第三十六話
「あーあー。あのモデル、今回の君たち用に頑張って作ったのになぁ」
楠先生は残念そうにそう言う。
俺はそれに苦笑いしながら答える。
「しゃーないでしょう。俺たち今回は武装制限されてるんですから、あれを装備しても、ただの装甲くらいにしか使えないんですから」
そう、今回の大会には俺たちの「武士シリーズ」用に開発されていた軍事用ドローン二機を、プログラムに手を加えて片桐に貸し出していたのだった。
「というか、なんで楠先生は、今回の大会で軍属の俺らの武装制限がかかることを知らなかったんですか。俺、それ知って心の底から絶望しそうになりましたよ」
俺は楠先生を見ながら非難する。
「俺だってこっちに来てから初めて知ったよぉ。せっかく俺の作った機体が無双するところが見れると思ったのに」
楠先生は悪びれることなく、俺に言い放った。
完全にこれは、楠先生が大会要項も見ずに先走ったせいだろうなぁ、と俺は思った。
まぁ、俺も大会要項なんてさっぱり読んでなかったけどな。今回の改造をするにあたって調べてみたら、たまたま書いてあるのを見つけてギョッとしたよホントに。
ちなみにだが、北島は知っていた。いや、教えてくれよ。
「ま、いいけどね。「鷹襲」と「梟戟」のお披露目には悪くないから」
楠先生はあのドローンたちの名前を呼んで、少し満足げに言う。
「思ったんだが、あれはこの前、永原先輩が使っていたものとどう違うんだ?」
北島はドローンと聞いても、あまりピンと来ていないようだった。
まぁ、本人自体が自分で敵の中に突っ込んで、無双するような奴だから、ああいうタイプの装備についてもよく知らないんだろう。
「ふふん。あれはねぇ、ただの偵察用ドローンとは違うんだよ、偵察用とはね。あれは遠隔攻撃用ドローンなんだよ」
北島の質問に対して、よくぞ、聞いてくれたと言わんばかりに喜々として楠先生が語りだす。
「あれはね、基本的に遠隔監視などしかできない偵察用に、20mmショートレンジカノンを設置したようなもののと考えてくれればいいよ。まぁ、実際には、基本フレームからして違うんだけどね。普通は四枚のプロペラ部分は、固定させたほうが飛行が安定するんだけど、これは四つのプロペラを動かせるようにしてより自由な機動を実現。そのうえ機体のメインフレームを砲身と一体化させることにより、機体の小型化に成功。しかも、空中での砲撃でも機体を安定させるために砲撃時の反動を軽減させ、その時の衝撃パターンを記録させることにより、プロペラの出力制御によってより安定させることに成功したんだよッ!もうこれは、素晴らしいことなんだけどね、ほかにももっと、もっとねーー」
楠先生がはぁはぁと鼻息荒く語る姿に、俺も北島もドン引きしていたが、そんな様子にもめげず、というか、まったく気づかずに、話し続けようとした時に、ちょうど片桐が機体と一緒に帰ってきたという知らせが来たので、とりあえず楠先生から撤退すべく移動する。
「あ、片桐迎えにいかなきゃー」
「あ、私も行こう」
俺たちは棒読みでそう言い、楠先生の地獄の解説トークから逃げる。
「おや、どこに行くんだい?俺の作った崇高な機体の説明がまだ...」
後ろの方で何か聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
そんなことよりも、片桐だ。
今回は大金星と言えるだろう。
最近はよく手痛い負けを味わうことも多かった彼女にとって、この勝利の意味は大きいだろう。
「お帰り、片桐」
ハンガーに自分の機体を収容した片桐が、こちらに歩いてくるのを見つけ、俺はそっちに歩いていって声をかける。
「ただいま戻りました。斎藤君」
そう言って片桐はにっこりと微笑む。とても満足そうな笑みだった。
「いい試合だった。この調子なら、本選出場もできるんじゃないのか」
横にいた北島もそう評価する。
片桐は、その言葉を聞いて少し頬を赤くして照れていた。
「いえ、今回は戦場と、あれがうまくかみ合ったからですから。次も慢心しないように気を付けないと」
機体の方を見ながら言う片桐は、嬉しそうでありながらも、きりっと表情を引き締めていた。
試合前は少し心配していたが、機体ともども大丈夫そうだ。
「さて、片桐の無事も確認したし、俺も行くか」
その姿を見てほっとした俺は、次の自分の試合のために準備に行く。
「斎藤君も頑張ってください」
自分の機体に歩いていく俺の背中に、片桐の声援がかけられる。
俺はそれに手をひらひらと振ることで答える。
さぁ、次は俺の出番だ。かなーり眠いが、気合で何とかしよう。...はぁ。
俺は、ひどく憂鬱な気持ちを抑えながら、自分の機体を見据える。
*********
『さて、どのグループも第一試合が終了し、第二グループの試合がもうじき始まろうとしています。次の試合には、この交流戦始まって以来初めての軍属生徒が出場しますね。これをどう思われますか、一佐殿』
試合と試合のインターバルの時間に、実況者は解説者に問う。
『そうだね。次に出てくる斎藤選手は最近軍に所属するようになったところだから、キャリアとしてはまだまだ新人の域を出ないんだろうけど、それでもテストパイロットに選ばれているからねー。それに彼にはもう実戦経験もあって、敵の撃破記録もあるからね。その才覚をどこまでこの大会の中で発揮できるかが、ポイントかなぁ』
解説者の言葉を受け、実況者は大きくうなずきカメラに目線を合わせて話し始める。
『なるほど、新人ながらその実力を見せるテストパイロットの彼が、どこまでその実力を見せるか、見ものですね』
そう言って実況者はしめる。
*********
「うーん。なんか、いろんな人にうわさされている気がする」
俺は試合前のコックピット内で鼻をむずむずさせていた。
「さて、どうするかな」
俺はそうつぶやきながら、頭の中で今回の大会のために考えていた、戦法を思い起こす。
今回の俺は有効射程20メートルのペイントハンドガン一丁、残弾十二発のみとペイントナイフ二本のみの装備で戦うことになっていた。
いや、射程20メートルとか、対人の拳銃じゃないんだからもっと飛ばそうよ。これなら下手すると、ナイフで切りかかったほうが早いじゃないですか。
そう心の中でこの無理ゲーに対して不満を漏らしながら、作戦を確認する。
今回の俺の戦う会場は森林エリアだった。周りの木は10メートル弱くらいの高さで、完全に機体は木の下に隠れるが、点在する木の幹によって動きは制限され、盾にするには少し細いため、ある意味難しいエリアだった。
「ま、何とかしますか」
そう言ってグローブをぎゅっとはめなおす。
「さあ、始めよう」
試合開始のベルが鳴る。




