第四十九話
久しぶりの投稿、お待たせしました
楠先生は意味深なことを言うだけ言って、その場を去っていった。
その後、俺たちは片桐を迎えに行った。
「お二人はこの後どうされるんですか?」
帰ってきて着替え終わり、制服姿となった片桐は俺たちにそう問いかける。
「今日はとりあえず、船に戻って寝る」
俺はその問いに即答する。
「お前は、訓練しようとか思わないのだな。らしいが」
北島は呆れ気味に言う。
「いや、だって。戦士には休息だって必要だぜ?この一時を、休息に当てたおかげで、次の勝ちに繋がるかもしれねえだろう?」
「そこで、少しでも訓練して、負ける要素を減らそうとは、考えないんだな、お前は」
そう言われても、俺にはできないことだと思う。
というか、この期に及んであたふたと焦っても仕方がないと俺は思うんだがな。
ま、言わないけど。
「あはは...。でも、斎藤君の言うことにも一理ありますね」
片桐は苦笑いしつつも、そうフォローを入れてくれる。ええ子や。
「それで、北島さんはどうされるんですか?」
どうやら、初めの質問は継続中らしい。
「そうだな、とくには考えていなかったが、斎藤とこんな話をしていると、無性に訓練がしたくなってきたな」
それは俺への当てつけですか?北島さん。
「そうなんですか、それはちょうどよかった。私も訓練したかったんですが、ただのシミュレーションじゃあ物足りなくて。よろしければ、お相手お願いできますか?」
オー、カタギリ、オマエモカ。
まさかの裏切りに俺は、疎外感を感じずにはいられなかった。
「いいだろう。望むところだ」
気合の入る北島。なんだろう、ここにライバルの友情的なものが形成されつつあるんだが。
「楽しそうで、いいですねー」
「なんだ、混ざりたいのか?」
北島は冗談半分に聞いてくるが。
「冗談きついぜ。俺は帰って寝る」
俺にその選択肢はない。
いや、美少女二人に挟まれて、キャッキャウフフできるのなら考えたけど、確実になされるのは、濃い濃い訓練のみなので遠慮させてもらう。
「じゃ、俺は先に戻るわ」
俺はそう言って手を振り、帰路に着く。
*********
「おや、君は。斎藤祐司君、だね」
俺が船に向かって歩いていると、向かいから最近会った顔見知りと出くわす。
「郡山先輩」
俺の目の前に現れたのは、団体メンバーの隊長を務める郡山先輩だった。
「もう帰るのかい?」
「ええ、まぁ」
なにか訓練もろくにせず、早々に帰るのを咎められた気がして、俺はあいまいに答える。
「そうか。まぁ、休息も必要なことだからね。特に君は整備もしているんだろう?なら、できるうちにしておくのも重要なことだ」
「はぁ、そうですか」
俺は何となくこの先輩が苦手だ。
俺の思考や行動が、見透かされているような感覚に陥る。
それにここに来るまでの船の一件のこともある。だから――
「だから、すべてのことを水に流して、普通に話すことなんてできない」
郡山先輩は、俺の心の中を見たかのように、言い切った。
「まぁ、そうかもしれないね。だが、勘違いしないでほしい」
この人は、本当に何者なんだ。俺の思考を、こんなにドンピシャで当てるなんて。
「僕はあくまで、団体での勝利を、学校の勝利を願っているに過ぎない。そこに感情的なものは一切生じていない。あくまで全体のための行動だ。そう、あくまであの状況下の最善の手を選んだに過ぎない」
そう言って郡山先輩は俺の横を歩いていく。
「片桐さんのことは申し訳ないと思っている。けど」
俺は歩いていく郡山先輩を視線で追う。
「僕は謝らないよ?これもすべては、全体の益のための必要な犠牲に過ぎないのだからね」
俺はたまらず振り返り、郡山先輩にその言葉を撤回してもらおうと、叫びのような声を上げようとしていた。
全体のために斬り捨てていいなんて、そんなのおかしい。じゃあ、片桐の努力はどうなる。今回こそ何とかなったが、所詮は次善策。そんなものは詭弁に過ぎない。
「郡山先輩!それは――」
俺が言おうとした時、俺の目の前に郡山先輩の手があり、俺の言葉をさえぎる。
「ふ、斎藤君。少しゲームをしようか」
「あんた、なにを」
郡山先輩が急に言いだした言葉に、俺は困惑する。
「なに、ただのジャンケンさ」
俺はさらに困惑する。なぜこの先輩は急にジャンケンなんて。
「ルールは一回勝負。もし、君が勝ったら、直接片桐さんに今回の件を謝罪しに行こう。もちろん永原先輩や、今回の原因ともなった、先輩の機体に細工をした愚か者どもを連れてね」
「あんた、あれが他人からの妨害工作って知って!」
「さぁ、どうする?斎藤、祐司君?」
こんなの、受けるほかない。
「受けます。普通のジャンケンですよね」
「ああ、そうだよ」
俺は考える。普通にやっても、この先輩なら、俺の思考を読んだりして、俺の出す手を読んできそうだ。
だから、少しずるみたいだが、先輩の手の動きを見て、少し後出し気味に、勝てる手を出させてもらう。
「いいかな?斎藤君?」
「はい、お願いします」
「ああ、それと言い忘れていたけど。僕、ジャンケンってゲームで『人生で一度も負けたことがない』んだ。だから、本気で来ないと、勝てないよ?」
郡山先輩はニヤリと不敵に笑う。
俺は一瞬たじろぐ。ただの心理戦か、それとも本当にそうなのか。
「じゃあ、行くよ。じゃーんけーん」
俺は集中して先輩の手の動きを見る。
その瞬間、時々感じる時間が引き伸ばされるような感覚に入る。
来た、これさえあれば、勝てる!
先輩の手は人差し指から順番に開きかけている。つまりグーはない。ここで残りはチョキかパー。そのうちグーがないのだからパーを出す意味はなくなる。チョキ同士でも最悪アイコになるだけ。
だから俺が出すのは、チョキだ!
「ほい。はい、残念。君の負けだ」
だが、現実はそうならなかった。
「先輩!今!」
そう、郡山先輩は出す直前、ほぼ後出しに近いタイミングで手を変えてきた。
でもそれは、俺だって同じようにフェイントとしてやっていた。だが、この先輩はそのさらに先を読んでいた。正しく俺の心を読んだかのように。
「ズルだって言いたいのかな?でもそれは、お互いさまだろう?」
俺は何も言えなかった。
「安心していい。君が敗北したことへのペナルティーはない。それと、君はいろいろと未熟なままだ。もっとその与えられた能力を生かしていくように努めていったほうがいいよ」
俺はただ郡山先輩の顔を見つめる。
そして、俺の見つめる先輩の目は、右目だけが少し緑がかっているように見えた。
「じゃあね」
それだけ言い残して郡山先輩は、俺たちの学校のハンガーの方へと歩いて行った。




