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人型陸戦兵器「|武士《もののふ》」   作者: 荒井尾 麓
第三部 防衛高校対抗戦編
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第二十九話

 その場に現れた乱入者は、切れ長の目を細め、楽し気な、しかし、寒気すらすら感じるほどに冷たい声音で、俺たちに話しかけてきた。


「どうしたんだい?この僕に説明してほしいと、お願いしたんだけど?誰もしてくれないのかな?」


 乱入者一人が発した言葉だけで、今にも爆発しそうなほど過熱していた空気は、冷めるどころか凍り付き、誰も一言も話すことのできない空気を、その人はまったく読むことなく、話しかける。


「すみません、郡山先輩。これは私の不足の致すところです。すぐに解決いたしますので、どうかもうしばらく、この私に時間をいただけないでしょうか?」


 郡山と呼ばれた切れ長の目を持つ生徒は、わずかに笑っているような表情を崩さずに、自分に頭を下げてきた篠原先輩を見る。

 そして、郡山先輩は篠原先輩の両肩を掴み、体を起こさせて、その顔が自分と向き合うようにする。


「違う、違うよ?僕はね、こう言ったんだ。詳しく話を聞かせてって。なのにその答えは、そう、正しくない。君もそう思うだろう?」


 小首を傾げながら、そう言う郡山先輩を正面から見る篠原先輩が、ごくりと唾を飲み込むのを俺はしっかりと聞いた。


「申し訳ありません。報告いたします」

「うん、お願い」


 篠原先輩は郡山先輩のその異様な迫力に負けて、今回の経緯と、その結果生じた勝負の件の全容を話した。


「ふむふむ。おおよそのことは把握した。それにしても、貴方はいつも突拍子もないようで、それでいて最適解を間違いなく導き出しますね。楠先生」


 郡山先輩は、篠原先輩の報告を聞いてから、そのわずかに笑っているような表情の笑みを深くして、楠先生を見る。


「そうかい?褒めてもらえてうれしいねぇ。照れちゃうよ」


 その笑みを正面から受けて、楠先生は何でもないように笑う。


「本当に食えないお人だ。さて、永原先輩」


 郡山先輩は、楠先生に何を言っても意味がないことを悟ったのか、その笑みを向ける方向を永原先輩に向ける。


「な、なんだよ、なんか文句あんのかよ。お、俺は上級生だぞ」


 永原先輩にさっきまでの威勢はなく、どこか腰が引けていた。

 そんな永原先輩に、郡山先輩は近づいていく。


「ええ、そうですね。貴方は四回生、僕は三回生、上級生は貴方です。『で、それが?』」


 郡山先輩の言葉に、永原先輩は凍り付く。


「その程度のことで、貴方は僕よりも上だとお思いで?だとしたら、失笑ものですね。実力ではそこにいる北島君にも劣るでしょうに。まぁ、そうでも言っておかないとご自分のプライドを保てないのは、お察しいたしますが」


 そこで郡山先輩は区切る。そして次の言葉で、その場の異様なまでの圧力は増す。


「吠える相手は、弁えてもらいましょうか?三下君?」


 俺は自分が言われたわけでもないのに、自分の心臓を掴まれたような感覚に陥る。

 怒鳴るわけでもなく静かに、あくまで静かに、まるで死刑宣告でもされたかのような威力を、郡山先輩の言葉は持っていた。

 言われた張本人は、その威力の前に、微動だにすることさえ適わず、その顔は青くなるのを通り越して、白くなっていた。


「さて、永原先輩。その勝負、受けてみましょうか」


 重苦しくなった空気を破るように、郡山先輩は言う。

 本当にその言葉は唐突というか、空気をまったく読まないことが極まっていた。


「受けていいのか?」


 永原先輩は恐る恐る、というのがまさに当てはまるような様子で、郡山先輩に問う。


「ええ、面白そうではないですか。ですが、そこの女生徒が勝った時の希望が、今後永原先輩がちょっかいを出さないこととは、なんとも寂しい上に情けないじゃないですか。そのくらいのことは勝敗にかかわらず、守るべきでしょう。できますよね?」


 郡山先輩は全体を見回しながら言い、そして、最後に永原先輩を視界の中心に戻す。

 一度離された目が、また自分を捉えるのを見て、永原先輩は体を硬直させる。


「ああ、わかった。必ず守る。俺は勝っても負けても、今後一切片桐にちょっかいをかけない」


 永原先輩はわずかに声を震わせながら、そう言った。

 その様子に郡山先輩は満足げに一つうなずいてから言葉は続ける。


「そして、そこの君に提案なんだけど、消えた君の要望の代わりに、僕が一つ提案をさせてもらおうか」


 郡山先輩は、片桐をその眼でとらえて声をかける。

 片桐はその眼で見られた瞬間、体をびくんと跳ね上げる。


「な、なんでしょうか」


 そんな片桐の様子に郡山先輩は普通に笑う。


「ふふっ。そんなに怖がらなくてもいいよ?なのも取って食いはしないから。さて、提案だが、それは」


 郡山先輩は息を吸い、間を作る。


「もし君が勝ったら、君を団体戦メンバーに迎えよう。どうかな?」


 その郡山先輩の言葉に、その場にいた全員が絶句する。


「ま、まて、郡山っ!そうなったら、俺は、俺はどうなる!」


 永原先輩は郡山先輩に縋る着くように必死に問う。


「なにをおっしゃいますやら、貴方が敗北した暁には、貴方は機体を失い、大会への出場はできなくなるのは、必然。代わりのメンバーを探すのは当然でしょう。しかも、それが貴方と正々堂々と勝負して勝った相手なら、なおさらでしょうに。なにかご質問でも?」


 何でもないように郡山先輩は言った。

 その言葉に永原先輩は、呆然とそこに立ち尽くす。


「ほら、永原先輩、必死に頑張らないと、そこの下級生に代表の座を取られてしまいますよ?」


 郡山先輩笑っているのかいないのかわからない表情のまま、そう言って永原先輩を煽る。


「俺は、俺は大会に絶対出場する!」


 永原先輩がひねり出した言葉に、郡山は一つ満足げに頷き、片桐を見る。


「さて、そこの君はどうする?いやなら条件を変えるけど?」


 これを飲めば、片桐は個人と団体の二つへの出場となる。そのプレッシャーと払われる労力は馬鹿にならない。


「私は......」


 俺はちらりと片桐の様子を見る。そして、わずかに見えた彼女の眼差しを見て、その答えを知る。


「私は、もっと強くなりたい。そのための経験を少しでも積む可能性をいただけるのでしたら、私はそれがほしいです!」


 片桐は時々見せる、強い意志の光をその瞳に宿して郡山先輩をまっすぐ見据える。


「ふふっ。そうこなくっちゃ」


 郡山先輩は、普通に楽しそうに笑う。


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