第61話:新たなるフィールドへ
>午前2時25分付
誤植修正:誰特→誰得、あアイドル投資家→アイドル投資家
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西暦2018年、ARゲームの中でも異色と言える音楽ゲームがリリースされた。その名は、ミュージックオブスパーダと言う。
ネット上では音楽ゲームの皮を被ったアクションゲーム等と言われていたが、アクションに強いプレイヤーやアスリート等が挑むも玉砕した。
その内容から、いつしかネット上では無理ゲーと言われる事もあった。しかし、それを一変させた人物がいる。
彼の名は山口飛龍、元々は作曲家と言う事もあって、音楽には強いという事もあり、最初は苦戦するのだがシステムを理解していた。
最終的に彼はスコアトライアルで優勝し、今やトップランカーと言われるまでに至った。
その一方で、ミュージックオブスパーダが順風満帆で運営が出来ていたかと言うと、試練の連続だった。
他のARゲームでも同じ事が起こっていたアイドル投資家や反ARゲーム勢力による襲撃、一般人による目立ちたいという理由だけでのネット炎上行為、更には大手芸能事務所の介入――。
ニュースで報道されていないような細かい事例を含めると、100や200で収まるかどうか……と言うレベルである。
ミュージックオブスパーダでは、こうした事態に備えての防御策を組んでおり、これでもARゲーム関連では少ない位。
逆に防御策がなかったら、1000や2000という部類になっていただろう。やはり、歴史は繰り返されるのか。
しかし、その現実を覆そうと動き出した人物もいた。運営所属でありながらも状況の打開の為に動いた――南雲蒼龍も、その一人である。
彼は、いわゆる『信者』と言う概念に関して懐疑的な意見を持っていた。音楽ゲームを数作開発し、それから新たな音楽ゲームの神と言われた時期もあったらしい。
そうした経緯はアカシックレコード上に記載はされていない。意図的に南雲が消した訳ではなく、あえて取り上げなかったのである。
その理由は定かではないが、彼の行為が超有名アイドル信者やフーリガン、アイドル投資家の目に触れ、そこから大規模な破壊活動へ発展したら――そうした懸念を南雲信者が持っていたからだ。
こうした一説でさえも、信者にとっては都合の悪い出来事として潰しにかかる可能性は否定できない。
「――この世界は、いつから楽しくもないような、金目当ての投資家連中の無双を許してしまったのか」
うさみみに見えるようなヘッドフォン、特殊な技術で出来たと思われるサングラス、ノーパンスパッツ、それにぽっちゃりとスリムの中間の体格――彼女が木曾あやねである。
「超有名アイドル信者は、自分達が良ければどのような手段を取る事も辞さない。犯罪行為以外は」
木曾のいる場所、そこは西新井に2年前にオープンしたARゲーム専門のショップである。
何故、木曾がここに来たのかは不明だが、イースポーツ化が進まない事にいらだちを覚えている訳ではない。
木曾の外見を見て、指をさすような子供もいなければ、スマホのカメラで写真を取ろうと考えるつぶやきサイトのユーザーもいない。それは、彼女が別ジャンルの有名人であり、顔が割れているのも理由だ。
その経歴とは、音楽ゲームにおけるランカーの一人。それも、南雲蒼龍を凌駕する程の実力者である。南雲の場合は開発者と言う立場もあるのだが、彼女は純粋なプレイヤー出身だ。
彼女に関われば必ず異変が起きると言わんばかりに噂が広まり、近づこうという人物もいない。それもあって、彼女は常時一匹狼のような状態にある。
「何処でも、この状況は変わらない。どうして、私に関わろうとしないのか」
木曾と関わろうとしない理由には――更に一つ存在する。それは、彼女の正体がイースポーツでも猛威をふるっているプルソン。
プルソンと言えば、イースポーツのガチ勢とも言われ、関わった人物は消されるという話まであったほど。
しかし、こうした逸話は全てつぶやきサイト上で釣りアカウントや投資家アイドル等が存在を抹殺する為に流した――印象操作と言われている。
数分程周囲を見回し、昼ごろにはコンビニでのり弁当とお茶を購入、近くのスペースでお昼を取る事に。
「アカシックレコードは言った。『目を覚ますのは、偽物の情報に踊らされているユーザーだ』と」
唐突にアカシックレコードに記載されたメッセージ、それは――。
