第四十六話
大会四日目。
交流戦の二日目のこの日。俺は一試合目からの出場だ。
俺はまた、殺気立つハンガーを通り抜け、控室に入る。
「ちわーっす」
俺の無気力な挨拶に、殺気すら感じる鋭い視線を向けるのが数名。
これも一昨日と同じ風景だった。
「斎藤君、おはようございます」
俺が入ってくるのを見つけて、片桐が近づいてくる。
「おお、おはよう」
俺もその挨拶に、無気力さを付け加えて返す。
「大丈夫ですか?昨日もオフじゃなくて、整備をしていたと聞いていますが?」
俺の様子を見て、心配そうにのぞき込んでくる片桐。
俺はその言葉に、肩をすくめながら答える。
「別にこれは、昨日も働いてたからってわけじゃねぇよ。デフォだよ、デフォ。俺はこんな大会出たくなんかないからな」
俺の言い様に、片桐は苦笑する。
周りからは、殺気がさらに圧を増しているような気がするが、ここはとりあえずスルー一択で。
「斎藤君の事情は知っていますが、その言い方はさすがに、あんまりだと思いますよ?」
片桐の苦言を聞きながら、時間を確認する。
「そうか?俺からすると、強制参加っていうのは、もはや拷問とかと同義と思うんだけどな。ああ、もうあんま時間ねえな。じゃあ、また後でな片桐」
俺はそう言って男子更衣室に入っていく。
背中に小さな溜息を感じるが、そこもとりあえずスルーで。
*********
俺は山の中をただひた走る。
今日のフィールドは山岳フィールド。木々の生い茂る山の斜面での戦いとなる。
一昨日に引き続き、隠れるのが簡単のようで難しいフィールドでの戦い。
移動するにしても、気を使わなければいけない状況。そんな中で、俺は結構な速度を維持したまま走る。
俺は後方カメラを見ながら機体の左手で持つハンドガンで後方に弾を撃つ。
だが、弾は敵に当たらずに木に当たる。
「ちっ、残り九発!」
俺は今回の大会で課せられた制限に、改めて面倒さを覚えていた。
近接戦において得物の長さは、確かに重要だ。だが近接武器と飛び道具では、その戦う次元が違ってくる。だからこそ基本的に戦いには火器を用いての遠距離戦が主で、近接武装は予備になる。火器による攻撃の速さは、近接武器の攻撃の速さを凌駕する。
それでも飛び道具には明確な弱点がある。それは飛び道具にも有効的に用いるための間合いが存在すること。そして、攻撃回数が残弾によって制限されていること。
つまり、俺が何が言いたいのかと言うと。
「弾切れ狙いとか、ちょっと卑怯過ぎやしませんかねぇ!」
俺の今戦っている敵は、俺の射程から、つかず離れずな距離を保ちつつ、ちょろちょろと俺の周りをうろつき、さらには忘れたころにちみちみ攻撃を仕掛けてくるのだ。
正直ウザい。
制限時間いっぱい使って、こっちを確実に仕留める意図をびしびしと感じる。
これは普通に、俺のことを敵が警戒している。俺は周りからすごいとか評価されていると喜ぶべきなんだろうか?いや、ないな。
「なにはともあれ、打開策を考えないとな」
もし、ここで俺が逃げるのをやめて止まり、敵を迎え撃ったとしても、敵はまず間違いなく、こっちの有効射程の20メートルの外からじわじわと弾切れを狙い、なおかつ有効被弾数を地味に狙ってくるだろう。
ああ、なんてセコイ真似を!男なら拳で語ろうぜ!
まあ、逆の立場になれば、絶対に同じことをする自信があるが。
「立ち止まるとアウト。ならすることは一つか」
思考を巡らせて俺は一つの策を思いつく。
「さぁ、鬼交代だ、こら!」
俺は一本の木を片手で掴み、その木の周りをぐるりと回ってUターンする。
そしてブースターを吹かし、木々の間を蛇行運転しながら、敵へと急接近する。
敵も急に方向転換して、自分の方に近づいてくるのに驚きつつも、すぐにペイント弾をばらまきつつも後退していく。
だが、前を向きながら、後方カメラで敵の姿を確認して逃げていた俺と比べ、銃で牽制しているとはいえ、後ろ向きに逃げている敵の速度は遅く、木々にも衝突しながらで拙い。
「遅い、遅い!追いついちまうぞ!」
俺は牽制で放たれたペイント弾を、木々にの間を高速移動することによって避け続け、確実に近づいていく。
すると敵は、もう追いつかれることを覚悟して、木を背後において立ち止まり、40アサルトを構える。
移動しながらではなく、立ち止まって撃つことによって精度が上がり、俺に掠りそうになるペイント弾も増えてきた。
「ち、ビビッて逃げていればいいものを!面倒だなぁ!」
そう言いつつも、俺は迷うことなく前進し続ける。
話は戻るが、武器には有効的に使える距離が存在する。それはどこまで遠くまで届くか、というのもあるが、どこまで近づかれると取り回しが難しくなるかという面もあるのだ。
俺はフェイントを織り交ぜ、木々の間を移動して、今、敵との距離を十数メートルにまで近づいた。
「ここまで来れば、俺のも当たる!」
俺は木と木の間を移動する合間にハンドガンで敵を狙う。
敵は咄嗟にその弾を横に回避して、木の陰に隠れて半身を気に隠しつつ、こちらに銃撃をしてくる。
機体で行動している限り、木の陰にはどうあっても隠れきれない。常に体の一部が木の幹からはみ出てしまうからだ
だが、ある程度の被弾を覚悟し、敵の攻撃がじきに止むことが分かっているのなら、十分に有効な手だ。
つまりは俺にとってかなり嫌な手だということだ。
「くっ!でも!そっちがその気ならこっちだって!」
俺は木の間を移動しながら、さらに敵に接近する。その時には、必ず敵の隠れている木を使って、敵の死角に入るように移動する。
敵もその死角を解消するために、移動して射線を確保しようとする。
だが俺は、それよりも早く、敵の隠れている木の前にまで移動する。
俺は敵が近づいてきた俺に咄嗟に向けた銃を掴み、わざと自分の方に引き寄せながら、もう片方のハンドガンを敵のコックピットに突きつける。
「ここは、こっちの有効範囲だ」
俺は恨みを晴らすように三発、打ち込む。




