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人型陸戦兵器「|武士《もののふ》」   作者: 荒井尾 麓
第三部 防衛高校対抗戦編
34/51

第三十四話

 空に雲はなく、晴れ渡っている。

 夏の大空は、今俺たちのいる緯度のせいもあってか、思ったよりも暑くはない気がする。

 日本北方の要、自衛軍国後島基地。そこの特殊陸戦兵器用演習場にて俺たちの戦いは行われる。

 全日程十日のうちの二日目。初日はパフォーマンスや開会式がメインで、競技自体の開始は今日からだ。

 この付近にあるすべての演習場や海上、上空をフルに使って行われる。

 集まる人間も各校の生徒や教師、軍の関係者、メディア関係も含めて、万を軽く超える。海上フロートも作って表面積が増えているとはいえ、この狭い島にその人数が集まると人口密度が半端じゃない。そこらじゅう人だらけだ。

 その上、この人が集まる機会にと、一部の許可を受けた飲食店などが出店を出している。まさにお祭り状態だ。


「はぁ、これで俺も当事者じゃなけりゃ、楽しめたのに」


 俺はその喧騒の中を歩きながらぼやく。

 俺は制服姿で、片手に小さめのキャリーバックを持ち、もう片方の手に携帯端末を持っていた。


「特殊陸戦兵器交流戦・高校生の部ねぇ」


 俺は端末の地図に従い、目的地に向かう。


「ははっ、出たくねー」


 俺は思わず乾いた笑いを漏らす。


 俺たちは、今も船で寝泊まりしているので、そこから島のバスなどを乗り継ぎ、基地の中にある臨時のハンガードックに、俺たちは向かわなければいけない。そこは選手控室も兼ねているので、俺たちの学校の選手の陸上部門もそこに集まっているはずだ。


 地図の上では近づいている。もうすぐ着く。いや、着いてしまう。


「はぁ、憂鬱だぜ」


 深い深い溜息をこぼして、俺は歩く。


     *********


 コンコンと扉がノックされる。


「誰だ?」


 ホテルの一室。その中にいる男はノックしてきた相手に誰何する。


「僕です。入ってもよろしいでしょうか」


 扉越しに少年の声が聞こえて、その声から誰かがわかった男は入室を許可する。


「失礼します」


 部屋に入ってきた少年を見て、男はふんっと鼻を鳴らして笑う。


「やっと来たか。首尾はどうだ?」


 そう聞く男に、少年は敬礼をしてから答える。


「はっ。恙なく準備は進められております」


 その返答に男はニヤリと満足そうに笑う。


「結構。ならば、引き続き準備を進めよ」


 その男の言葉に少年はまた敬礼で返す。


「行け。あまり時間を無駄遣いするな。時は金なり、だからな」


 その言葉を受けて、少年は最敬礼し部屋を辞する。


「ふふふ」


 少年が辞した後の部屋の中。男以外、誰もいないその部屋の中で男の笑い声が響く。


「さぁ、すべてはこの俺の手のひらのの上だ。踊れ、踊れ。ふふふっはははっ!」


 男の笑い声はシンとした部屋によく響いていた。


「始めようじゃないか。第二次英雄計画を」


 男の目はギラギラと光り、その眼差しの向こうには、今回のターゲットである一人の少年の姿が浮かんでいた。


     *********


 部屋を出た少年は、扉の向こうにいる自分の父親のことを思い、目を閉じて考える。


「お父様、あなたは本当に変わらない。だがこれで......すべてが終わる」


 すっと目を開けた少年の瞳には、覚悟が見えた。


「すまないけど、利用させてもらうよ?斎藤君」


 そう言って少年は歩き出す。その表情は整ってはいるが、一切の感情を排したせいで無機質さが目立ち、彫刻のような雰囲気を醸し出していた。


「許してくれるよね?だって僕たち、友達でしょ」


 そうつぶやく少年の言葉に、その言葉通りの感情は感じられなかった。


     *********


「ちわーっす」


  俺が対馬校用のハンガードックに到着すると、中は戦闘中のようなあわただしさだった。


「レンチ持ってこい!」

「部品はまだ!?早くしないと間に合わないでしょう!?」

「おい、ここの動作おかしくないか」

「そこはパイロットの癖に合わしてあるんだ!いじんな!」

「歩兵戦の武器弾薬の準備はできてんのかよ!?」

「とっくに終わってるよ!寝ぼけてんな!」


 怒号と喧騒が支配する空間を歩いて通り過ぎていく。

 奥にある選手の控室に入る。


「ちわーっす」


 俺が入ると、中にいる大多数から睨まれる。

 みなさん、血の気の多いことで。

 ここにいるのは、地上の競技の選手たちだ。

 試合前でかなりピリピリしているみたいだ。

 俺はその中を素通りしていって、男子更衣室を目指す。

 その途中で、見知った顔が部屋の隅っこにいるのを発見した俺は、先にそっちを優先させる。


「よっ、おはよう、片桐」


 俺が挨拶すると、ゆっくりと顔を上げた片桐と目が合う。


「おはようございます、斎藤君」


 俺は緊張とかで、昨日眠れなかったりしたんじゃないかと心配していたが、その感情が凪いだような表情を見て、その必要はないことを悟る。


「調子はどうだ?」

「はい、大丈夫です」


 にっこりと微笑む片桐の様子に、問題がないことを再確認して満足する。


「そっか。ま、それならいいさ」


 そう言った俺を見て、逆に片桐が心配そうに俺を見る。


「むしろ、斎藤君の方が大丈夫ですか。その、してもらっていてなんですが、私の機体調整のために無理をしたんじゃ?」


 俺は片桐の言葉を受けて、肩をすくめる。


「問題?ないよそんなの。こちとら、楠先生のペナルティーがかかってるんだ。半端な調子でなんか出ねぇよ」


 そう嘯いて俺は踵を返し、元の目的である更衣室を目指す。


「じゃあ、またあとでな」


 俺は歩きながら、内心、片桐にばれたのではないかと、ひやひやしていた。


「わざわざ、クラスの女子に頼んでファンデーションで、クマを隠しといて正解だったか」


 そう、本当のところは、昨日もあまり熟睡できずに体調は優れないままで、それを隠すために、わざわざ怪訝な顔をされるのを覚悟で、クラスの女子にファンデーションを持ってないか聞いて、借りたのだ。

