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第九話「マーメイド・ランナウェイ」(5/5)

 真鳩の合流により、苗島とヒメはその場から離れることに成功する。それと同時刻、唯斗はある男が乗っている船の上で目を覚ます――。

  5.



 ――その頃、大男のヤクザに負けた唯斗は、ある声を聞いた後に意識を失っていた。そして、唯斗が目を覚ますと――、


「やあやあ、目が覚めたかい?」

「……誰……だ……?」

「あらら、この子もおれの名前知らないみたい」


 目の前に立つ男はサングラスを外し、唯斗に向かって自己紹介を始めた。


「おれは天井道曽根(あまいみちぞね)。二年前、バラバラ殺人事件とかを起こして以降指名手配を受けている、通りすがりの殺人鬼だよぉ」


 男は狂ったような表情で、不気味な笑顔を浮かべる。唯斗はまた手足を縛られた状態にあり、揺れていることからもここが船の上であることがわかる。操舵室には、黒髪の男が居た。


「……なんで、そんな殺人鬼がこんなところに?」

「思い出したんだ! 君の声を聞いて。実はおれたち、前にも一回会ってるんだよね。その時は気が付かなかったけど、君の家の前だよ」


 その言葉で、唯斗の記憶も蘇る。


「いやさ、金があればどこへでも行けるわけじゃん?」


 家に近い場所で、同じような男二人組を見かけていた。


「あの時の……!」

「そう! 多分その時の」


 天井はそう言って船の横に座ると、足を組んで話の続きをする。


「それで、実は君の声自体はその前にも聞いたことがあったんだよね。それが、右の山の海岸での話。海を眺めてたらさ、人魚姫が出てくるのを見ちゃったの。姿は見れたけど、話してる人の姿までは見えなかった。声は聞こえていたけど、まさか君だとは、つくづくおれたちって因果なものだよね!」


 天井の言葉に、ヒメの情報が漏れてしまった理由がわかった。


「あの時……クソ……」

「そう自分を責めないの。そもそも、良いものを独り占めしようだなんて考え、おれはよくないと思うな〜。だってさ、誰かが独り占めしちゃうと他の人が遊べないじゃん。だからおれがわざわざ人魚姫を預かろうって話で――」

「誰がお前なんかにヒメを渡すかッ――!」

「威勢がいいのはいいんだけど、君ってそんなこと言える状況だっけ?」


 それは事実であり、唯斗は天井の話を聞くくらいしかやれることもなかった。


「あ、そうそう。君のお姉さんとも仲良くさせてもらってるよ。あと、ごめんね?」


 天井は笑いを溢しながら、不敵な笑みを浮かべて唯斗に顔を近付ける。


「君の両親自殺したの、おれのせいだったわ(笑)」


 唯斗にとって、血の繋がった両親は自身をしっかりと見てはくれない良い親とは言えなかった。しかし、例えそれでも血の繋がった家族なのだ。


「――」

「おー、怖い怖い」


 怒りの感情が爆発しそうなくらいに、唯斗の表情は鬼の形相を見せていた。


「いやぁ、君のお姉さんと仲良くさせてもらってるからって、色々関わってたんだよね〜。そしたら、自殺に追い込んじゃってたらしいわ! ごめんね! でも、悪気はないし。君のお姉さんには話してないけど、特に聞きもしないからそのまま付き合わせてもらってるよ! ありがとうね! 都合の良い女くれて! いや、君は何もしてないか! あっははは」


 男は狂っていた。人の心などはない。そこに居るのは快楽殺人鬼、本物の鬼なのだ。


「黙れ――」

「なんて?」

「うるせえんだよ! 黙ってろよ!」

「へえ。君ってそんなことも言うんだ。まるで、君のお姉さんみたいだね(笑)」


 何を言っても、この男には効かない。しかし、心に溢れる言葉はこの男にしか向かない。


「そうだ、良いこと思いついた。さっきから人魚姫が現れるのを待ってるんだけど、中々現れないんだよね。そこで天才なおれは閃きました。今から五分のタイマーをセットします。そして、その様子を君の関係者さんたちに君のスマホで送ります。あぁ、指紋はさっき気絶している時に解除しといたよ。俺やっさし〜」


 唯斗のスマホをいじる男は、スマホを上手くセットしてタイマーが見えるようにカメラを映した。


「今から五分後、人魚姫が現れなかったら唯斗くんが海に落ちます。唯斗くんは軽く重石をつけられていて手足を縛られているので、泳ぐことも浮くこともできません。それまでに、早くここに人魚姫を持ってきてくださいね〜。用意、スタート!」


