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最終話「マーメイド・ランデブー」(2/3)

 唯斗は海へ落とされてしまった。絶望の最中、目の前に現れたのは――ヒメの諦めていた友だちの存在があった――。

   2.



 海の生き物たちに見守られながら、ヒメはもう一度人魚姫の姿へ変身しようとする。すると、今回はしっかりと両足が引っ付いた。鱗が生え、足先は尾ヒレに変化していく。


「なれた――! ッ……」


 ライトが照らされ、ヒメの居場所がヤクザたちにバレた。


「居たぞ! あそこだ!」


 しかし、そんなやつらに構っている時間はなかった。イワシがすぐに海へ戻ると、頭を出してヒメを呼ぶ。


「こっち! 付いてきて!」


 ヒメはイワシに従い、水飛沫をあげて海の中へと潜っていく。


 海の中には数多の生き物が泳いでおり、本来この海域にはいないものも多くいた。その中には、あの時助けたタイの姿もあった。


「上から網が来るよ! 付いてきて、ヒメ!」


 魚群の中を、ヒメはイワシを追いかけて全速力で泳ぐ。上からは投げ網が投下されており、ヒメを守る魚群がいくつか持っていかれる。


「あぁ……」


 ヒメは持っていかれる魚たちを救いたい気持ちに襲われるが、ヒメにとって海は一度捨てた存在だ。今更、唯斗を助けるために犠牲を払うのは仕方のないことであった。


 ヒメはそれを理解しており、心を殺して唯斗のもとへと向かう。


 段々と投げ網の精度が上がっており、ヒメの体を掠めることもあった。そんな状況を打開するように、ホタルイカたちが突如海面を覆い始める。


「なんだなんだ⁉︎」


 そして、ホタルイカたちはそれぞれ青白い発光を始める。海の上は青のイルミネーションに染まり、星空のようにも見える。それはどんな星空の投影機よりも美しい、ヒメのためだけに用意されたステージ。


 ホタルイカたちによる、盛大なカムフラージュであった。


「イカさん……」


 海の生き物たちが、全力でヒメをサポートしている。それが人間のためであろうとも、海の生き物たちが止まることはない。気が付けば、ヒメの肩に大きなハサミの腕を持ったロブスターまで現れる始末だ。


「ヒメ! 前を向いて!」


 ヒメとイワシの目の前に、巨大な網が現れる。それは、船引き網漁と呼ばれる二隻の船を使った漁の仕方であった。


「ダメ!」


 正面衝突のようになっており、避けるのが間に合わない。しかし、突然網の動きが不自然になる。


「クソ! 邪魔だ退け! どこの輩だお前!」

「いや待て、あいつは苗島のところだ! 唯一俺たちに船を貸し出さなかったやつが、俺たちの邪魔をしてやがる」

「テメェ! どうなるかわかってんだろうな!」


 ギャーギャーと騒ぐヤクザたちに、苗島父は腕を組みながらなんともない表情を見せる。


 網の動きが変わったことで、ヒメたちも引っかかることはなく通過することができた。


「なんかよくわからないけどよかった! ヒメ、こっちこっち!」


 多くの助けがありながら、ヒメは更に唯斗の落下地点まで進んでいく。この時点で、唯斗が海に落ちてから一分以上が経過しており、唯斗の息も限界を迎えようとしていた。


「人魚姫様の邪魔をするなー!」


 魚たちが肉壁となり、自ら網などへ引っかかっていく。多くの犠牲を払いながら、ようやく唯斗の見える位置まで泳ぎ進めることができた。


「あと少し――」


 そのヒメの斜め上を、猛スピードの小型船が一隻追跡していた。


「居たぜ居たぜ! おれの人魚姫ちゃん!」


 それは天井の乗る船であり、天井は特殊な銃のようなものを取り出して構えていた。


「使ってやるぜ、新時代の捕り方をなぁ!」


 それは投げ網を発射する装置であり、その精度と素早さはヒメであっても避けることができない。


「そんな――」


 海面から狙ってくるのを見ながら、ヒメはあと少しという絶望に苛まれる。


 その時、ヒメの左斜め上に居る天井とは逆方向から、猛スピードで接近してくるもう一隻のボートがあった。そのボートは綺麗な曲線を描きながら、最大出力で天井の乗るボードへ突進した。


