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人型陸戦兵器「|武士《もののふ》」   作者: 荒井尾 麓
第三部 防衛高校対抗戦編
31/51

第三十一話

 俺はモニターを凝視して、一瞬たりとも見逃さない覚悟でいた。


「いいね。いい判断能力だ。テンプレートっぽいところもあるけど、それを完璧に遂行するのは、意外と難しい。そこをきっちりとできているのはすごいね。天才ではないけれど、秀才と呼ぶには少し言葉に意味が追いつかないといったところかな」


 今の接敵の様子を見て郡山先輩は、片桐をそう評価する。

 そして、その言葉に同意するように篠原先輩も口を開く。


「確かに、パイロットとしての能力自体は突出したものはありませんが、十分かと」

「そうだね。英雄にはなれないけど、一流の兵士にはなれるタイプだね」


 郡山先輩はそう片桐の話をしながらも、地味に俺のことを話しているのを、会話の流れから読み取る。この人も俺のことを「知って」いるんだと予想する。


「そうですね。彼女は編入組ですが、その努力と、元来、彼女の持つ柔軟な思考能力で、今回の大会の出場権を勝ち得ています」


 二人の会話に、俺を挟んだ反対側から補足する北島。


「そしてさらに言えば、彼女の戦法は、罠にはめたり、罠で誘導してからの狙撃といったものです。今、彼女は確実に自分の支配領域を広げて、永原先輩を打倒する準備をしています。時間が経てば経つほど、彼女の勝利は盤石になります」


 北島はそう言って片桐を褒める。実際に北島の口から片桐の評価を聞いたりしたことはないけど、意外と高評価なんだなと、思考の端の方で考える。

 そしてその評価と分析に、郡山先輩は少し残念そうな表情を浮かべる。


「それは、なんとも。......だとすれば、彼女にとって彼は、ひどく相性の悪い相手ということになるね」


 郡山先輩の言葉に俺と北島は、疑問と不安の表情を浮かべながら、郡山先輩の方を見て、その言葉の続きを待つ。


「彼が大学の出場権三枠のうち、一つを得た最大の理由は、言うまでもなくその能力が、そのパイロットとしての技量の高さゆえだけど、それだけじゃない。彼にはもう一つ、ほかのパイロットを凌駕するものがある」


 郡山先輩はそこで俺らの顔を見て、ニヤリと笑ったように見えた。


「それは、高い索敵能力だ」


     *********


 建物と建物の間を縫うように移動する機体が一機。

 その機影は決して走らず、ゆっくりと周囲の安全を確かめるように歩を進めていた。

 そしてその途中で、地面や建物などに小さな金属の箱のようなものを設置していた。


「これで、一応簡易ではありますが、誘導型のトラップの設置は完成ですね」


 片桐はそうつぶやきながら、次の手を考える。


「まずは、敵の索敵でしょうか」


 その時、視界の端に筒状の金属の塊が飛んでくるのが見えた。


「っつ!?」


 彼女はそれが見えた瞬間に、それがなんであるかを認識して、急いで後方に逃げる。

 その次の瞬間には、その筒状の金属の塊は、爆風とその中に仕込まれた無数の鉛球を周囲に炸裂させる。

 そしてその爆風は、周囲に設置されていたをトラップに誘爆させ、彼女の仕掛けていたトラップを発動させる。


「この武器の選択の仕方は、こっちの作戦が漏れていた!?」


 彼女の仕掛けたトラップは、周囲の地面を陥没させ、両脇の建物を崩壊させて敵を埋もれさせるタイプの物だった。そしてそれは今、彼女に牙を向けていた。

 その攻撃のタイミング、使った武器の特性からも、彼女の作戦を理解して、仕掛けたとしか思えないものだった。少なくとも、ただの偶然で済ませるには、あまりに条件がそろいすぎていた。


