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人型陸戦兵器「|武士《もののふ》」   作者: 荒井尾 麓
第三部 防衛高校対抗戦編
27/51

第二十七話

第三部開幕です!

 七月下旬


 例の事件からもう一か月が経とうとしていた。

 あの後、学内のクローズドネットにアップされたのは、軍の上層部の要請で、実戦の戦闘資料として提出するように言われたと、楠先生から説明を受けた。

 それと一緒に高嶋さんが、軍内部において俺のことを神輿に担ごうとしている流れが、わずかではあるがあるので気を付けるようにと釘を刺された。


 いや、どうやって気を付けろって話なんだが。


 それはそれとして、俺は今、自分の機体の調整をしていた。

 あの時の装備はすべて外され再調整中だ。

 俺は「武士・零式(もののふ・ぜろしき)」のシステムチェックを終えて、外に出る。

 そこはいつもの研究所によく似ているが、少し違った感じの研究所だった。そこにはほかに六機の機体が収容されていた。


「楠先生!システムチェック、終わりました!」


 俺はコックピットから少し頭を出して楠先生を探しながら言う。


「そうかい、お疲れさま。次こっち手伝ってー」


 楠先生は、俺の機体の隣に置かれた機体の下にいて、俺のことを呼ぶ。


「まったく、人使いが荒い」


 俺は溜息を吐きながら言う。


 俺たちは今、八月にある全防衛学校交流大会の最終準備に駆り出されていた。


 『前防衛学校交流大会』


 これは日本の防衛学校が今の形式に変わってから毎年八月に開催される大会だ。今年で二十四回目になるらしい。

 その内容は自衛軍と防衛学校の音楽団の合同セレモニー、自衛軍のパフォーマンスなどがあるが、メインは全九校ある防衛学校の学生同士による、対抗戦という名の軍事演習だ。

 歩兵部隊による陸上部隊対抗戦、練習艦同士の海上艦隊対抗戦、さらには個人の技術を競うための武術系の大会や、銃撃の技術を競うものもある。

 そしてこの大会の花形といえるのは、操縦者たちの大会。つまりは、航空兵器対抗戦、特殊海上兵器対抗戦、最後に俺たちの出場する特殊陸戦兵器対抗戦だ。

 まあ、ある意味この三つは、特に派手だからな、戦いが。

 そして、この大会は毎年持ち回りで開催校が変わっていくんだが、今年は防衛学校最北の地、『国立国後防衛学校』での開催となった。


 そしてこれは俺も今月に入ってから聞いた話なんだが、軍に正式に所属している従軍学生は、この大会、強制参加らしい。

 つまり、俺もこの大会出るらしいよ?特殊陸戦兵器乗りとして。


「はあ、最悪の気分だぜ」


 俺は暑いのを我慢しながらも、楠先生に言われた機体のシステムチェックを始める。


 この大会は学校同士の威信をかけた戦いなのだそうだ。ここに来て忙しく動いてる整備科の先輩が言ってた。なので、学校の先生も、生徒も総出で機体や練習艦の調整をするらしい。

 練習艦と現地に向かうための輸送艦は、すでに調整を先に終えて出港している。そしてちなみに言うならば、今俺のいるこの研究所もその輸送艦の中だったりする。

 つまり、今俺たちは練習艦と護衛艦に守られた大型輸送艦によって、どんぶらこ、どんぶらこと、俺の心境としてはドナドナに近いが、目的地に向かっているわけだ。機体の調整をしながら。


 この船の旅もあと一週間といったところらしい。現地入りは七月末になるそうだ。


「斎藤、大丈夫か。顔色が優れないようだが」


 俺が機体の調整をしていると、横から声がかけられる。


「えぇ、えぇ、大丈夫だよ。これはただの船酔いだ」


 俺は話しかけてきた奴に一瞥もくれずに答える。

 俺は絶賛船酔い中だった。


「もう三、四日乗っているのに、まだ続いてるのか?」


 俺を心配してか横に人物は俺の話しかけてくるが、実際のところ、それに答える余裕も元気もないので、できるならほっといてほしい。


「どうも初日に体調が悪い時に酔ったのが、あとを引いてるんだよ。ほっといてくれ」


 俺はつっけんどんに答える。気分も悪いが、機嫌も悪かった。


「私もこういうのができれば手伝ってやれるのだがな。すまない」


 そう言って話しかけていた奴は、俺の背後に回り、後ろから手を伸ばして俺の額に手を当てる。

 急にそんなことをしてきたのに、俺は内心少し驚いていたが、その手はひんやりとしていて思ったよりも気持ちよかったし、無理に振り払うのも面倒だったのでほっておく。それよりも調整が先だ。


「あ、あの、お二人は何をしていらっしゃるのですか」


 新たに表れた人物は、今の俺とこいつの状況を見て、持っていた飲み物を握りしめて硬直する。


「機体の調整」

「斎藤のフォローを」


 俺とこいつ、北島はそろって言葉少なに答える。

 そしてこいつが、こんなに俺のことを気にかけているのも、俺の調整している機体がこいつの機体だからだろう。

 俺は気にせずに手を動かし続ける。


「斎藤君、飲み物いりますか?」


 新しく来た片桐は片手に持つペットボトルを渡してくるが、俺は手がふさがっている。


「ありがたいけど、今手が離せない。そこらへん置いといて」


 俺はモニターの文字列を目で追い続けながら答える。


「片桐さん、こいつのことは私に任せて、君も自分の機体の様子を見に行ってもいいのだよ?」

「あ、いえ、私の機体は明後日の午後からの予定なので、しばらくは何もすることはないんです」


 俺の背後で言葉が交わされるのがわずかに聞こえる。


「明後日?ずいぶんと先なんだな」

「ええ、どうも、先輩の機体の方でなにか問題が出たらしく。その復旧でほかの整備の方も行ってるらしくて」

「なるほどな、難儀なことだ」


 ちなみにだが、今大会の特殊陸戦兵器の種類は特に指定はないが、そのほとんどは学校にある練習機を使用することが多い。そして同じようなスペックの同士の機体がぶつかり合うとき、その差は操縦者の技術と調整した整備科の腕の見せ所となっている。なので、多くの整備士の生徒たちはこの準備期間が最も熱い時期となっているのだ。だから、毎年、闇改造された機体がでてきて、話題になったりする。

 だがこの機体はほかの整備科の生徒はおろか、教員でさえ触れる人間は少ない。


「それにしてもすごいですね。北島さんの機体」


 片桐は俺たちの目の前にある機体を見ながらつぶやいたようだ。


「ああ、やっと私も、特務官の本来の任務に戻れる」


 北島のその言葉には万感の思いが込められているのがわかる。何せ俺の額に当てられた手に力が入って、地味にアイアンクロー気味になってるくらいだからな。


「痛い、痛い!うれしいのは分かったから手から力を抜け!頭が割れる!」

「あ、すまん」


 俺の叫びでやっと気づいたのか北島はさっと手を放す。

 北島が興奮するほどの機体、それは今月になってから、ようやく部品が納品されて組み立てられたばかりの機体。前回の「武士・零式(もののふ・ぜろしき)」の問題点を踏まえて改めてチューンアップされた機体。それが「武士・零式・改もののふ・ぜろしき・かい」だった。

 その姿は「武士・零式」が赤いのに対して、「武士・零式・改」は青くペイントされている。それ以外は表面上は大きく変わっていなかった。


「私の機体、これで私もやっと」


 ちらりと見た彼女の顔は嬉しさで輝いているように見えた。


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