 もし、クラスの女子が持っていなかったら、町に買いに行くところだった。危ないいろんな意味で。

 持っていないか聞いた女子第一号は、北島だったが、もちろん持ってなどいなかった。

 持っていた女子は、ここに他校にいる彼氏が来ているから、一応化粧道具を持っていたらしい。


 クソッ!リア充爆発しろ!むしろ爆撃してやろうか!


 徹夜テンションの俺の頭は、そんな生産性のないようなどうでもいいことが、ぐるぐると巡っていた。


「まあ、それはともかく、試合は負けられないな。いろんな意味で」


 そう言って俺は溜息を吐く。


      *********


『さぁさぁ、やってまいりました!第二十四回 全防衛大・高等学校交流戦!

 実況は防衛大学国後校四回生、通信電子兵科、佐々木麻衣子がお送りします!』


 スピーカーから聞こえてくる声は、元気にハキハキと話される。

 モニターの先にいる女性はにこやかに笑っていた。


『さて、今回私が担当いたしますのは、ここ、特殊陸戦兵器交流戦です!今回も各校からそろった猛者たちが、鎬を削り合います!

 そして、この場には解説役として、特別ゲストをお呼びしています。

 ではご紹介いたしますッ!日本自衛軍「北方の守備神」こと篠原良悟一等陸佐殿です!』


 女性のみを撮っていたカメラが引き、その隣に座る人物も映す。


『やぁ、ご紹介に預かった篠原だよ。今日はみんなに伝わりやすいように頑張るからよろしくね』


 そうやって男性が話した瞬間どこかからキャーという黄色い歓声が聞こえた気がしたが、気のせいではないと思う。


『さて、もうすぐ試合開始ですが、一佐殿はどこが見どころだと思われますか?』


 女性は隣の男に質問を投げかける。画面の端には、試合開始までのカウントダウンが表示される。


『そうだね。それぞれの機体の世代は、だいたいが第三世代か第四世代。第五世代はまずありえないだろうね。だから、機体スペック的には大きく差がないから、ダイレクトにパイロットの技能が反映される。それが見どころの一つだね。その上で、どれだけ各校の機体が、各パイロットに合わせて改造されているか、も見どころだね』

『なるほど、パイロットの技能と特徴的な機体ですか。それは楽しみですね』


 男の話にうなずきながら相槌を打つ女性。

 その後、また別の話題を投げかける。


『そう言えば、この解説者の話は、対馬にいる兵器開発部門特別顧問の楠先生にもかかっていたそうですが、それはどう思われますか?』

『あー、そうらしいね。でも、楠センセーはこういうのは向かないと思うなぁ』

『?というと?』


 言葉を濁す男に、女性は先を促す。


『確かに知識面は十分すぎるほどにあると思うよ?でもね、センセーは自分の興味のあることしか話さないから、機体のことばっかで、試合の解説にはならないかなぁーってね』


 そう言って男は苦笑いする。

 その言葉に女性はなるほどと大きくうなずき、カメラから視線を外して何かを見てから話し出す。


『さて、試合の開始時間になりましたので、会場の映像を出します』


 そう女性が言うと、画面が切り替わり、四分割されて、それぞれの会場が映し出される。


『今大会では高校生の部、大学生の部が交互に開催されます。本日の交流戦二日目から九日目まではそれぞれの予選リーグが交互の日程で行われ、最終日に決勝トーナメントが行われます』


 四分割された画面の真ん中に小さな窓がでてそこに女性が映る。

 そう、この大会ではまず、何名かずつに分かれてリーグ戦をして、その勝者が決勝トーナメントに駒を進めることができるというシステムだ。

 この交互にというのも、まず今日の二日目に高校生の部予選一日目、明日の三日目に大学生の部予選一日目、その次の四日目に高校生の部予選二日目という風に行われる。

 そして最終日に決勝トーナメントが午前に高校生の部、午後に大学生の部が行われる。


 そしてその映像の一つに、俺の目当ての人物の機体が映る。

 その姿が映し出されたとき、俺は実際には聞こえないが、遠くで多くの人がざわつくのが聞こえる。


『あ、あの、一佐殿。試合会場に何やら異様な機体がいますが、あれは本当に特殊陸戦兵器ですか』


 女性はその姿を見て、戸惑ったように言う。


『うん、あれも一応そうだね。アメリカで研究されていた機体に少し似てるかな』


 男も意外そうに、その機体のフォルムを観察している。

 

『あれはたぶん、上半身は普通の「兵」だけど、下半身のあれは車かな。他にもいろいろ改造されているみたいだね。なかなか、面白い変わり種だね』


 そう解説する男も少し引いているようだ。それはそうだ。普通ここまで改造する奴はいないからな。


「さぁ、やってやれ、片桐!」


 俺の画面の向こうにいる片桐にエールを送る。


 午前九時。試合開始の空砲が鳴らされる。

戦闘までたどり着けませんでした。( ;∀;)

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