第三十五話
特殊陸戦兵器交流戦、予選リーグAグループ第一試合。市街地エリア
その場には二機の機体がいた。
一方は、通常の「兵・三式」装備は40アサルト・特殊ペイント弾仕様。
このペイント弾は、敵に着弾すると、感知システムによって被弾判定がなされ、そのダメージが計算される。そのダメージに応じて戦闘の続行可能か不可能かの判定、ひいては勝敗を決める。
そして、そのほかにも軍で正規装備として採用されているような、基本装備一式を持っているその機体の中で、パイロットは静かに周囲の警戒をしていた。
もう一方の機体は、市街地の道路の真ん中でピクリとも動かず、直立不動のままであった。
そしてその機体のフォルムは、一般的な機体とは大きく違っていた。
全身の装甲はほとんどが取り払われ、ブースターがあったところも、すでに試合開始直後に取り外されて、本当に動くだけのような上半身に、腰の部分には、軍で用いられている装甲車のような車が鎮座し、もはや二足歩行ですらない下半身。その手に持つのは長いバレルを持つ長距離ライフル。いわゆるスナイパーライフルだった。
その異様なフォルムを持つ機体は、おもむろにライフルを上空に向けて狙いをすまし発砲する。
その後数秒待ってから、機体は銃口を下し、ゆっくりと移動をし始める。
そう、この機体こそが、斎藤が片桐のために改造を施した、「兵・変則三式」だった。
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控室内部の空気が、ざわざわとざわめく。
「実際に改造には手伝ったが、やはり客観的に改めて見ると、異様だな」
俺の横に立つ協力者はそうつぶやく。
「まあ、あれは実際二足歩行型陸戦兵器ですらないからな」
俺はそのつぶやきに答える。
この時、隣のこいつも俺もモニターから目を離さずに会話をしていた。
「正直なところ、あれは大丈夫なのか。ルール的に」
「ああ、問題ねえよ」
まあ、ちょっとは揉めたがなと心の中で思いつつ、隣の北島に話す。
「今回の交流戦は、あくまで『特殊陸戦兵器』の交流戦だからな。二足歩行型陸戦兵器の大会じゃない」
屁理屈のような理論だが、これで俺たちは大会委員会にゴリ押しした。まぁ、たまにこんな風な珍妙な機体が、出場することがないわけではないので、思ったよりもスッと通ってよかったが。
「それに大会要項にも、出場する機体は二足歩行以外認めないなんてなかったからな。これでだめだったら、俺なくよ?マジで」
俺はそう言って肩をすくめる。
その雰囲気が伝わったのか、北島はクスリと笑う。
「そうだな。あれだけ頑張って出場できませんじゃあ、悲しすぎるな」
「だろ?」
そう言って俺は観戦を続ける。
その時、背後から声がかけられる。
「ほほぉー、あれが君のチューンナップした機体かい?」
現れたのは、いつものことながら神出鬼没な楠先生だった。今回は俺たちの並んで立つ背後、そのすぐそばにスッと現れ、しかも顔を俺たちの間に差し込んでくる。地味に近い。
「ええ、まぁね。というか、なんであれの改造手伝ってくれなかったんですか?こういうの好きそうなのに」
俺はさりげなく距離を開けながら、楠先生に避難の目を向ける。
「んっんー。手伝いはしたと思うんだけどねぇ。あの装甲車借りるのとか。というか分かってる?あれ、借り物だから、大会の後は返さなきゃいけないんだよ?」
楠先生はそう言って苦笑し、顔を差し込むのをやめ、腰に手を当てて、普通に立つ。
「ああいう改造が好きなのは、否定しないのですね」
北島も会話に入って聞く。
「ふぬぅ。まぁね。できることならやりたかったんだけど、例の永原君だっけ?彼の機体の調整に駆り出されてしまってね。他にも俺は多忙なんだよ?こう見えてね」
そう言って楠先生は肩をすくめる。
「それよりも、あの機体。装甲を最低限に落として、軽量化を図ったんだね。装甲車一台分の馬力に合わせ、機動力を低下させないように。その上で、機動が複雑になりやすく、ただの車両型では不安定になりかねないブースターをすべて取り除いた。なるほど、面白いね」
楠先生はふむふむと頷きながら解説する。
俺はその解説に答えて話す。
