学へ入学することになるとは思わなかった。
しかも、魔法について何も知らない俺が。
まだまだ分からないことだらけだ。
それでも。
「とにかく、やる事と調べる事、それに出来る事も沢山増えた。日本へ帰るためにも、部屋に戻って整理しなきゃ」
隣を見る。
ルナは眠そうに目を擦っていた。
「んー……ねむい……おなかすいた」
「ハイハイ神級サマはわがままですねぇ……」
魔法に関しては神級。
なのに、普段の生活ではとてもそうは見えない。
むしろ、放っておくと何をするか分からない。
そんな少女だ。
「ルナ、お前も今日からこの大学の生徒なんだから、しっかりしなきゃ」
「私入るって言ってない……、けどハルトが入るなら入る」
ずいぶん懐かれたもんだ。
出会ってから、まだ一週間しか経っていない。
それなのに、まるでずっと前から一緒にいたような感覚がある。
不思議な子だ。
「そういえば、兄が居るって言ってたよな? どんな人なんだ?」
「すぴー……すぴー……」
返事がない。
俺は横を見る。
ルナは目を閉じている。
眠ってやがる……!
歩いたまま……!!
俺は深いため息を吐いた。
「はあ……。とにかく、これから頑張ろう」
こうして俺の異世界生活は、本格的に始まった。
──
同じ頃、とある帝国にて。
豪華絢爛な室内には、六人ほどの人間が立っていた。
まだ幼くも可憐で、瓜二つな猫耳を生やした少女が二人。
全身で息をしており、額には疲労の影が見える大人が三人。
そして、その中央で悪どい笑みを浮かべながら、醜い腹を震わせて笑う男が一人。
「ハッハッハッ!! 成功だ! これで世界は余の物だ!」
「皇帝サマ皇帝サマ、でもなんか多いような?」
「皇帝サマ皇帝サマ、一人だけじゃないよ?」
金髪と銀髪の少女たちが、黒髪の男へ問い掛ける。
男はそれを鬱陶しそうに睨みつけた。
「やかましい、一人でも二人でも変わらん。この中のどれかが大英雄……あるいはその生まれ変わりなのだろう」
その男の視線の先では、濃い煙が立ち込めていた。
何かが起きた。
そう思わせるほどの煙だった。
しばらくして、ようやく煙が晴れていく。
その奥から現れたのは、巨大な魔法陣だった。
そして──。
『一体何が……みんな無事か!?』
『えぇ……私は平気……』
『おれも大丈夫……って待て、陽翔が居ない!』
何かの制服を身にまとった、十五歳前後の少年少女がそこに立っていた。
部屋にいた六人とは、違った言語で意思疎通を取っている。
周囲を見回す。
見知らぬ場所。
見知らぬ人々。
そして。
本来なら、そこにいるはずだった一人の少年の姿だけがなかった。
『ちょっと……どうなってるのよコレ……』
『癒美、落ち着いて。深呼吸するんだ』
『けど英紀……! 絶対おかしいって、こんなの……!』
『同感だね……とにかく鷹也も落ち着いてくれ。まずは目の前の人達に話を聞こう』
陽翔の親友である三人が、そこに居た。




