第四十三話
しばらく、普通の他愛無い会話をしていると、お目当ての料理が運ばれてくる。
「わぁ、おいしそうですね!」
片桐は嬉しそうに運ばれてきた料理を見て歓声を上げる。
運ばれてきたのは、カナッペとカプレーゼ、カルパッチョで、俺でも知っている前菜がテーブルに並ぶ。
カナッペはエビとアボカドが乗っているものと、サーモンとオニオンスライスの乗ったもの、トマトと香草?の乗ったもので、カプレーゼはスタンダードにモッツアレラとトマトにオリーブオイルがかかったものが来た。
カルパッチョはサーモンとホタテが盛り付けられていた。
どれもが皿の上で色鮮やかに整えられていて、知識のない俺から見ても、とても美味しそうに見えた。
「はい、斎藤君。小皿だよ」
片桐がわぁわぁと嬉しそうな声をあげながら、携帯端末で写真を撮っている間に、東雲は抜かりなく全員に小皿を配る。
「ああ、ありがとよ」
俺は東雲に礼を言う。
こいつも普通につるんでいれば、ただの腹黒イケメンのままで、すごく仲良くは難しいが、それなりに付き合ってもいけたのだろうかと思う。
だが、目の前のこいつはもしかすると、敵になるかもしれない。直接戦うわけでもないかもしれないが、派閥争いや、その他の面倒な闘争に巻き込まれる可能性も、無いわけではないのだ。
俺は横目で東雲を見ながらそんなことを思う。
「どうしたんですか?食べましょうよ、斎藤君」
俺の斜め前に座る片桐が、俺の方を向いてキョトンとしていた。可愛い。
俺もそこで気づくが、すでに片桐の撮影会は終わっていて、目の前の北島も、横の東雲も料理を食べ始めていた。
「ああ、食うよ。ってかお前ら、食い始めるなら言ってくれよ。出遅れちまったじゃねえか」
俺も小皿にカプレーゼを取りながら北島と東雲に言う。
「一応呼んだぞ。一応な」
「いや、そんなに不本意であったことを強調しなくていいから」
北島がさらりと吐いた言葉に、反射で答えていると、横の東雲は苦笑いしながら、会話に入ってくる。
「僕も声は掛けたつもりなんだけどね。何か考え事でもしているようだったし、邪魔しちゃ悪いかなって、思ってね。例えば、『英雄』のこととかね」
俺はそう言われたとき、何のことかよくわからなかったが、北島はピクリと反応する。
「まぁ、考え事もいいけど、今は、この美味しい料理を楽しもうよ」
東雲はそう言ってにっこりと微笑む。
その微笑みは、今までの普通に馬鹿言って笑っていた時の笑顔ではなく、どこか含みのある、胡散臭い笑みだった。
*********
料理は次々と運ばれ、最後のデザートのジェラートを食べている。
「で、お前は何が話したいんだよ?」
俺はピスタチオのジェラートを食べながら、隣に座る東雲に問う。
「ん?何のことかな?」
東雲は何食わぬ顔ですっ呆ける。
「誤魔化すなよ。ここ最近俺に絡んでこなかったくせに、わざわざ今日絡んできたのは、何かしら、話すことがあったんじゃねぇのかよ」
俺は溜息を吐く。
俺は何となくだが、その雰囲気を感じ取っていた。ただ、面白そうだからと俺たちについてきただけでない、何かを。
「なかなかに、鋭いね。さすが、斎藤君」
東雲はソファに深く腰掛け、背もたれに体重をかける。
「これは僕の勝手な予想なんだけどね。この大会、今までにないほどに盛り上がるだろうね。今までいなかった従軍学生の参加は、これまでの大会ではなかった空気を入れるだろうね」
俺は東雲の話を聞いて、いまいち要領を得ることができなかった。
だが、目の前に座る北島は何か勘付いたのか、眉間にしわを寄せ、険しい表情をしていた。
そして片桐は、急に始まった話についていけず、おどおどとしだす。
「そして、今大会では、新しく『英雄』が生まれるだろうね。これからの日本の防衛を担うような」
そう言って東雲はゆっくりと目を閉じる。
「なるとすれば、そうだね。斎藤君とかなれそうなんじゃないかな?」
東雲は片目だけを開けて、俺のことを見る。
俺は純粋に疑問に思う。俺が英雄なんかになれるなんて、どうして思うんだろうと。確かに多くの男子が少なからず、英雄願望ともいうべき感情を抱くことも多い。
だが、俺にとて、いちパイロットだ。自分の実力くらい把握している。とてもじゃないが英雄になんかなれないだろう。
「そう言うことなんだな。東雲」
北島は低い声で東雲に言った。その眼光は鋭く、東雲のことを射抜かんばかりに睨む。
「さぁ、どうだろうね。これは僕の勝手な予想だからね。確証なんてないよ?」
おどけたように東雲は言う。
そして、一言断って席を立つ。
「まあ、信じるか信じないかは、君たち次第だよ」
そう言って東雲はトイレの方に歩いていく。
俺は東雲が立つために通路に立っていたが、東雲が見えなくなった時点で、自分の座っていた位置に座りなおす。
「あの、今の話って、何のことだったんですか?大会で英雄が生まれるとかおっしゃってましたけど」
片桐は重い空気の中、口を開いた。
「さぁな。俺もよくわかんね。北島はなんかわかっているみたいだけど」
俺は目の前に座る少女の様子を見る。
さっきから一言も発さずに考え込む姿は、怒りを抑え込んでいるようにも見えた。
会話が途絶えたせいで手持無沙汰になった俺は、何となく合計金額がいくらくらいになったのか気になって、伝票を探すが、テーブルの上にはおいてなかった。
「あれ?伝票ってさっきおいてたあったよな?」
俺が聞くと、片桐が答える。
「はい、さっきの店員さんが、デザートを持ってこられたときに一緒に」
俺は気になってテーブルの下や、周りも探すが見つからず、仕方がなくフロアにいる店員にもう一度作ってもらおうと店員を呼ぶ。
「すみません」
「はい、なんでしょう」
店員は呼ぶとすぐ来て、にこりと笑いながら問う。
「すみませんが、伝票がどこかに行ってしまったらしくて、もう一度作ってもらえませんか」
俺がそう言うと、店員はキョトンと不思議そうな表情をする。
「あ、無理ですか?参ったな。どうしよう」
一瞬の間があり、俺は咄嗟にそう言った。
そして、店員も復帰して、首を横に振り否定の意を示す。
「いえ、違うんです。お客様方の会計ですが、先ほど自分は先に帰るからと、一緒に座っておられたお客様が、お支払いになられましたよ?」
そう言われ、俺たちは固まる。
俺たちはトイレに行ったと思っていたのに、いつの間にか伝票持って会計を済ませて帰っているとは。その鮮やかな手腕に、さすがの俺も脱帽だった。