 天井の手によって、五分のタイマーがスタートする。


「あっははは、今頃地上は大騒ぎだろうね。君の命がかかってるんだもん。もしかしたら、君の命のために人魚姫ちゃんを差し出してくるかな? うっわー仲間差し出すとかさいてー、おれそういうの嫌いだわ〜」


 虫唾の走る言葉が次々と吐き出てくる男に、唯斗は睨みを効かせるしかできない。


「まぁ、ゆっくり最後の五分間を楽しみなよ。せっかくの因果な関係なんだ、お互い仲良くいこうな――」


 ◇◆


 ――真鳩と若頭の斬り合いは、唯斗のタイマーが始まった時にも続いていた。


「チッ、しぶてえんだよ!」

「若頭こそ、自分で磨き上げたと豪語していただけはあるな。確かに剣術はおれと互角だ」


 斬り合いはいつの間にか倉庫の二階へと場所を変えており、そこは手すりを超えると地面へと落ちれる最高のステージとなっていた。


「俺は、この勝負でお前を殺しててっぺん取るんだよ! お前の臆病なやり方とは違って、日本全体に名を轟かせる極道になる‼︎」


 刀の弾き合う音が、倉庫内に響き渡る。


「それはそれは、良い夢をお持ちだ。だがな、俺たちは元よりてっぺんに興味ねえんだ」

「嘘つけぇ! 漁港まで持っておきながら薬の横流しもろくにしない! お前は怖がってるだけだ、警察の世話になんのがそんなに嫌かよ!」

「嫌だねえ、娘の成長を影ながら見守れなくなる」

「娘? 娘のためにそんなことしてんのか、テメェは? やっぱ頭にタバコ(ヤニ)が詰まっちまってるらしいなぁ! 極道にそんな可愛らしい部分は要らねえんだよ‼︎」


 若頭の一撃により、真鳩のコートの一部が斬り裂か


「そんな動きにくい服装して、舐めてんのはどっちだオラァ‼︎」

「ふんっ」


 出入り口の揉み合いは数を減らしており、残り十人ほどがやり合っていた。


「昔っからテメェのやり方が気に食わなかったんだよ! 暴力で解決すればいいものを、すぐに金や優しさだで簡単に済ましちまう。大金を出させるならまだいい、しけた金を出させるなんざ極道の名に恥じるだろうが!」

「お前は極道に何を求める」

「力だ、力は全てを支配する。そのための絶対的権力、金もまた必要だ」

「そのために、今回の依頼を受け持った?」

「あんたらのやり方を変える、変革のための最初の一歩! そして、お前が死ぬことでその変革の第二歩が完遂される! ここで死ねぇ! 真鳩ォ――‼︎」


 若頭の一撃が、一撃を避ける真鳩の左腕をかすめながら斬り裂いていく。そして、刀は手すりに当たる。その手すりは――斬り合いによって数多の傷が付けられ、耐久度を減らしていた。


 ガコンッという音が鳴り響いた。


「すまねえな。らなのためにも、俺は死ねねえんだ」

「何――」


 若頭の刀は、奇しくもその切れ味が仕事をしてしまった。手すりを壊し、若頭の居る足場もろともを崩壊させる。


 元々ここの二階は立ち入り禁止の札が貼られており、老朽化が進んでいた。


「お前は若過ぎたんだ。だから、周りが見えねえ」


 若頭はそのまま体勢を崩し、崩壊する足場と共に地面へと落下していく。


「真鳩ォォォォォ――――‼︎」


 バゴンッという鈍い音と共に、若頭の声は聞こえなくなった。


「お前には、しっかりと剣術以外を教えてやれなかったな。やはり、俺は育てるのに向いていないらしい」


 真鳩はそう呟くと、二階から下りていく。中央には、血溜まりの中に大の字に横たわる若頭が居た。出入り口付近の揉み合いは終わっており、真鳩派の組員が二名、気絶も死にもせずに立っていた。


 その他の組員たちは全員気絶をしているか、運の悪いものは死んでいた。


「おやっさん……」

「テメェら、まだ動けるか」

「はい!」

「はい!」

「残党狩りだ。この真鳩に忠誠を誓ったお前らの力、奴らに見せてやれ――」

 あとがき

 どうも、焼きだるまです。


 これにて第九話が終了! 物語も遂にラストスパートです!


 ヒメの運命は、唯斗の運命は如何に――次回、最終話「マーメイド・ランデブー」


 その最後を、読者様方の目でしっかりと見届けてください――!

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