第二十六話
俺の地上での戦いが終わったのち、海上の敵はすぐに撤退をしたらしい。
このことからも今回の目的は明らかに「武士」だったことがわかる。
日本は中華に国連を通して抗議をしていたが、状況はあまり芳しくないそうだ。
まぁ、なにはともあれ、こちら側に大きな被害はなかったので、結果オーライ。
と行きたかったのだが、俺が勝手に行動したことがばれて、いろんな人から怒られた。
しかも、あの時、俺があの学生の列から抜けて、研究所に行くまでの間、完全に監視の目から俺が消えていたことから、俺が実はその間に敵の潜入部隊と接触していたのではないかという嫌疑がかけられ、俺の監視は一層強まる結果となった。
さらに面倒なことに、俺が今回孤軍奮闘して、敵五機を一機で仕留めたことを評して、表彰されることになった。
何となくだが、この対応にも軍内部のいろんな事情ってやつが絡んでる気がして嫌になる。
俺はもう習慣になっている朝の稽古を終え、いつもの通学路を歩く。
梅雨は明けて、季節はいよいよ夏に入ろうとしていた。
*********
「失礼します」
広く、本や多くの小物が置かれた部屋、窓から外を眺めていた男は、入ってきた人に背を向けたまま話す。
「よく来たね、報告を聞こうか」
「は」
男は振り返り机を挟んで向かい合う人を見る。
「で、彼はどうだい。行動に変化などは?」
「いえ、最近は学校生活にも慣れてきたのか、特に目立つようなことは」
男の向かいに立つ人は、凛々しくもいまだ少女の枠を脱していない幼さを持つ女性だった。
「そうかい、まあ、君が彼はスパイではないと太鼓判を押すんだ。おそらくそうなんだろう。まあ、形式上報告を必要になるんだけどね」
男は手を後ろで組んで穏やかに話す。
「で、それ以外はどうだい?彼はパイロットとしては優秀なのかい?」
「は、彼は、正直に申しまして、異常の一言に尽きるかと」
男はその言葉に興味深げな色を瞳にともす。
「ほう、それは。そこまでに彼は優秀かね」
「はい、たかがひと月の訓練を受けた程度で、機体を十全に動かし、それだけでなく、戦闘においても高い成績を修めています」
少女は表情をあまり動かさずに、感情を乱さずに平坦に言う。
「しかし、君のクラスには高等部からの編入組で優秀な子がもう一人いたと思うのだけど?」
男は記憶の中から、少女のいるクラスのデータを思い出す。
「いえ、彼女は確かに高等部からの編入組ですが、彼女の戦い方は少々特殊と言いますか。はっきり言って彼女の強さの根源は、その作戦の巧妙さにあり、操縦技術そのものに関しては他の者の方が上です。それでいて、あの学科の生徒に多いことですが、そういった作戦を用いた戦闘は苦手としているのです」
「なるほどつまりは、脳筋化しているわけか」
少女の説明に、男は身もふたもなくバッサリ斬り捨て、少女もそれに苦笑する。
「否定はできません。ですが実際、彼らは前線で戦闘することが主ですから、あまり作戦の立案は視野にいれていないのも致し方ないかと」
「とはいっても、ある程度はそういった戦術に対する方法も身につけておかないと、戦場では生き残れないだろうに」
男は肩をすくめて溜息を吐く。
「ごもっともです」
少女も正論過ぎて反論の余地を見いだせない。
「それそうと彼の優秀さだったか、つまり君は、彼はそういった戦術的な巧妙さではなく、あくまでパイロットとしての技術の高さが異常だと言いたいわけかね」
男は逸れた話を戻して問う。
「はい、もともと普通の生徒並みにはできたのですが、ここ最近の伸びには私も危機感を感じています」
「そこまでかね」
男はうなるようにつぶやいた。
「さらに、彼は時々、常人を超えた反応を見せる時があります」
「常人を超えた反応?」
少女の発した言葉に男は首を傾げる。
「何度か、彼と模擬戦をした際、完全に取ったと思った攻撃が外れて、致命的なダメージを免れただけではなく、さらには反撃まで加えて、私自身危なかったことがあるのです。しかも、それらの攻撃は不意打ちとまではいかなくても、常人なら反応すらできないようなものに対してです」
少女は悔しそうに拳に力を込めている。
男はそんな少女ようすを見てわずかに心配しながら、自分の思考を巡らせていた。
