第四十話
大会二日目。特殊陸戦兵器交流戦高校生の部一日目は、15時の段階で終わっていたが、まだ、今日のプログラムは終わっていなかった。
特殊陸戦兵器交流戦団体の部。それが大会の二日目から八日目の、個人戦である大学生の部、高校生の部の後に行われていた。
団体戦では、全九校が代表三機を選出し、総当たりのリーグ戦で雌雄を決する。
一度に三試合ずつ、二回行い、一日六試合ずつを六日間して、全三十六試合を消化する。
各校の最高峰の選手が集まり、戦うこの団体戦は個人戦とは違った熱を持っていた。
ルールはほとんど個人と同じだが、団体戦では隊長機を一機決めてその隊長機が行動不能に陥るか時間切れとなれば、試合終了となる。時間切れの場合の勝敗の決め方も個人戦のルールに準じている。
そして、俺たちはその様子を、モニターの前で観戦していた。
「隊長機は、あの郡山先輩か」
隊長機には、角の生えた、派手な兜のような専用頭部装備がつけられる。
俺たちの学校で、その兜をかぶるのは、前に会った威圧感とかがハンパなかった郡山先輩だった。
「だけど、意外だな。てっきり、永原先輩が四回生だし、上級生だからって隊長機をゴリ押ししそうなのに」
俺がそうつぶやくと、隣にいた北島は何でもないように、俺の疑問に答える。
「簡単な話だ。実力の差、格の差だ。あの場面でもそうだっただろう?永原先輩は、確かに弱くはない。だけど、郡山先輩は、それを遥かに超える。それにここ三年はずっと郡山先輩が隊長機だからな、私たちからすると何の違和感もない」
今さらっとすごいこと言った気がする。三年連続で隊長機って、どんだけすごいんだよあの先輩。
「あの、私も今年からの編入なので、詳しくは知らないのですが、そんなにお強いんですか?」
北島を挟んでその反対側にいて、モニターを見ていた片桐が北島の顔を覗きながら聞く。
「ああ、一対一なら、武装にもよるが、私でも互角に戦えるだろう。だが、武装の相性によっては、私では勝てない」
「なにそれ、ただの化け物じゃん」
北島の回答に俺は思わずそう答えてしまった。
いや、実際に北島と戦っていると、シミュレーションとはいえ、その強さは折り紙付きだってことくらいは、俺にもわかる。伊達にクラス内ランキングで無双状態になってはいない。
それでも、その上を行くというのが、俺には信じられなかった。むしろ信じたくなかった。
「斎藤、郡山先輩が化け物なら、昨日会った篠原一佐は神の領域に突入しているぞ?」
北島は言外に篠原一佐の強さを評価して、上には上がいることを俺に教える。現実って厳しい。
「あ、始まるみたいですよ」
俺たちの会話は、団体戦の開始によって途切れる。
*********
「チェック、チェック。ソルジャー00からソルジャー01、02へ、感度はいかがか?どうぞ」
決して広くはないコックピットの中、男は首に取り付けられた、声帯からの振動を直接感知して声に変換するタイプの特殊なマイクを使い、味方に通信する。
『チェック。ソルジャー01。感度良好。どうぞ』
『チェック。ソルジャー02。感度良好。どうぞ』
聞こえてきた味方からの返答に、コックピットの中の男は満足そうに一つ頷き、さらに言葉を続ける。
「ん、大丈夫そうだね。さて、二人にはしっかりと働いてもらいますからね。まぁ、その前に一つ」
男はそこで、ん、んと喉を鳴らして声を整える。
「僕たちがこれからするのは、決して模擬戦などという生温いものではない。これは学派という面倒ながらも、軍の内部において重要な派閥争いを学生に行わせる、いわば代理戦争だ。そう、僕たちのするのは、平和ボケしたなれ合いではなく、実弾を使わないだけの正真正銘の戦争なのだ。
気を引き締めよ。思いを改めよ。考えを正せ。
僕たちはただの三人だ。だがしかし、その後ろには僕たちの所属する対馬校の後輩、先輩、OB、OGがいる。その責任と義務、期待と願望を背負い、僕たちはここにいる。
勝ちは前提。問題はどう勝つかにあると知れ」
男はすぅと、息を吸う。
「さぁ、始めようか、僕たちの戦争を」
試合開始のベルが鳴る。
*********
「さて、特殊陸戦兵器交流戦高校生の部一日目が終え、特殊陸戦兵器交流戦団体の部が始まりましたね」
実況者はカメラ目線で感慨深そうにそう言った。
