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人型陸戦兵器「|武士《もののふ》」   作者: 荒井尾 麓
第三部 防衛高校対抗戦編
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第四十五話

だいぶ間が空いて申し訳ないです。

 俺たちは小さな会議室で、東雲が仄めかした『英雄計画』について話していた。

 その中で、俺は過去に起きた事件と、その裏に見え隠れする陰謀の陰を聞いた。

 そして、その中で人身御供のように祭り上げられた人間が、つい最近であった『北方の守護神』こと篠原良悟だったことを知った。

 彼はなるべくしてなった、「英雄」なのだ。


「でも、北島。なんであいつは、俺のことを名指ししたんだ?ここでいうのなら、お前のほうが適任じゃないのか」


 俺はそこまで話を聞いて、疑問に思ったことを言う。


「いや、英雄には私じゃダメな理由がある。それは知名度だ」


 北島はそう言って静かに語りだす。


「私はこれでも、軍の中では名の通ったパイロットだ。おそらく東雲グループのシナリオの中にいる英雄は、無名の人間が一気にのし上がっていく、サクセスストーリーが必要なんだろう。

 だからこそ、最近急に彗星のように現れたお前のような存在が適任なんだろう」


 北島は机に肘を乗せ、手を組んでその上に顎を乗せる。


「その上、この計画には、おそらくだが、英雄の生死は問わない」


 俺は北島の言った不吉な発言にぎょっとする。


「おいおい、なんでだよ。英雄が死んだら、士気が下がったりして厭戦気分になったりするんじゃねぇのかよ?」


 俺の焦って紡がれた言葉に、北島はあくまで冷静に答える。


「いや、むしろ普通は逆だろう。英雄が死ねば、民衆はその死を悼み、殺した敵への恨みを増やし、さらなる戦いへと兵士を導くだろうな。その結果、経済は急速に回転を速める。勝っても負けても、英雄の存在自体が、戦争と経済を回すエンジンになるわけだ」


 北島はそう言ってから、小さな声で、「そんなに物事は単純ではないがな」とつぶやいた。

 俺は、そんな話を聞いて、心の中に怒りと恐怖を覚えた。


「正気の沙汰じゃねえよ」


 俺の心の底から絞り出したような言葉は、かすれて口から洩れた。


 それから何分経っただろうか。

 俺たちの間に会話はなく、ただただ時間だけが過ぎていった。


 俺が頭の中でいろいろな思考を巡らせていると、北島が急に立ち上がる。

 俺は急になんだと、北島に視線を向ける。北島はその視線を受けて口を開く。


「そろそろ夜も遅い。私はもう寝るが、お前はどうする?」


 淡々と言う北島に、俺は怒りよりも感嘆を覚える。


「お前は、すごいな。常に冷静で」


 濁った皮肉と、純粋な称賛を含んだ俺の言葉を聞いて、北島は俺の目をまっすぐに見ながら言葉をかけた。


「安心しろ、とは言わない。そこまで私も万能ではない。だがな、私は軍人だ。私は誰かを守るために戦う。理不尽がお前に襲い掛かろうというのなら、その火の粉、私が振り払うことも吝かではない」


 北島のまっすぐな言葉を聞いたとき、俺は心の中の不安や恐怖が、すべてではないが、わずかながらも取り払われるのを感じた。

 そして、俺は小さく笑って北島に言う。


「そうかい。ま、俺も万能じゃねぇけど、自分に降りかかる火の粉くらい、自分で振り払えるさ」


 そう嘯いて俺は立ち上がり、北島の隣を通り過ぎて会議室を出る。


 俺はその時、思った。

 来るなら、掛かってこい。と


     *********


 大会三日目。

 今日は大学生の部の予選一日目がなされるので、俺たちの出番はない。

 しかし、完全にオフになるわけではない。特に俺は、俺の乗る『零式』と北島の乗る『零式・改』の整備に加えて、誰も弄れない片桐の『変則三式』の整備もしなくてはいけないので、朝は早い。


「はぁ~あ」


 俺は大きなあくびをしながら、機体の置いてあるハンガーに入る。

 すでに何人かの整備科の生徒や、教員がせわしなくノートパソコンを見て相談しながら動いている。


「さてと、お仕事しますか」


 俺はそのハンガーの一角。よく似た二機の機体と、どの機体とも違う異様な機体の前に立つ。


「まず、弾薬と燃料の補充からか」


 そう一人でつぶやき、俺は整備に取り掛かる。


     *********


「ん~、ここは涼しくていいわねぇ~」


 屋台が立ち並ぶ中、一人の女性が不敵な笑みを浮かべながら、そうつぶやく。


「久しぶりの日本だけど、さして感慨もないわぁ」


 女性はゆっくりとした歩みで人と人の間をすり抜けていく。


「どの子も、いまいちねぇ。やっぱり、『第二世代(アナザー・エイジ)』と比べると、見劣りするわねぇ」


 三日月のような口元は、わずかに動きながら言葉を発する。


「いやいやぁ、目的の本筋からずれてはいけないわぁ。いい「素体」はいないかしらねぇ」


 女性の濁り、澱んだ目は周りの人間を、一人一人見て、吟味する。


「中途半端ねぇ。ここならいいのが見つかるかと思ったのだけれど、期待外れかしらねぇ」


 その時、女性の視界に二人の少女の姿が映る。


「おやぁ?」


 その少女は、片方は黒髪のショートカットに、眼鏡をかけた気の弱そうな少女と、つややかな長い黒髪をポニーテイルにして一つにまとめている凛々しい少女だった。


「人は、低確率で発生する事象のことを、運命とか言うそうねぇ」


 女性は不吉に笑う。


「ふふっ、これがそうなのかしらぁ?」


 女性は不気味に笑う。



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