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人型陸戦兵器「|武士《もののふ》」   作者: 荒井尾 麓
第二部 防衛高等学校編入編
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第二十五話

 男は混乱していた。

 味方の放ったロケットランチャーは、確実に着弾したはずだ。

 なのに、敵は生きている。


『あり得ない』


 男が一瞬驚きで呆然としている隙に、敵はもう一機の味方に猛然と迫っていた。

 男は咄嗟にミサイルによる迎撃をしようとしたが、味方との距離が近すぎる。

 戦車砲で狙おうとするが、敵が不規則に動いて狙いきれない。


『くそっちょこまかと!』


 やけくそで撃った砲撃は、悲しくも当たらず、そうこうしているうちに、狙われた味方機は敵の手によってコックピットを刺し貫かれて、やられてしまった。


『よくも、よくも!』


 男は怒る。

 たとえこれが戦争だとしても、ともに戦ってきた仲間を殺されて怒らない人間などいないだろう。

 そして何より、男は自分自身のことが許せなかった。

 あの時油断さえしていなければ、あいつは死なずに済んだのかもしれないと。

 だが、男は軍人だった。

 そんな苦悩も懊悩もかみ殺し、ただ、ただ、目の前にいる憎い敵を倒すことのみに脳を働かせる。


『必ず、貴様は、殺す!』


     *********


 俺は突き刺した刀を抜く。

 それと同時にロックオンの警報音が鳴る。

 俺はすぐに、目の前にあるもう動かない機体を掴み、それを自分の真後ろに盾になるように投げる。そして俺はその機体と場所を入れ替わるように移動して、さらに振り返ってどいつが狙ってきたのかを確認する。

 俺の視界には飛んでくるロケット弾と、それを放ったであろう機体が見える。その機体はロケットランチャーを一本しか装備していないことからも、さっき俺をロケットランチャーで狙ったのと同じ機体だろう。

 俺はロケット弾と盾にした機体、自分が一直線になるように位置を調節する。

 あのロケット弾自体は障害物を回避したり、追尾したりできるような高性能なものではない。だからこうやっておけば、あの盾にした機体に着弾して、その爆発によって俺の姿を隠す目眩ましになるはず。

 そして、飛んできたロケット弾は、盾にした機体に着弾し爆発する。さらに、俺の思惑通り機体に残っていた液体燃料に引火してさらに爆発して黒煙をまき散らす。

 俺はその隙に建物の陰に隠れながら、さっきの撃ってきた機体を目指して隠れながら移動する。

 さっきのあいつの位置と、この周囲の建物の配置は頭の中に入っている。そこから最短距離を導き出して、見つからないように全速力で移動する。


「さすがに移動してたか!」


 俺が予想の位置の近くに行くと、すでに移動していたのか建物の曲がり角でばったり遭遇する。

 相手は戦車砲の砲口を俺に向けようとするが、それよりも早く俺は右手の刀で袈裟懸けに機体の胴体部分を切り裂き、コックピットを破壊する。


「あと、一機!」


 俺が最後の機体を索敵しようとしたその瞬間、俺がいたそこに小型ミサイルの雨が降り注ぐ。

 周囲に着弾した瞬間に、すぐに左腕を上にかざしてシールドを展開するが、それよりも早く一発が機体の頭に着弾して頭部が破壊され、モニターにフィートバックされる視覚情報が減る。

 基本は、頭部のメインカメラからの情報をもとにモニターの映像は構成されているので、それがなくなると、胸部のコックピット周辺のカメラがメインカメラとして処理される。これは地味に嫌な変化だ。いつものなれた視界と高さが変わるわけだから、実際操作の感覚が変わる。