「くっ、間に合って!」


 彼女はさらに後方に逃げるためにブースターを点火する。

 さらには落ちてくる瓦礫を吹き飛ばすために、グレネードランチャーを発射する。

 そうしてやっとの思いで、自分の設置した罠から逃げる。

 そうして、ある程度の身の安全が取れてから彼女は考える。


「でも、どうして...?」


 彼女の脳裏には、今までクラスの授業の中でやられた電子的な攻撃が浮かんでいたが、斎藤や北島などの監視の下で、それを行うのは難しいと結論付ける。

 だとしたら今回のこの様子はあまりも不可解すぎる、と彼女は考え、その思考の中で一つの可能性を思いつく。


「もしかして、監視されていた?私が?」


 混乱の中、必死に周囲を警戒している彼女の様子を「見て」いる「目」が見降ろしていた。


     *********


「彼はね、斥候兵としての索敵能力が高いんだよ」


 そう言って郡山先輩先輩が永原先輩について話し出す。


「彼が使っているのは、軍事用の監視ドローン。それも一般的なタイプ。ステルス機能や静音機能もないものだ」


 モニターを見たまま椅子に深く座り、戦況を観察している郡山先輩は何気なく言う。


「ちょっと待ってください。そんなの、普通に敵に見つかるでしょう。片桐だってそんなの見落とすはずがない」


 俺は頭の中にある、郡山先輩の言う一般的な軍事用ドローンのタイプと性能を考えて、さすがにあり得ないだろうと、否定する。


「そこが彼の索敵能力の高さの証明になる」


 郡山先輩は細い目の間の瞳をこちらに向けて、説明を続ける。


「彼は同時に三機のドローンを操作して周囲の索敵を行う。常に敵に見つからないように、死角に意識しながら、多種多様なセンサー類に引っかからないように」


 郡山先輩は右手を宙にくねくねとさまよわせながら、俺たちに言った。


「つまり、永原先輩は敵の存在を見つけることに特化し、常に敵に対してアドバンテージを持つことのできるというわけですか」


 北島はうなるように郡山先輩の説明の感想をつぶやく。


「それだけではないよ」


 北島の言葉を聞いて、篠原先輩はさらに付け加える。


「永原先輩と彼女の相性は最悪だ。彼女はトラップを周囲に設置して戦い、狙撃を得意とする。だが、それは高い隠密性があってこそ。それが失われ、しかも逆手に取られる可能性まである。緻密に練りこまれれば、練りこまれるほど、それが利用されたときの苦しみは大きい」


 篠原先輩は硬い表情で、厳しい現実を突きつける。

 そしてその言葉にかぶせるように、郡山先輩は俺たちに話す。


「まさに、ミイラ取りがミイラになってしまうね」


 郡山先輩の言葉は、今、映像の中に現実地となっていた。


     *********


「うっ」


 また、爆発。

 今、彼女は敵の攻撃にさらされ、その進路を誘導されて、自分の張ったトラップ群の中を走っていた。

 彼女は必死に、周囲に意識を向けて敵を探すが、姿を見えず、常に自分の死角から攻撃が降り注ぐ。

 これまでにほとんど戦ってことのないタイプの敵の前に、彼女は苦戦を強いられていた。


「くっうう!」


 また、自分の設置したトラップを利用されて、爆風と瓦礫の弾丸が機体を襲う。


「このままじゃ...!」


 彼女はこのままでは、ジリ貧だと割り切り、逃げることを諦め、その場にとどまることを決める。

 今発動したトラップで、ここにあるトラップは品切れになった。このまま逃げ続けても、勝機はないと彼女は反転して敵を迎え撃つ。


 その時だった。地面が爆発し、陥没し始める。


「そんな、なんで!?」


 彼女は自分の記憶を探るが、こんなトラップを仕掛けた覚えはなかった。


 そんな彼女の目の前には、今まで姿を現さなった敵の姿が現れる。

 そして、その手に持つ銃を彼女に向けて発砲する。


 勝負は決した。


     *********


「ま、今回の頭脳戦対決は、彼に軍配が上がったわけだね」


 そう言って郡山先輩は立ち上がる。


「残念だが、こちらも学校のメンツがかかっている。辛抱してくれ」


 篠原先輩はそう言いつつも、申し訳なさそうな顔を俺たちに向ける。

 俺と北島はその言葉を受け取りつつも、片桐を迎えに行った。


 シミュレーターから出てきた片桐は、沈鬱な表情を浮かべていた。

 それに対して、もう一方はとても晴れやかな表情を浮かべて、誇らしげに俺たちを見下ろしていた。


「ふん、所詮は高等部の一年ごとき、しかも編入組が俺に勝とうなんて、烏滸がましいにもほどがある。こんな勝って当然の勝負に勝っても、誰にも話せないな、恥ずかしすぎて」


 永原先輩はその口からでる言葉のすべてを持って、俺たちのことを嘲弄していた。


「永原先輩、あまりそういうことを言うのは、感心しません」


 嘲弄する永原先輩の前に立ちはだかり、俺たちとの間にそびえる壁になった篠原先輩はそう永原先輩を諫める。


「ふんっ」


 永原先輩は篠原先輩と一瞬睨み合った後、その視線を外してその場から立ち去る。

 そして篠原先輩はその後姿を見送ってから、こちらに振り返って俺たちに頭を下げる。


「すまない。不快な思いをしているだろうが、どうか抑えてほしい」


 篠原先輩が頭を下げる横から、郡山先輩もこちらに近づいてくる。


「まあ、残念だけれど。勝負は勝負だからね。きっちり約束は守ってもらうよ。お互いにね」


 郡山先輩はそれだけ言うと、俺たちに背を向けて立ち去る。


「本当にすまなかった。では、私もこれで失礼する」


 そう言って篠原先輩も立ち去る。


 残ったのは俺たちだけだった。


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