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人型陸戦兵器「|武士《もののふ》」   作者: 荒井尾 麓
第三部 防衛高校対抗戦編
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第三十八話

 ざわざわと木々の葉がこすれて音を鳴らす。

 俺は今、敵から逃げて、森の中にあった窪地に身を潜めている。

 

 ハードだ。超ハードモード。こんなのゲームであったら、ただのマゾゲーだぞ。

 俺はそう心の中でぼやいて、周囲をくまなく観察する。

 試合時間は残り10分。もうあまり余裕はない。

 この大会のルールで、時間切れになっても決着がついていないときは、被弾ダメージ総数での判定にかかってくる。

 そして今の俺は、一撃も攻撃が掠りすらしていないのに、敵はペイントミサイルの弾幕のとばっちり被弾と、狙撃の直撃の分のアドバンテージがある。

 それに対抗するには、それ以上の被弾を相手に与えるか、敵が行動不能状態になるような攻撃を加えるしかない。非常に難しいが。


「だが、やるっきゃないよな」


 大きく深呼吸をするように溜息を吐き、気を引き締める。


「チャンスは、あと一回ってところか」


 ラストチャンス。これをものにしなければ、俺に勝ちはない。


 そうやって構えていると、視界の端に敵の姿が、木々の間からちらりと見える。

 厳戒態勢でゆっくりと進んでいるようだ。

 俺は再度深呼吸をして、グリップをぎゅっと握る。


「さぁ、決着つけようか」


 俺は敵の姿が気に隠れた瞬間を狙って、機体を起き上がらせる。

 これで敵からは、一時的とはいえ、死角に入って見えないはずだ。

 俺はブースト全開で木々の間を疾走する。

 敵もさすがに俺の姿を確認したのかライフルを構える。

 だが、その銃はどちらかといえば、遠距離狙撃に特化している。その銃でこの中距離戦をするのは厳しいはず。

 間隔のあいた銃撃を躱しながら、俺は敵に近づく。

 かなり距離を詰めたとき、敵は例のミサイル弾幕を、腰に装備したミサイルポットから発射する。


「そりゃ、そうするよな!でも、それも予想しているんだよ!」


 俺はそれを回避する。

 右?左?

 いいや、『上』だ。


 俺は機体の膝を曲げ、身を屈めてから一気にブースターを併用して放物線を描くように跳ぶ。

 

「秘技・八艘跳び!ってな」


 機体は木々の枝葉の天井をぶち抜き、上空に飛び出す。

 下の方で、ペイントミサイルがはじける音が聞こえるが、気にしない。

 敵は、俺が空に飛び出したのが予想外だったのか、一瞬固まってから、急いで迎撃しようとライフルを構える。

 俺も自分のハンドガンを構える。

 さすがにブースターがあるとはいえ、空中で銃弾を回避するのは難しい。だから迎撃する。

 普通の銃弾なら不可能と言えるだろうけど、この試合で使われているのはペイント弾だ。障害物に当たればはじけるし、弾速も本物よりもかなり遅い。それに最悪コックピットなどの、致命的な部分への被弾さえ回避すれば、勝機はある。

 とはいえ、これには賭け要素が大きい。敵の、ミサイルの発射回数は数えているが、さっきの分でもう残弾も尽きたはずだが、確証はない。それでも俺にはこうするしかない。

 俺は木の葉の隙間から見える敵の姿と、その銃口、機体の指の動きに集中する。

 そして、何度も味わったことのある、あのチートを使った時のような、独特の時間が引き伸ばされる感覚に入る。


 初弾。セオリー通りにコックピットをまっすぐ狙ってきた。

 俺はハンドガンで迎撃する。射線さえ分かっていたら、難しくはない。

 着弾。双方の弾ははじける。残弾十一発

 敵との距離は、残り15メートル。

 敵は二発目を放とうとするが、その間に俺はハンドガンを撃つ。連射性能はこちらのハンドガンの方が高い。

 二発放って、一発は地面に、もう一発は敵の脚に掠る。やっぱり空中の安定しない状況で撃つのは難しい。残弾九発。

 そこでやっと敵は二発目を放つ。次の弾は足を狙ってきた。角度的にも迎撃が難しい角度だ。

 俺は狙いをすまして放つが、迎撃に失敗する。脚部に被弾。残弾八発。

 敵との距離は、残り10メートル。

 三発目との間隔に、俺は三発撃った。一発目は敵の頭部の横を通り過ぎ、二発目は肩に直撃。三発目は腕に掠った。残弾五発。

 敵の三発目は俺のメインカメラのある頭部を狙ってきた。馬鹿め、わざわざ迎撃しやすい目線を狙うなんてと思いながらも、早いタイミングで放つが、その油断のせいか、狙いがわずかに逸れて迎撃に失敗し、俺は慌てて続けて連続で二発放ち、先の一発が敵の弾に着弾する。残弾二発

 敵との距離、5メートル。そこで俺は二度目の木々の枝葉の天井突入をする。

 いける!と俺は思った。

 だが敵は、腰のミサイルポットをこちらに向ける。

 そう、もう一回分の弾幕が放てるだけのミサイルが残っていたのだ。

 俺はその時、確かに驚いていた。もう残弾がないだろうという予想が覆されたのだ。

 自分のカウントが間違えていたのか、それとも、敵のあのミサイルポットが特別製なのか。どちらにせよもうすぐ、一瞬の後に、俺はその弾幕でペイントまみれにされて負ける。

 この距離なら銃弾も当たるだろうが、敵は用心深くも両腕部でコックピットを守っている。

 普通なら、もう詰みだ。

 だが、俺は諦めない。

 頭の一部は驚愕していたが、違う部分では、その状況にどう対応するかを冷静に考えていた。

 そして俺は迷うことなく、右手でハンドガンを構えて、敵の腰の左側のミサイルポットを撃ち、左手でペイントナイフを敵の腰の右側にあるミサイルポットに向けて投げる。

 放った二発の弾は、発射した瞬間のミサイルに当たり、誘爆してほとんどのペイントミサイルがはじける。

 投げたナイフの方は、発射直後のミサイルの数発に直撃してはじけるが、数発が抜けてくる。

 俺は空中でさらにブースターを吹かして、両手両足でコックピットを守りながら、敵に突撃する。

 ミサイルが二発ほど脚部に直撃したが、何とか俺は敵の目の前に着地する。

 強い着陸の衝撃に、コックピット内の俺は大きく揺さぶられ、機体も軋む。

 だが、俺は、まだ、やられていない。

 自分の目と鼻の先に来た俺に、敵は慌てて後ろに逃げようとするが、俺がそんなことを許すわけもなく、残った俺の最後の武器であるもう一本のナイフを、踏み込みながら、敵のコックピットに叩き込む。


 そこで、試合終了のベルが鳴る。 

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