その言葉に解説者は大きく一つ頷き、懐かしむように目を細めながら口を開く。
「そうだねぇ。いやぁー、この特有のピリピリした空気、懐かしいな~」
解説者は和やかに言うが、その空気というのは、決してそんな緩い感じでは語ることのできないものであった。
「私はここからだと、あまりそのようには感じないのですが、やはり一佐殿には感じますか?」
実況者があざとく小首を傾げながら問うと、解説者は小さくふふっと笑い、静かに答える。
「ああ、感じるよ。あまり多くは語れないけど、ひしひしと感じるよ。これはね、戦場の空気だよ」
解説者の雰囲気は、先ほどまでの軽薄さや、気の緩んだようなものだけではなく、どこか狩りに赴く獣の獰猛さを纏っていた。
その雰囲気に実況者は、一瞬気圧されそうになるが、ぐっとこらえて話を続ける。
「なるほど、選手たちの本気の思いが、会場には満ちているようです。
さて、一佐殿は学生時代、四連覇という偉業を成し遂げられておられますよね」
実況者に偉業とまで言われ、解説者は少し照れくさそうにしながら答える。
「いやいや、あの頃はいいチームメイトに恵まれただけだよ。僕だけの力ではないよ」
「ですが、大会の始まったからの記録においても、二連覇すら二度しかしていないのに、四連覇というのはもはや桁違いとしか言えませんよ。さすが守護神様ですね」
実況者はニコニコと笑いながら、さらにさらにとヨイショする。
だが、実際のところ、この記録は本当に偉業と言われるだけの物であった。
「まぁでも、それももうすぐ追いつかれるかもね。彼はもう既に過去に二度しかない二連覇を経験しているからね」
解説者は照れから回復して、これからの試合に挑む選手のことを評価する。
「確かにその可能性はあるかもしれませんね。これからの試合に出場する郡山選手も、昨年、一昨年と、すでに二連覇を達成、今年は三連覇目に挑戦とのことですから、偉業に並ぶ選手が現れるかどうかの分水嶺とも言えますね」
実況者の言葉にうんうんと頷き、わずかに微笑んでから解説者は言葉を繋ぐ。
「そうだね。本当に楽しみだよ」
そして、試合開始のベルは鳴る。
*********
俺は今、唖然としていた。
「これは、マジかよ」
モニターの向こうには兜付きの機体のみが、市街地を優雅に歩いている景色が広がっていた。
そんな中、敵機の一機が建物の陰から半身を出して、銃撃しようとするが、出てきた瞬間にコックピットを逆に打ち抜かれて、システムが行動不能と判断して動けなくなる。
すでにもう一機がやられているので、あとは敵の隊長機のみとなった。
「こんなに、一方的な展開が起きるなんて、どうなってるんだ」
俺がそうつぶやくと、片桐は静かに、その言葉の裏に恐れを滲ませながら言葉を発する。
「敵の動きを正確に把握して、その先を未来予知に近い精度で予測。それを踏まえた上で、敵を的確に分断、隊長機のみを残すようにして、ほかの機体をこちらの隊長機のところに誘導して、隊長機すら囮にして敵を最小の行程で無力化してますね。なんて恐ろしいまでの策なんでしょう」
「それだけじゃない」
北島はその片桐の言葉に付け加える。
「あの永原先輩は、この前の試合では、索敵以外にも多くのことに自分の能力を割いていたからか、三機しかドローンを使ってはいなかったが、今回は索敵のみに絞って行動しているおかげで、五機のドローンと自分自身を含めた六機で索敵をしている。その情報収集能力も、この作戦の恐ろしいまでの正確さを作っている」
俺は戦慄する。
そのすべてを支配しているのは、あの兜付きの隊長機の中にいる人間なのだと。
「あの、篠原先輩も、隠れて行動してるのか」
そして、試合開始直後から『一度もどの観戦カメラに映っていない』もう一機の機体のことを俺は思う。
どのカメラにも映っていない。つまりは、常に死角のみを通ってすべての視線から隠れている暗殺者の存在があの戦場にはいるのだ。
実際、さっきの一機も、その前の一機も隊長機は一発も弾を発射してはいない。すべては死角からの銃弾によって始末されていた。
「これが、代表に選ばれるということかよ」
俺の目の前の映像の中で、残りの隊長機がなすすべなくコックピットを蛍光色のペイントで塗りつぶされていた。
試合終了のベルが鳴る。