「まぁ、脚部駆動系は全交換必須なうえに、その交換部品は発注待ちの段階。これくらいしか解決策は思い付きませんでしたよ。それに機体のエンジンも不調気味だから期待できませんからね。装甲車のエンジンに走行は頑張ってもらってます」
俺がそう言うと楠先生はニヤリと笑って、俺の目を覗く。
「それだけじゃないんでしょう?開始直後のアレ。君にあげたけど、彼女にあげちゃったんだ?」
そう言い、ニヤニヤしている楠先生から、視線を外し、モニターに映る試合の様子を確認する。
「俺が持ってても、今回はどうせ使えないじゃないですか。だったら、使えそうな奴に使ってもらったほうが、データも取れて先生もうれしいでしょ?」
俺がそう言って取り繕うと、楠先生は含み笑いをして俺の横顔に視線をぶつける。
「まぁ、ねぇ。はっ、そう言うことにしておきますよぉ」
からかうよな声音に、危うく俺は殴りかかりそうになるのを必死に堪えて、観戦に集中する。
がんばれ、片桐。
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凡庸な才能。
そのパイロットは、昔からそう言われていた。
だが、ここに立つのは、ほかの才能があると言われていたほかの誰でもない。この自分なのだと、パイロットは自分の努力と、実力を信じていた。
そんな彼は、今、どこからともなく降ってくるペイント弾をよけながら、必死で逃げていた。
「なんなんだ!どこから撃ってきているんだ?!」
その軌道は多くが、大きな放物線を描くもので、速度もほとんど速度もないのでよけられないことはない。だが、ロックオンアラートもならない状態から咄嗟によけるのは、さすがに骨が折れた。
その上、時々ロックオンアラートが鳴り、直線的にペイント弾が飛んでするときもあって油断ならない。
そんな極限状態で、パイロットは打開策を必死に考えていた。
そんな時、背後から狙われているというロックオンアラートが鳴り響く。
「くそっ!こうなったら!」
パイロットは一発逆転を狙って被弾覚悟で回避ではなく、振り向いての反撃を行う。
振り向いてすぐに40アサルトをばらまきながら、敵の姿を探すが、どこにも機体の姿は見えない。次の瞬間、肩にペイント弾が掠める。
直撃ではないため、ダメージ計算も大きくはならなかったが、それでも今日の初めての被弾だった。
だが、パイロットはそこで慌てず、あくまで冷静にその被弾角度から敵の位置を確認するが、そこにはこの市街地エリアに数ある廃ビル風に建てられている障害物のビルしかなかった。
「どうなってるんだ...?」
そうつぶやいた瞬間、機体のコックピットにペイント弾が着弾する。
「...え?」
次の瞬間には試合終了のベルが鳴り響く。
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「特殊陸戦兵器交流戦高校生の部一日目、第一試合。最初に勝利をおさめたのは、対馬校の高等部一年片桐選手でした!
いやぁ、彼女の乗る機体を見たときは、ちゃんと戦えるのかと心配になりましたが、その予想を裏切っての最速勝利を飾りましたね」
スタジオの一室で、試合の様子を見守っていた実況者は、そう言って片桐を称賛する。
「そうだねぇ。彼女の機体は、何というか、急造品というか。トラブルが起きて仕方なくああなった感があるね。それでも、試合においていいポテンシャルを出してるよね」
解説者も苦笑しながらも片桐の勝利を褒める。
「ですが、彼女はどうやって勝ったのでしょうか?試合序盤から、大きく放物線を描くような軌道でペイント弾を撃って敵を狙っていたようですが。しかもその多くが敵にニアミスする軌道です。不可思議ですね」
実況者が不思議そうに言い、うーんと顎に手を置き、首を傾げる。
「試合の一番最初に、彼女が置いた布石がその答えだよ?」
解説者はそう言って実況者に微笑みかける。
「最初において布石ですか?」
実況者は思い出そうとするが、それが思い出せないようで困惑した表情を浮かべる。
「うん、試合の一番初め。開始のベルが鳴るのと同時に、彼女はとあるものを切り離していたんだ」
「というと?」
実況者の合いの手に合わせて、解説者は結論を述べる。
「それはね、軍事用ドローンだよ。しかも、おそらく研究室で開発中の最新モデル、をね」