『目を覚ませ! 偽りの情報に踊らされている全ての世界の住人たちよ』
『その情報に踊らされ、いつしかネット上には超有名アイドル信者やアイドル投資家に支配されたディストピア――』
『そして、絶望の未来が訪れると恐怖をばら撒くユーザーに警告する』
『この世界はお前達の都合よく話を進められるような場所ではない。ましてや、この世界と別のアニメや漫画を掛け合わせた、悪意を持ったクロスオーバー……』
『気が付けば、世界線としての物語ではなく、他のアニメやゲーム、漫画で起きた出来事と錯覚させるような二次創作も出てくるだろうか』
『そうした誰得とも言える作品をWebサイトで公開し、ランキング上位に入って優越感を得ようとするような存在――それを私はアイドル投資家に操られた存在と認定する』
『私の名は名乗れないが、敢えて言うなれば西雲提督とでも名乗ろうか――その意味は、君達の方が分かるはずだ』
『もう一度警告する。偽物の情報に踊らされ、それに流されるように従う一般人はアイドル投資家に利用されるだけだ、と』
このメッセージは動画と言う形で公開され、約3分程の内容はつぶやきユーザーに衝撃を与えた。
どの程度の規模かと言うと、このメッセージを聞いて心当たりあるユーザーが心境の変化――。
つぶやきサイトのアカウントを解約、二次創作が無双していた小説サイトで一次創作オンリーと言わんばかりの創作小説のランクイン、更には釣りアカウントを特定してアフィリエイト系サイトとのつながりを暴露、特定芸能事務所と政治家の癒着――。
あげていけばきりがないような変革をもたらしたのだ。しかも、こうした動きは全てアカシックレコード内で公開されていたWeb小説と同じ結末になっている。
「西雲提督という名前も、複数のアカシックレコードで使われている名前を組み合わせた名前にすぎないか。では、今回の動画の真犯人は誰だ?」
木曾は疑問に思う。しかし、動画を見ながらのり弁当を食べる姿は、周辺にとってもシュールな光景に見えるだろうか。
「どちらにしても、新しく始まるミュージックオブスパーダにとって水を差すような事件になるのは――」
間違いない、と言おうとした木曾の前に姿を見せたのは、白衣を着ていないので最初は分からなかったが、大和杏である。
「西雲提督? それこそ、アイドル投資家等でもない第三者に悪用されているだけ。アカシックレコードは、いわゆるひとつのWeb上に存在する大手ウィキと言っても過言ではないのよ」
大和の方は木曾の意見に対し、反対の立場をとっているようだ。しかし、のり弁当のポテトコロッケに手を付けている為か、話は聞いていない。
「私はダークヒーローやアンチヒーローを気取る事はしない。そんな事をしても、便乗犯や愉快犯を生み出すだけ。それは一連のバウンティハンターが物語っている」
木曾の方が弁当を食べるのを止め、今度は緑茶のペットボトルに手を付ける。そして、木曾は大和の方に視線を向けることなく、黙々と作業を始めた。
「便乗犯や愉快犯、それもつぶやきサイトや無料の会話系アプリを用いた物が多い。今までも犯罪に利用されているのに、免許制度や未成年使用禁止等を提案しても却下される現状では――」
大和は木曾のやっている事もダークヒーローの一種と反論しようとしたが、発言の方は若干遠回しに思える。周辺に聞かれたくない訳ではなく、敢えて意図的に内容を周囲にも聞こえるように言っている気配もする。
「それも、アガートラームを持つ者の宿命か。そちらこそ正義の味方を自称し、目立ちたいだけなのではないか?」
木曾の方も反撃をするが、大和の方はチョコパフェを食べている。しかも、スティックチョコがちくわ風という変わり物を食べていた――。
「どちらにしても、信者が戦争を引き起こしかねないような状態が続く限り――コンテンツ業界の変化は、そこで止まる」
大和がちくわ風のチョコに手を付けようとした所で、彼女は一言。これが何を意味するのかは、木曾にはおおよそ分かっていた。
「白熱した論争に参加できるほど、自分の状況は良くない――それは、お互いに似たような目的を持っているのが理由の一つだと思う」
木曾の一言を聞き、大和の方も何かに気付いた。似たような目的とは、ARゲームをイースポーツの種目にする事。お互いに立場は違えど、目的は同じと言う事らしい。
それから10分後、大和と木曾はお互いに昼食を食べる。大和の方はチョコパフェ以外にもドーナツを複数買っていたようだ。それに、コーラ。昼飯と言うよりは、デザートである。




