第四十二話
俺たちは片桐の誘いを受け、そのおいしそうなお店に向かっていた。
「で、ちなみに片桐、今向かっているのはどんな店なんだ?」
道中俺は、片桐に聞き忘れていた店の情報を聞く。
「そういえば、まだお話ししていませんでしたね。見た感じは洋食屋さんって感じなんです。看板はイタリア語で書かれていたので、たぶんイタリア料理のお店だと思います」
なるほど、イタ飯屋か、と俺は心の中でつぶやく。
となるとパスタかピザかとかか?あんまり詳しくないから、そこら辺しかパッと思いつかねえな。
「へぇ、イタリア料理か~。となるとアクアパッツァとか、カルトッチョとかおいしいよね~」
東雲は行くのがイタリア料理の店とわかると、ここぞとばかりにイケメン力を発揮し始める。なんだよカルトッチョって。
「東雲君は詳しいんですね。お好きなんですか?」
片桐はちょっと驚いた様子で東雲に問う。
「んー、まぁ、何というか。この学校に来るまでの実家での食事は、ほとんど外食ばっかりだったから、その影響かな」
東雲は珍しく、そのイケメンスマイルを少し曇らせる。
その様子に、片桐もいけないことを聞いてしまったと慌ててフォローしようとする。
「あ、あ、その、でも、いいですよね。たくさんおいしいものが食べられて」
「ははっ、そうだね」
東雲の返答は、わずかに力がなく返された。
自分のフォローが功を奏さなかったことに、さらに片桐は慌てる。
その様子に見かねた俺は、助け船を出す。
「安心しろ片桐。そいつのそれはただの演技だから、僕可哀想なんです、慰めて慰めて。っていうフリだから。そこから相手の母性本能をくすぐって落とそうって魂胆だから、気にしなくていいぞ。けっ、これだからイケメンは」
俺は死んだ魚のような目で東雲を睨めつけながら言った。
まったく油断も隙もない、下種野郎だぜ。
「ちょ、そんなつもりはないんだけどな。僕は」
東雲は俺の視線から逃げるように移動しながらも答える。
「東雲、お前は例え殺す気がなかったとしても、事故で誰かを轢いたとき、自分にはそんなつもりなかったんで無罪放免でオナシャス。って言われて許すのか?許さないだろう?」
俺は東雲の肩をがっしりと握り、言い聞かせるように相手の目を、この死んだ魚のような目でしっかりと見つめて話す。
「いやいや、究極過ぎない?!そこまでひどいことなの?!」
東雲は必死な様子で否定してくる。
「東雲。ユー、アー、ギルティ。オーケー?」
まったく、これだから聞き分けのない子は困るぜ。自分の犯した罪くらいは、しっかりと認識してほしいものだよ。本当に。
「僕の有罪判決は確定なんだ...」
俺の態度から何か感じるものがあったのか、東雲はやっと納得していただけたようだ。
その後、俺は一緒に歩く中で、いまだに一言も話さないで、一番後ろを歩く北島の姿が目に入る。
その隙に東雲は俺から逃げて片桐の方に話に行く。ちっ、逃げられたか。
もう一度東雲を捕まえてやろうかと思ったが、何となく北島の様子が気になって、俺はとりあえず北島の方に近づいていく。
「どうした?お前自身こういう会話は、苦手なのかもしれねぇけど、ここまで不干渉ってのも、なんていうか、珍しい?じゃねぇか」
俺は北島にそう言って話しかける。
実際、こいつは苦手なことでも、大きな問題なくできる。第一、片桐とはなんだかんだで親しいとまではいかないまでも、それなりに仲は悪くないはずなのに、さっきもなんの助けもしないなんておかしいと感じていた。
「......確証はない。が、何となく気になることがあってな」
そう聞くと、俺は北島が思っていることを、何となく予想することができた。
「東雲のことか?」
俺は小声でそうつぶやく。
ここで俺が言ったのは、目の前にいる東雲のことではなく。その実家である東雲の一族が経営している『東雲グループ』のことだ。
