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人型陸戦兵器「|武士《もののふ》」   作者: 荒井尾 麓
第三部 防衛高校対抗戦編
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第三十九話

 ハンガーに戻ってきてから、俺は自分の機体の姿を確認する。

 ところどころペイント弾だべっとりと付着し、とてもじゃないが、勝利したとは思えないほどみっともなかった。


「それでも、勝ちは勝ちだ。勝てばいいのだろう?ってか?」


 そう独り言をつぶやいて、控室に戻る。

 控室の方から片桐と北島が、迎えに出てきてくれているのが見える。


 とりあえずは一勝。


 俺は気を引き締める。

 予選はあと三試合ある。


     *********


「いやー、なかなかに熱い展開でしたね」


 実況者は呼吸すら忘れてしまいそうな、ぎりぎりの戦いが終わった後に大きく息を吸い、そう感想を漏らす。


「そうだね、粗削りではあるけど、才気あふれる戦いに今後の成長が期待できる試合だったね」


 解説者も笑いながら同意する。


「さて、次の試合では、今大会の最大の注目株の登場だそうですね」


 解説者は、気持ちを切り替え、次の試合のことについてを聞く。


「うん。次の試合に出るのは、ただのルーキーではないからね。僕も彼女は知っているけど、彼女の実力は本物だからね」


 解説者はそう言って、にっこりと微笑む。


「自分で言うのもなんだけど、彼女の才能は、僕に勝るとも劣らない。同じだけの経験を積めば、僕自身も危ないかもしれない」


 解説者の言葉に実況者は、驚きを隠せないという表情をしながら、解説者に問う。


「そこまでですか?とてもその選手を買っているようですが、私からすると、一佐殿と同等の才能を持つと言われても、信じられないのですが」


 実況者の言葉に、ふっと一笑してから真面目な表情で解説者は言う。


「そこまでの物を、彼女は持っているよ。才能だけじゃなくね。たぶん、学生たちじゃあ、勝てないだろうね。ハンデすらも、彼女にとっては、ハンデにならないだろうさ」


 解説者の言葉には、何の迷いもなく、その瞳には一欠片の疑いも映ってはいなかった」


     *********


 その頃、俺と片桐は、モニターの前で今日最後に同時に行われるの二試合のうちの、北島の方の試合が始まるのを待っていた。


「あの、斎藤君、何を、しているのですか?」


 片桐は俺に問う。

 見てわからないのだろうか?ああ、そうか。片桐は純粋だからわからなくて当然か。


「なにって、念じてるんだよ」


 俺はモニターに向かって両手を突き出し、必死に自分の思いをぶつける。


「念じる?あの北島さんの勝利を思うのなら、念じるんじゃなくて、願ったり、祈ったりするのでは?」


 ああ、本当に片桐はいい子だなぁ。


「バッカ、ちげぇよ。俺は『負けろぉ~』って願ってるから、ここは念じるで正解なんだよ」


 なにが正解なのかは誰も知らない。哲学的だ。


「...斎藤君」


 俺の返答を聞いて片桐は、すごく残念な子を見る目を俺に向けてくる。


「だってしゃーねえじゃん!あいつはなにもしなくても勝っちまうぜ?!そしたら、俺がもし負けたら一人でペナルティー受けないといけなくなるじゃん!」


 俺は周りが思っている以上に必死なのだ。せめて道ずれに北島を連れて行かないと気が済まない。

 普通に勝てばいいじゃないかって?保険だよ保険。


「普通に応援しましょうよ、斎藤君」


 片桐は溜息を吐きながら、そう俺を諫める。

 だが、俺はその意味のなさを知っている。


「別に、あいつは応援なんかしなくても勝つよ。今のあいつは、念願のおもちゃを親に買ってもらった直後の子供同然。調子は最高にいい上に、モチベーションも恐ろしいまで高い。そんなやつに現段階でこの日本最高の機体を渡しておいて、万に一つも負ける要素すらない」


 モニターの中のあいつの機体は、仁王立ちのまま動いていないが、中ではきっとそわそわしているに違いないと思う俺だった。


     *********


 全身を迷彩柄にペインティングされた機体が、草原の中で重機関銃型装備を両腕に持ち、撃ち続けていた。


「なんでだよ、なんで当たんねぇんだよ?!」


 小型のミサイルなどは装備せず、重機関銃による弾幕飽和攻撃を選んだ彼は、決して間違っていなかったのであろう。

 普通なら、武装制限をされた中で、こんな開けた空間でこんな攻撃をされれば、勝てる道理などありはしなかったはずだ。

 しかし、彼に対峙する機体は、その道理を覆す。


「嘘だそんなの、嘘だぁぁぁっ!」


 無数に放たれる銃弾は、草原をペイント弾独特の蛍光色に塗り変える。

 がしかし、敵である機体には、一発たりとも当たらない。

 右に、左に。前に、後ろに。上に、下にと脚部の駆動による移動と、ブースターの併用によってまさしく縦横無尽に駆け回っていた。

 空中にいても機体を巧妙に動かして、銃弾の回避すら実現する。

 そして、その機体は徐々に、彼の機体へと近づいていく。


「こ、これが、学生でありながら、軍属の資格を得た、特務官の実力...!」 


 重機関銃を二丁も装備する機体では、目の前にまで近づいてきた高速機動する機体に機動力で勝てるはずもなく、その両手に持たれていたペイントナイフが、彼のコックピット部分の装甲にバツの字を刻む。


 高校生の部一日目最後の試合はその日の最速記録を飾り、わずか5分で決着したのだった。

 この後の試合でも、これを凌ぐ記録は樹立しなかった。


     *********


「いやいや、俺だってあのフィールドだったら、あのくらいできたよ?」


 今日の最後の試合である北島の試合が、瞬殺で終わったのを見ながら、実況者と解説者が絶賛しているのを聞いていた俺は、ちょっとイラッと来たのでそうつぶやく。


「まぁまぁ、そう不貞腐れないで」


 片桐は苦笑しながら、俺をなだめる。


 その後少ししてからハンガーに戻ってきたあいつを迎えたのは、英雄の凱旋を狂喜乱舞して迎える民衆の群れだった。あの試合を観戦していたほとんどの生徒、つまりはうちの学校の九割以上の生徒がそこにいたのだった。

 あいつの人気が高いことはうちのクラス内だけではないらしい。


 さすがの俺もドン引きだぜ。


 機体から降りた彼女は、民衆の波をモーセよろしく割って、控室の方へと歩いてくる。


「いや、さすがにあんなに盛大に迎えられるのは、予想外だったな」


 そしてやっと俺たちの前にまで来た彼女はそうつぶやく。

 少し迷惑そうなのを見ると、同情の念が浮かびかける。


「それだけすごい試合でしたからね」


 柔らかに微笑む片桐は、そう言って北島を褒める。


「俺からすると、相手の選手が今後自信を失って、学校を辞めるんじゃないかって心配だけどな」


 あそこまで圧倒的にやられて、平然としていられるやつはいないだろう。

 そう思ってそう言ったが、それは北島によって否定される。


「いや、それはないだろう。試合の後、相手のパイロットと会ったが、握手を求められて、今後もがんばります。また、試合しましょうとなにか吹っ切れた様子で言っていたぞ」

「え、なに?新しい扉でも開いちゃったの?」


 俺は北島の話を聞いて、そう思わずにはいられなかった。

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