 ズガゴンッという酷い音と水飛沫をたて、天井の乗る船は大きく揺れて動きが止まる。


「バカヤロウッ! 女が男に会いに行くってのに、邪魔するバカタレがいるかボケッ――‼︎」

「サシダ――!」


 初めての操作でありながら、指田がノンストップでここまでボートを進めてきたのだ。


「クソ女が――! 邪魔すんじゃねえ!」


 すると天井は乗り上げたボートに乗り移り、どこから持ってきたのか内胸ポケットから小型ナイフを取り出した。


「ダメ――‼︎」


 いくら指田であっても、刃物待ちは分が悪い。ヒメは引き返そうとも思ったが、そんなヒメを差し置いて、指田のもとへ泳いでいく一匹の小魚が居た。


「姫〜! お元気で!」

「イワシちゃん――‼︎」


 ヒメにとって、海の中で一番と言える友だちは、別れを告げて泳ぎ去ってしまった。


「ぐっ――」


 天井のナイフ捌きをなんとか受け止めようとするが、相手は殺しの専門家。すぐに指田は不利な状況となる。


「死ねぇ!」


 死を覚悟する指田の目の前に、一匹のイワシが現れる。海面から勢いよくジャンプしたイワシは、天井の左頬へ猛烈なアタックを加えた。あまりに小さな衝撃だが、不安定なボートの上で天井の体勢を崩すには十分であった。


「ぬぅっ――‼︎」


 そして天井はナイフを海へ落としてしまう。


「クソ魚ァ‼︎」


 ボートの上でピチピチと跳ねるイワシを踏み潰そうとした時、指田による右蹴りが天井を直撃し、天井は海へと落ちていった――。


「クソ!」


 黒髪の男も操縦席から出て、指田のところまで向かおうとしたが、突如横から船にジャンプして侵入してきたイルカにそれを阻まれる。


「なんだこいつ――⁉︎」


 いくつもの犠牲があった。いくつもの助けがあった。繋がった縁が、今のヒメを助けている。唯斗を助けている。


「ユイト――!」


 ヒメは目の前に迫る唯斗の名前を呼ぶ。海の中ではあるが、ヒメはその声を生き物に聞かせることができる。


 脳内に響く声で、途切れかけていた意識が呼び覚まされる。


「ヒメ……」

「ユイト!」


 ヒメはやっとのことで唯斗に触れると、すぐに海面へ連れていく。


「ぶはっ……は……は……」

「ユイト、すぐに陸へあげるからな!」


 ヒメはそう言って、唯斗を陸にあげようとする。しかし、近場であがれる場所は――一つだけあった。


「もう少しだからな」


 ヒメは安心させるように言って、唯斗を連れて海側から見て右の山側にある砂浜へ向かう。


 移動中、何度もヤクザに襲われそうになったが、その度に苗島父や指田、海の生き物たちがそれを阻んだ。


 唯斗の手足を縛り付ける紐は、いつの間にか肩に引っ付いたままここまで来ていたロブスターがハサミで切ってくれていた。


 ロブスターは役目が終わると、ヒメに対して手を振るようにして海の底へと消えていく。


 そうして数分をかけて、ヒメは砂浜へと辿り着く。この時には追っ手は来ておらず、恐らく妨害によってヒメの居場所を見失ったのであろう。


「ユイト! ユイト!」


 朦朧とする意識の中、唯斗はヒメの顔を見た。砂浜に横になり、ヒメがその上で泣いている。


「ユイト――」


 海水なのか涙なのかわからないものが、唯斗の顔にいくつも落ちてくる。


「ユイト――」

「ヒメ……」


 朦朧とする意識の中、唯斗は感じていた。温かさを、柔らかな感触を。唇に触れる感触は、お互いにとって初めての感覚であった。


 その時間はたったの二秒。ヒメは顔を離すと、ユイトの頬に手を当ててこう言った――。


「バイバイ――」


 ヒメの言葉に、唯斗の意識が段々と戻っていく。


「ヒメ……」


 ヒメの柔らかな手の感触が無くなっていく。


「ヒメ――‼︎」


 次に唯斗が名前を呼んで手を伸ばすと、そこは砂浜ではなく――病院のベッドの上であった。

 あとがき

 どうも、焼きだるまです。


 遂に次回で最終回です! 正確に言うと、その後にエピローグがあるので次回で最後ではないのですが……いや、ほんとに過ぎ去るのが早いですね。


 結局、この作品は一ヶ月半もなろうという空間で文学作品ランキングに載るという嬉しいことを達成してくれました。そもそも書いてる人が少ないのは置いておいて、私にしてはがんばった作品だと思います。


 さて、長話はここまでとして、その結末を皆さんの目で、確かめてみてください。


 では、最終回でお会いしましょう!

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