北島は小さく頷いて、声を抑えて話し始める。
「最近は、お前にあまりちょっかいも出していないし、動きもおとなしかったからな。何となく嵐の前触れみたいに感じただけだ」
最近は確かに、東雲が俺の周りをチョロチョロすることもなく、精神衛生上、非常に良い環境であったのは確かであるが、それが嵐の前触れだなんて感じたことはなかった。
「なにか、仕掛けてくるってのかよ」
俺は、あまり感情を表に出さないように気を付けながら、北島に問う。
「それは、わからない。が、気を付けておくに越したことはないだろう」
北島がそう言った直後、片桐が俺たちに声をかけてくる。
気づかないうちに、片桐達との距離が空いてしまっていたようだ。
「斎藤君、北島さん、ここですよ!言っていたお店!」
片桐はテンション高めに俺たちに紹介してくる。
その店の外装は落ち着いて雰囲気で、高級なレストランというよりかは、そこそこリーズナブルで、しかし味には問題のない、少し老舗っぽい風格の洋食屋さんといった感じだった。
その店内からだろうか、ほのかに漂う香りは、俺たちの鼻孔をくすぐり、空腹感を倍増させる。
「さ、入りましょう!」
片桐は、満面の笑みで俺たちを店内へと誘う。
いや、片桐さんや、キャラ変わり過ぎやしませんか?
*********
俺たちは店内へと入り、奥の方のボックス席へと座る。
店内も落ち着いた雰囲気で、居心地のいい内装をしていた。
ちなみにだが俺たちの席の配置は、向かい合うソファの片方ずつに男女が分かれている。つまり俺の目の前にはキリッと凛々しい系美少女、斜め前には、ほっこり系美少女が並んで座っているわけだ。そして俺は通路側に座って、その隣には東雲が座っている。
「いいのかい?斎藤君の場合、隣に女の子目の前にも女の子とか、そういう布陣がいいと思ったんだけど?」
東雲はこの席順に座ったときに、こそっと俺に耳打ちする。ちっ、どうせ耳打ちされるなら女子がよかった。
「ははっ、冗談言うなよ。たとえ斜め向かいとはいえ、イケメンの顔面なんか見ながら食事したら、飯がマズくなるだろう?」
俺はさわやかにそう言い切る。
まぁ、この席順の理由はそんなところだ。
もちろん、対面で座るつもりも毛頭ない。
「ああ、そうですか」
東雲は悟ったようにそう力なく言った。
その時、彼の目じりにはキラリと光るものが見えたとか、見えなかったとか。
何はともあれ、俺たちはテーブルにメニューを広げ、何にするかを相談し始める。
「うわぁ、どれもおいしそうですね!」
広げたメニューは分厚く、そんなに品数があるのかと思ったが、実際は、写真や料理の簡単な紹介、値段やカロリーなどが書かれており、品数数自体は、普通のファミレスよりかは少ないくらいだった。
「確かに、どれもおいしそうに見えるな」
北島も、片桐と肩を寄せ合ってメニューを見て、品定めに参加していた。
そして俺は、そんな二人を見てほっこりしていた。
腹は減ってるけど、胸はいっぱいだよ、俺は。
「斎藤君、決めないのかい?」
東雲は苦笑しながら俺に問う。
まったく、無粋な奴だ。
「ああ、そうだな。とは、いっても、俺あんまイタリア料理とかわっかんねぇからな」
「だったら、要望さえ言ってくれれば、僕がよさそうなのを選ぼうか?」
俺がぺらぺらとページを適当にめくりながらそう言うと、東雲がそう提案してくる。
俺は一瞬迷うが、まぁ、そのほうが楽だし、いいかと、東雲に丸投げする。
「んじゃ、適当に食べごたえがありそうなもので」
東雲はまたも苦笑しながら、俺の要望に沿ったものをメニューから探していく。
その後、全員の選ぶ品がそろい、オーダーする。
おかしいなぁ。今回でこの食事回終わらせるつもりだったのに、終わらない。
というわけで、次回に続きます。




