第63話:音楽ゲームを知る事(ステージ5)
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8月4日午前12時20分、ゲーセンの自動ドアが開いて数メートル歩いた辺りで加賀ミヅキと遭遇した山口飛龍――。
「山口飛龍、超有名アイドルの様な勢力は撤退したが、ミュージックオブスパーダは――また新たな危機を迎えている」
加賀はインナースーツ姿で、おそらくはARゲームをプレイして帰る、あるいは別のゲームコーナーへ移動する辺りだったのだろうか。
「新たな、危機?」
しかし、今の山口にはSOFへのエントリーも含め、ミュージックオブスパーダに参戦する余裕はない。話だけでも聞く事にするが、それを聞き入れるかどうかは別の話だ。
「超有名アイドルの芸能事務所が、本気で――」
加賀が何かを言おうとした矢先、山口のタブレット端末からメール受信音が鳴る。それに気付いた山口は鞄からタブレット端末を取り出し、メールの中身を確認するのだが……。
「これは――?」
山口の驚きに加賀は何が起こったのか理解できずにいた。さすがに個人のメールと言う事で、タブレット端末をのぞく訳にはいかない。
「こちらも、か」
加賀の方もARガジェットのアラームが鳴っているのだが、マナーモードと言う事もあって気づくのが遅かったらしい。
「運営が手を打ったにしては、早すぎる。一体、何が起こったのか?」
情報を確認するにしても、この場では人が多すぎる。そう判断した加賀は一度ゲーセンから退店する事にした。厳密には駐車場近辺まで移動するだけだが。
人の少ない駐車場近辺まで歩いてきた加賀は、改めてARガジェットで今回の情報をチェックし始める。
《まとめサイト大手、超有名アイドルの所属する芸能事務所と密約が存在した事が発覚。超有名アイドルの政治進出、世界征服への第一歩か?》
その情報ソースはつぶやきサイト上だった。しかも、この手の情報は奏歌市では閲覧不可のはずが、何故か閲覧できる。
「ニュースサイトでもこのニュースがトップ記事になっている。やはり、まとめサイトが主導になって超有名アイドル信者を増やしていたのは紛れもない事実だったのか」
さすがの加賀も今回の一件は焦りを感じている。世界線やアカシックレコード上だけの事例が、現実で起こった事には自分でなくても焦るのは無理もない。
それに加え、ネット上ではいわゆるまとめサイトに所属するようなサイトやつぶやきアカウント、釣りアカウントが魔女狩りの如く差し押さえ、更にはそれに関わったアイドルメンバーも逮捕された。
この状況は大混乱を呼ぶような物であり、大規模な破壊行為に近い物と加賀は考えた。まさにネット上で大漁破壊兵器に類する者が使われた――と言っても過言ではない。
「そのニュースに慌てると言う事は、アレが使われたと思っているのか――加賀ミヅキ?」
想定外は、ここでも発生した。加賀の目の前に姿を見せた人物、それは南雲蒼龍だったのだ。
しかも、外見は野球帽をかぶっており、軽めの服装と言う事で加賀が認識できなかったのも無理はない。
「南雲、お前は何が起こったのか知っているのか?」
「向こうの方で『こちらへ干渉する』つぶやきに該当する事案が発生した――と言うべきか。メタ的な発言をするとすれば、そう言う事だ」
「干渉する事案――アカシックレコード内の記事がつぶやきサイトへ流れたと言うのか?」
「アカシックレコードとは違う。しかし、それに類する力を持った人物が事案に対して懸念を持ち、魔女狩りを始めたと言うべきだろう」
「アカシックレコードに類する力――神の力だと言うのか?」
加賀には南雲の言うアカシックレコードに類する力が神の力と言うのだが、加賀はそれを認めようとはしない。
「過去に起こった事案、それらはアカシックレコードの警告を無視した事によって起こった事件だ。超有名アイドル信者によるまとめサイトを悪用した印象操作は」
「まとめサイトが超有名アイドル信者と絡んでいる事は、バウンティハンターとして行動している時から感じていた! だからこそ、そうした印象操作や火事場泥棒、タダ乗り勢力をせん滅しようと考えたのだ!」
「加賀ミヅキ、お前はネット炎上をネット世界における大規模破壊行為や戦争、デスゲームと勘違いしているのか?」
2人の話が続く中、南雲のある単語が加賀にARガジェットを展開させる事案を発生させた。そのガジェットは、レールガン系の新型ガジェットである。
「それは違う! ネット炎上は――ありとあらゆる世界での紛争は根絶しなくてはいけない! それは、超有名アイドルがCDランキングを独占するようなことであっても」
加賀はネット炎上という単語に過剰反応しているのだろうか。南雲は更に説得をしようとするのだが、彼の発言は加賀を煽るだけで、全く耳には届いていない。
「そうか――ありとあらゆるものに上下関係があると言う事、それが争いの原因になるなら――ランキング精度を法律で禁止にすればいい! 人の命を奪う様な事案は全ての世界で不可能にすれば――」
そして、加賀はARガジェットのトリガーを引くのだが、セーフティーの影響でレールガンが火を吹く事はなかった。南雲は、それを百も承知であえて引き金を引かせたのか。
「アカシックレコードに依存した事による代償――そう言う事か。おそらく、大和杏も……」
南雲には分かっていた。アカシックレコードへの依存、それはつぶやきサイト依存等と同じように一種のウイルスみたいな物なのではないか、と。
そして、自分が本当にミュージックオブスパーダで目指そうとしていた物――それは単純に『反抗勢力の根絶』を大量破壊兵器ではなく、ARゲームで行おうと言う物であってはいけない、と。
「人は過ちを繰り返し、それがループする――アカシックレコードのループ、長寿アニメの時間が経過しない時空は認めたくない。あれを認めれば、人はいずれ――」
今回の加賀の一件に関しては、特殊案件としてガイドライン違反に問われる事は特になかった。加賀自身にも自覚がないという訳ではなく、南雲が特例を認めた訳でもない。
午前12時30分、加賀が改めてゲーセン内へ戻り、山口と合流する。その表情は、先ほどの動揺とは打って変わった物である。
「何があった?」
「別に、何もない」
「そうか」
「何を聞こうとしていた?」
「こちらも特に聞こうとは思わない。既に自己完結している」
山口の問いにも答えることはなく、それを追求する事はなかった。逆に加賀の方も、山口から何か聞こうと考えていない。
「それならいい。音楽ゲームをプレイする為にゲーセンへ来たのではないのか?」
加賀の言葉にも変化が見え始めている。まるでチョロインを思わせるが、山口の方は特に気づくことはなかった。
「??」
加賀の姿を発見し、驚いたのは途中で合流した長門未来である。
「加賀ミヅキ、あなたどうして?」
ここで長門は加賀だとようやく気付く。ツンデレ化したのではなく、普通に気づかなかったようだ。表情が今までの物と違うのも、誤認した原因だろうか。
「とりあえず、3人で再開するか」
山口は長門と加賀を連れ、1階の音ゲースペースへと移動を始めた。山口も若干強引だったが、それを見て加賀の方はくすりと笑う。
「そうだな。音楽ゲームは、本来であれば何も考えずに楽しむのが一番だ」
加賀の方も乗り気らしい。チョロインだったかどうかは別として。