「そうか。それはまた、厄介な。軍内部で少々不穏な動きがある」
「それは?」
「彼は突如としてあらわれ、外敵の戦いにおいて無敗だ。その姿に英雄として持ち上げる流れが、わずかだが起きている。さすがにすぐにどうこうというのはないだろうと思ってはいたが、それだけの能力を見せているならば、あるいは、な」
男は顎をさすりながらそう言う。
「英雄と言うと北方守備の篠原一佐のようなですか」
少女は訝し気にそう聞く。彼女自身彼が英雄になるというビジョンが浮かばないのだろう。
「さすがにそこまでは期待していないだろう。だが、戦う理由、勝利の材料程度には使うつもりだろう」
男は目を閉じ、首を振って残念そうに言った。
少女は彼が戦争の道具に使いつぶされようとしていることに怒りを感じて拳を白くなるほど握りしめる。
「そんなに戦争がしたいんですか。その人たちは...!」
「まぁ、こちらも気を付けておく。君も気を付けてくれ」
静かな怒りを燃やす少女を見て、男は場の雰囲気を変えるように明るく話しかける。
「そんなことよりも、もうすぐ対抗戦の時期だね。やっと君も今年から出場できるようになったんだね」
男の意図を読んでか、少女も気持ちを切り替えて、男に合わせる。
「はい、私もやっと高等部になりましたので、対抗戦に出場します。まぁ、それ自体が任務と言うのもありますが」
「とはいえ君自身も、そういう舞台で自分の能力を試せるのはうれしいんじゃないのか」
男は穏やかな笑みを向けて少女に言う。
「ええ、少し不謹慎かもしれませんが、私自身どこまでできるのか試してみたいのも事実です」
「まぁ、あまりがんばりすぎないようにね。それにしても、大会のルールの軍属生徒の全員強制参加が、実際に発動するのは私も初めてだよ」
「そうなのですか?」
「少なくとも、私が軍にいる間では初めてだ」
男と少女は楽し気に会話をする。
そして、しばらくたってから少女は時計を見て、もう行かなくてはいけない時間であることを確かめると男に挨拶して部屋を退出する。
「では、失礼いたします」
「うん、学校頑張りなさい、行ってらっしゃい」
扉が閉じて少女が行ったことを確認すると、男は椅子に深く腰掛ける。
「なるほど、やはり彼はそうなのか」
男は机の鍵付きの引き出しを開けて、さらにその中にある鍵のついた小さな箱を取り出し、指紋認証と電子ロックを解除してから開けてその中のUSBメモリを見る。
「前田、すまないが、俺はこれを隠しきるのは難しい。たとえ彼女が傷つくとしても、私は......」
男は大きく溜息を吐く。
*********
俺が教室に入った時、クラスのほとんどが一か所に固まっていた。何かを見ているらしい。
なんだ、教室でいかがわしい動画の鑑賞会とは、青春してんなぁ。
俺はそんな馬鹿なことを考えながら、その集団の後ろに回ってその一番後ろにいた片桐に話しかける。
「なに見てんだ?」
俺がそう聞くと、片桐はひゃっと可愛い声をあげながらもびっくりした顔で俺を見る。そして、それは片桐だけではなくほかのクラスメートも驚いた様子で俺を見る。
俺はそのみんなの様子を不思議に思いながらも、一番前にあるタブレット型の端末を見る。
「これって...」
そこに映っていたのは、この前の俺と敵との戦闘の映像だった。なぜすぐに俺がわかったかと言うと、その映像はあの戦闘の後に、楠先生からドローンから取っていた映像を編集したものを、戦いの参考資料としてもらったものと一緒だったからだ。
「おい、これなんでお前らが見てんだよ」
俺は驚きながらもタブレットの持ち主である田中に聞く。
「それは、学内のクローズドネットに参考資料として最近アップされてたんだよ」
そういうことらしかった。だが誰が、何のために?
「でも、すごいよね。斎藤君敵の正規軍人の乗った機体を五機を相手に勝っちゃうなんて」
俺たちが話しているさらに後ろから声をかけられて、俺は振り返る。
そこにはむかつく顔でニコニコしている東雲の姿があった。
「まさに『英雄』だね?」
俺はその笑みにうすら寒いものを感じていた。
俺の高校生活は、決して平坦なものにはなりそうにないと改めて感じていた。
『第二部 防衛高等学校編入編』 終了