「くそ、なんで位置が分かったんだ」


 俺がぼやいていると、俺が通って来た道からもう一機が姿を現す。

 まだ、ミサイルの雨は降っている。


「なんでここに!?」


 機体をよく観察すると、腰のミサイルポットが一つも残ってないのが見える。


「くそ、この雨はただの囮かよ!」


 相手は先に俺がいると思われる位置の周囲に、残りのミサイルを全弾、一気に打ち尽くしてから、その位置を目指して移動してきたわけだ。

 さっきまでは、ずっと距離を保つ戦法をとってきたから、この攻撃も遠距離攻撃を主体にしてくると予想した俺の思考を逆手に取ったのか。

 それに位置の特定も、たぶん味方のシグナルがロストしたことから、逆算して狙ってきたんだろう。


「強い...!」


 俺は現れた機体の性能ではない、操縦者としての技量に戦慄を覚える。

 現れた敵は、俺に向かってロケットランチャーを放つ。いまだミサイルは降ってくる。


「くっ!」


 俺は「飛炎」の銃撃で迎撃するが、銃撃がうまく当たず、かなり近くまで接近を許してから破壊したせいで、爆風に巻き込まれる。


「ぐあぁぁ!」


 コックピットが強く揺さぶれる。

 その衝撃に俺は一瞬、意識が朦朧とするが、乱れる映像の中で砲口を俺に向けている敵が見えて、俺は咄嗟にブースターを点火して、今いる通りよりも開けた大通りに向かって飛ぶ。

 自分がいた位置に砲弾が着弾するのを横目に見て、何とか緊急回避できたことにほっとしつつも次の手を考えるために、機体の態勢を整える。

 そこで俺は右手にあるはずの刀がないことに気づく。

 おそらく、さっきの爆風に巻き込まれたときに吹き飛ばされてしまったのだろう。


「マジかよ。今日代わりの刀、装備してないんだが」


 俺は「飛炎」の残弾を確認しながら絶望的な気分に陥っていた。


「どうしよう、これ」


 厳しい戦いは続く。


     *********


「すごいねぇ、すばらしいねぇ!」


 楠は斎藤の戦いぶりを観察しながら、今回新たに装備した「飛炎」と「雷覇」が十全に性能を発揮しているのを見て、かなりハイテンションになっていた。


「うーん、だけどそれぞれの形状と、機体との親和性が微妙かなぁ。それにもう少しコンパクトにしたほうがいいよねぇ。それにプラズマシールドもきっとエネルギーを大きく消費してるんだろうなぁ。いろいろコミットしないとなぁー」


 楠は誰に言うでもなく、一人で会話を自己完結させる。


「先生、もっと斎藤君の心配をしてください」


 高嶋は機体のことしか話さない楠に、穏やかにだが、険のある口調で言う。


「とは言ってもねぇ、ここで彼の心配をしたところで、敵が弱体化するわけでもないし。無意味じゃない?」


 楠は肩をすくめて、興味ないと言わんばかりに答える。

 高嶋はそんな楠の様子を見て、溜息を吐きながらさらに言葉を繋ぐ。


「先生、そんなんだから、いろんな人から感情が壊れてるとか、人間やめてるとか、陰で言われるんですよ?」

「え、俺、知らないよ。そんな風に言われてるなんて」


 楠は本気で知らなかったらしく、ゴーグルをつけたまま高嶋の声のする方向に顔を向けて、驚愕の表情を見せる。


「それは、陰口ですから。というか自覚くらいあるでしょうに」


 高嶋はまた溜息を吐く。


「ま、どうでもいいけどね」


 驚いたのもつかの間、だが、すぐに興味を無くしたのか戦況の観察に戻る。


「科学者としては、本当に尊敬できるのに...」


 高嶋はそう言ってさらにもう一つ溜息を吐く。


     *********


 俺が装備の確認をしていると、敵が建物の陰から半身だけ出して、片方の砲身を出してこちらを狙ってくる。

 俺は左右にジグザグに移動しながら、敵に近づく。

 敵は逃げずに砲撃を続ける。


 ここで決めるつもりか?いや、どちらにしろ、こっちの「飛炎」の残弾は三発。俺の射撃の腕を考慮すると、接近するしか勝機はない。


 俺はわずかな違和感を抱きながら接近する。

 俺と敵の距離が接近戦が可能な距離になったとき、俺はおそらく敵はそのまま路地に引いて俺をおびき寄せて、一本道の中の逃げ場のない中で勝負に出るだろうと予測して、その場合の対処を考えていたが、その予想は外れる。


