第60話:曲を奏でる剣
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7月28日当日、新ガジェットを手に入れようとする人たちが、アンテナショップへ行列を作るという構図にはならなかった。
これには、行列で混乱を起こしてはネット炎上勢のネタにされる事を恐れた運営の考えもある。
しかし、これには過剰反応と見るネットユーザーもいるのだが――。
【ARガジェットが転売屋に流れる可能性は低いが、ここまで厳重警戒をする必要性があったのか?】
【ネット炎上勢は、いつ、どこ、どのような場所でも何かをネタにして日本を混乱させ、超有名アイドルの宣伝に命を懸けるだろう】
【それに命を懸けるべきか――というよりも、大金を得られるかどうかで天秤にかけているのだろうな】
【ありとあらゆるメディアは超有名アイドルの広告塔として制圧された時代もあった。それこそ、超有名アイドル以外の宣伝を禁止する位のディストピアに】
【それ以外のファンは全て駆逐する――そうした憎しみがアイドル同士の流血を伴う戦争を生み出した。あくまで戦争はWeb小説上での話であり、夢小説で書かれた物だったが】
【超有名アイドルでは日本を本当の意味で変えるコンテンツにはならない。一部のアイドル投資家が影で日本を操るような――宣伝材料でしかない存在にすぎない】
本来であれば検閲されるような単語が、今回の流れではそのまま載っていた。これに対して、一部の反超有名アイドルや反ARゲーム勢が見事に釣られる事になる。
しかし、この件に関しては触れられているログやまとめサイトは存在しない。これに関してはニュースでも報道していない以上、何らかの力で封印されていると考えられていた。
7月29日午前10時、新ガジェットを使用したプレイヤーがミュージックオブスパーダに姿を見せたのは、この辺りである。
理由としてはARガジェットの違法転売が確認されたとして、その犯人を特定する為に――というのが表向きの発表。
しかし、本当の目的はARガジェットの違法流通を仕掛けた人物の特定である。違法転売と違法流通では意味合いが違ってくるのだが――。
「違法流通の仕掛け人が、アイドル投資家の残党だったとは」
今回の件に関して驚いたのは、意外な事に運営サイドの南雲蒼龍だった。
彼が驚きの表情で、今回の事を知ったのには理由がある。それは、運営スタッフと思わしき男性が言った一言だ。
「新ガジェットに違法チップが組み込まれている話があった。それが使用されれば、音楽ゲームで自分の意思に関係なく超有名アイドルの宣伝をさせられる」
これを昨日の段階で知り、流通したガジェットの使用差し止めを考えたが――時すでに遅し。使用された形跡が午後6時の段階で確認された。
7月28日午後6時、この時に使用された剣型の新ガジェット、それが違法チップの搭載されたガジェットだった。
「何時もと違う楽曲がセレクトされている。それに、この曲は――」
ガジェットの持ち主は長門未来、彼女は何かの異変を感じつつも、楽曲のジャケットが表示されたARガジェットのモニターをタッチする。
《この楽曲は存在しません。既に削除された可能性があります》
英語のエラーメッセージと共に表示されたのは、楽曲が既に削除された事を知らせるメッセージである。権利者削除と言うのは、公式で展開している音楽ゲームならば、まずありえない。
音楽ゲームでも諸事情で楽曲が削除される事があり、作品の区切りでは削除曲が話題になる事も多く、物によっては復活希望の声が上がるほどだ。
「どちらにしても、あの曲名だと――超有名アイドルの曲が誤配信されていた可能性も否定できないか」
結局、長門は別の楽曲を選択し、それをプレイする事になった。クラシックアレンジと言うよりは、クラシック曲をバンド風味に作り直したような曲である。
7月29日、新ガジェット関係の一件がネットにアップされたのが確認された。
《新ガジェットの一部にリコール。超有名アイドル関係の企業がパーツ横流しか?》
記事の内容としては、新ガジェットに使われている部品が超有名アイドルに関係のある企業の物で、それが横流しされたとの事だった。
そのパーツが奏歌市で禁止されている超有名アイドル関係のグッズと判断され、リコールを届け出た――というのが要約である。
「超有名アイドル関係のグッズね――言い得て妙か」
タブレット端末で一連のニュースを確認していたのは大和杏、彼女は新ガジェットを発注したのだが、一連の騒動もあって届くのが遅れているのだと言う。
「今回の一件で出遅れたプレイヤーも多いが、それは他のジャンルも同じか」
今回のガジェット騒動はARゲームの半数以上で起こっていると言っても過言ではない。そして、システムの調整も一連の騒動や外部ツールの亜種が発見され、微妙な調整を行っている途中でもあった。
大和の場合はアガートラームの関係もあり、身動きが取れない。アガートラームは外部ツールと誤認識される程の能力を持ち、新システムに変更された今でも誤認識されるケースは存在する。
「やはり、ARガジェットの技術が公開されたのは間違いだったのか」
アカシックレコードと言う常今までの常識が通じないような物が公開された事で、それを独占しようとする動きは後が立たない。
技術を独占して儲けようとする者、アカシックレコード内のランキング独占を考える者、更にはネット上で目立ちたいが為に炎上のネタとして利用する者――それこそ、悪用のケースも十人十色である。
こうした動きに対し、アキバガーディアンや一部勢力も黙ってはいない。アイドル投資家や悪用仕様とするつぶやきユーザーを特定し、逮捕状まで用意する位だ。
更なる逃げ道として未成年だからという事で実名報道を回避しようと言う者もいるだろうが、アキバガーディアンの作りだした俗に言うコンテンツ法には、該当する犯罪を起こして逮捕された者は問答無用に実名報道すると言う物がある。
これに関しては賛否両論が存在する。実名報道するべきではないという動きもあり、マスコミはコンテンツ法で実名報道が任意である事を踏まえ、実名報道をしていない。
逆にネットで広まる自称正義のつぶやきユーザー等は実名報道を行い、正義の鉄槌を下しているというのだが――。
「やはり、つぶやきサイト等は免許制度にするべきなのか――」
大和はアカシックレコード内の論文にあったありとあらゆるものに免許制度を導入、国民にナンバーを付けて管理する等が実現してしまうのでは――とも懸念していた。
同日、アキバガーディアンの本部で情報収集をしていたのは、インナースーツ姿の明石春だった。
彼女はガーディアンの指示もあって、自分としては不本意でありつつも一件から引かざるを得なかったのである。
「ミュージックオブスパーダ――運営は何を狙っているのか、こちらにも悟らせない気なのか」
明石は過去に猪突猛進な性格で、失敗をしてしまう事もあった。それを踏まえ、性格改善を行った結果が現状の明石である。
「これは、まさか――!?」
タブレット端末で発見した写真ありの記事、そこにはエクスシアという単語と蒼天使を思わせるようなデザインのARガジェットが――。