「そう来たか!」


 敵は予想を反して物陰から出てきて、接近戦を挑んできた。

 相手が素手であれば、俺はそこまで警戒しなかっただろうが、敵はしっかりと近接武装を装備していた。

 今まで隠していた半身の手に握られていたのは、一本の見覚えのある刀だった。


「人の刀をパクってんじゃねぇよ!」


 俺は咄嗟にブースターを使って後方にバックステップを踏む。さらに左腕の「雷覇」のシールドを展開して刀の勢いを削ぐ。

 敵はゼロ距離のこの状況で、さらに戦車砲をこちらに向けて発砲する。

 俺はそれをシールドで何とか防御するが、その衝撃で吹っ飛ばされる。

 俺は倒れるのは何とか免れたが、態勢を崩してしまった。この隙を見逃す敵ではないだろうと砲撃が来るのを予想して構えるが、こない。

 敵を見る。

 敵は砲口をこちらに向けているが、撃ってこようとはしない。

 俺は理解する。


「弾切れか」


 敵が戦車砲をパージしたことによって、俺の予想が当たっていることが証明される。


「いよいよ、決着か」


 俺は油断なく、敵との距離を縮める。


 おそらくもうすぐ味方の部隊も到着するだろう。このまま時間切れを狙うのもありかもしれない。だが、敵もそんなことは知っているはず。ここで敵のとれる選択肢は二つ。作戦は失敗したと諦めて、撤退する。そうそう簡単にはできないだろうが、この状況ならもう作戦の遂行は非常に難しい。そう判断するのが普通だろう。

 敵は刀を構える。

 俺はその姿を見て敵はもう一つの選択をしたことを悟る。

 こいつは、逃げることよりも、ここで戦うこと、自分が死ぬとしてもせめて仲間の仇を討つことを選んだ。

 俺は左半身を前にして半身に構える。

 普通ならここで選ぶべき選択は、正面戦闘ではなく、時間稼ぎに徹することが最善だろう。俺もそうしたい。だが、シールドを多用したせいだろう、エネルギーの残量はあまり多くない。正直、時間稼ぎに使うには心もとない。

 だから俺も腹を括る。


「さあ、決着つけようぜ」


 戦場に立つ二機の間に静寂が下りる。

 俺は唾をごくりと飲み込む。

 いつも感じたことのないような、周りの景色がゆっくりと動き、頭が冴える。思考が深くなる。

 敵の剣先が微妙に動き出す。

 俺はそれを見て、自分も動き出す。

 すべての動きがまるでスローモーションになったように感じる。この感覚は二度目だ。

 敵は刀で突きを繰り出すが、俺はそれを左手で弾く。

 超音波振動刀(ハーモニックブレード)は確かに高い切れ味を持ってるが、切る刃の部分にさえ触らなければ、大丈夫だ。

 俺は右腕を敵のコックピットに突き出して、「飛炎」の銃撃を放つ。

 しかし、敵が体を逸らしながら脚の一本で右腕を弾いたことによって銃弾はそれる。

 さらにその逸らした態勢から片腕で横凪に刀を振るう。

 俺は身を屈めながら、左手で刀を振るう腕をつかみ、その勢いを殺さずに流しながら投げ技に移る。

 敵も途中でそれに気づき、腕をパージして対応する。

 俺もそこまで思い切ったことをしたことに少し驚く。

 敵はその一瞬を逃さずに残った腕の拳で俺のコックピットを狙う。

 俺もすぐに意識を切り替えて右腕の「飛炎」攻撃を受ける。

 敵の機体の手が砕けて使い物にならないのがモニター越しに見えるが、俺の「飛炎」もフレームが歪んで使い物にならなくなった。

 だが、敵はまだあきらめない。

 敵は脚を使って蹴り攻撃をしてこようとするが、俺はさらに一歩、前に踏み込むことによって、蹴りの間合いを殺す。

 そして俺は敵のコックピットに左腕を突き付ける。


「チェックメイトだ」


 俺は今回実装された、最後の武装を発動させる。

 バシュンという何かが発射される音とともに敵のコックピットが貫かれる。

 敵のコックピットを刺し貫いたのは、銀に輝く太い杭だった。


「男の夢装備、パイルバンカー。本当に使うことになるとはな」


 「雷覇」搭載されたのは超電磁パルス式プラズマフィールドシールドともう一つ、リニア式パイルバンカーの二つ。

 装備の説明を読んでいた時は絶対に使わないだろうと思っていたけど、まさかの展開だった。


「ふう、終わった」


 俺は体から力を抜く。

 遠くから陸自の武装ヘリが来るのが見える。


「遅いよ、終わっちまったよもう。あ...」


 俺が愚痴をこぼした瞬間、限界を超えたのか、機体がエネルギー不足のために、電源が落ちる。


 ここでの戦いは、ぎりぎりではあったが、俺の勝利で終わった


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