第二十四話
俺が装備の確認を終えたのは、エレベーターが地上階に到着するのと、ほぼ同時だった。
そしてそこから見えたのは、だいぶ破壊が進んでいる研究所の正面の大型扉だった。
俺はもうそろそろ破られそうだなぁ、と思いつつ、扉の脇に隠れる。一応壊される前提で、その瞬間を狙いに行くスタイルにする。
だが、すぐには壊されないだろうと、俺が作戦を練ろうかと考え始めた瞬間に強い衝撃と爆音が響いて、あたりに土煙が立ち込める。
俺としては、もう少し時間がほしかったなー、と思うが、起ってしまったものはしょうがない。と腹を括り突撃する。俺は機体のレーザー探知機能を使って敵を探して突っ込む。
ちょうど正面に二機いたから、たぶんこいつらが破壊した張本人たちであろう。
俺はここ最近、涼子さんとの特訓によって身に着けた抜刀術で、一気に二機のコックピットを薙ぎ払う。
「はあぁ!」
敵もいきなりの突撃に対応しきれないようだった。俺はその瞬間を逃さずに斬る。
だが、思ったよりも横凪の一閃は勢いがよかったようで、周りの土煙も一緒に薙ぎ払ってしまう。
敵はそこでこちらに気づいたのか、俺から距離を取る。
敵の装備を見て、思ったよりも重装備且つ、遠距離戦を想定された装備にかなり嫌気がさす。
「本気すぎるだろ。もう少し力抜いてこうぜ?」
俺は相手が油断なくこちらの様子をうかがっているのを見ながら、頭の中では、機体に乗るまではトラウマがよみがえって、ひどい気分だったのが、乗って戦闘になった途端、戦いに集中できるようになった。さらにこんな風に違うことまでに意識が向くまでの余裕がある。そんなこの状況を少し気持ち悪く感じていた。
俺はこんなにも好戦的な人間だっただろうかと、俺は考える。
ただ興奮状態にあり、脳内麻薬のおかげでこうなっているだけなのだろうか?
俺にはその問いに答えるだけの知識はなかった。
「来るっ!」
俺が思考の海を漂っているところで、敵はお構いなしに攻撃を仕掛けてくる。
敵の機体は小型短距離ミサイルを撃って、俺の動きを封じるように俺の移動範囲を狭めてくる。
さらにその両肩の戦車砲が動き、俺の方向に銃口が向けられるのを見て、ミサイルがただの牽制で、本命はあの砲撃であると予測する。
だから俺は、俺の移動を阻害しているミサイルの弾幕の中に飛び込む。もちろんただ単に飛び込むわけではない。
俺は楠先生から言われていた、新装備の使い勝手を確かめるために使う。
俺は機体の右腕を突き出す。そしてトリガーを引く。するとダダダダという細かい発砲音が響き、前方のミサイルを蹴散らす。
「実戦データがこんなに簡単に手に入るなんて、本当に楠先生が全部企んでるじゃないだろうな」
俺は機体の右腕に装着された手甲にしては大ぶりな円形の装備を見ながら、心の中でさすがにあり得ないと思いながらも、口に出して言葉にする。
「でも、今はそんなこと考えている暇はない。次だっ!」
俺はミサイルの弾幕の先にいる機体を見ながら、気を引き締める。
*********
「先生、やっと火器装備を付けたんですね」
斎藤たちが戦っている主戦場から、流れ弾が届かない程度には離れた距離に高嶋と楠の姿はあった。
二人はあの戦闘のごたごたの隙に、研究所から研究データと必要機器を持って、さらにはデータが盗まれないようにハードディスクを破壊してからここに逃げて、戦闘のモニタリングをしていた。
「そうだねー。さすがに、近距離装備のままは可哀想だし。でもまだ世界基準用の設定はしてないから、あれ以外の火器は装備できないんだよねぇ」
楠は戦況監視用のドローンを操作して、戦闘の様子を専用のゴーグル型のモニターで見ながら答える。
「大丈夫ですか、それ」
高嶋は持っていた双眼鏡から目を外して楠を見る。
「うーん、何とかするんでしょう、彼なら」
楠は戦闘の様子に集中しているのか、答えが適当になる。
「はぁ、本当にこの人は。で、あれは何ですか。ただの手甲装備じゃないようですけど?」
高嶋は楠の対応に少し不満を感じながら、気を取り直して、装備し関して質問する。
「あれはね、「手甲型装備・甲・飛炎」と言ってね。見てのとおり機体の前腕に装備するんだけど、基本はあのとおり火器による攻撃ができるよ。まあ、といってもバレル部分の長さがそんなに長くないから、ふだんは中距離射撃までが限界かな。あ、安心していいよ、あれにはまだまだいろいろ機能を入れてるから」
楠はさっきまでの適当さが嘘のように、饒舌に詳しく語る。
「まあ、先生のことですから、ただの火器装備を付けるだけで、そんな大層な名前は付けないとは思ってますけど」
高嶋はそこで言いよどむ。楠も気になって自分から聞く。
「ん?なんだい、なにか気になることでも?」
「いえ、たぶん、先生のことだから、夢装備だぁ、とか言って、無駄な機能が付いてたりするんだろうなぁと」
高嶋は本当に大丈夫かしら、と真剣に斎藤のことを心配する。
*********
俺は苦戦していた。
三方向からの止むことのない砲撃と、俺の行動範囲を縛ってくる小型の短距離ミサイル。
いくらこっちが「飛炎」の銃撃でミサイルに対抗できるとはいえ、常にすべてを打ち落とせるわけじゃない。わずかだが、うち漏らして危ないところもあった。
俺はこの極限状態に確実に精神をすり減らしていた。
だからといってこちらから攻めようとしても、建物などの障害物を上手く使って、銃の射線から逃げるし、近づこうとしても絶対に接近戦はしてこないし、常にフリーの機体が、狙われている機体をフォローして距離を保てるようにしてくる。
かなり手詰まりだった。
「くっそ、うざいっ!」
俺は、また俺の逃げ道をふさぐように放たれたミサイルを撃ち落として、その方向に向かって逃げる。
その時、ロックオンの警報音が鳴る。
「しまった!」
あまりにも単調になりすぎていた。撃った方向に逃げることなんてすぐに読まれてしまうことを、俺は失念していた。
ドンという重低音が聞こえた時には、俺は咄嗟にブースターを使って上に逃げる。
だが、それを読んでいたのか、さらにロックオンの警報音が鳴る。
左側の視界の端に映るモニターには、こちらに向かって放たれたロケットランチャーの弾頭が見える。
俺は咄嗟に、そのロケットランチャーから放たれた弾の方向に左腕を構えて、機体を守ろうとする。そしてその瞬間、弾は着弾し爆発を生む。
「本当に、こればっかりは実戦投入はシャレにならない」
俺は衝撃によって吹き飛ばされたが、機体の損傷は軽微なままだった。
「まさか、こんなにぎりぎりで使うとはな」
俺が使ったのは左腕の装備、「雷覇」に搭載された超電磁パルスによるプラズマフィールドの盾だ。
これが最初に開発されたのは、もう既に数十年前になるが、こういう風に実弾などの直撃を防げることが立証されたのはつい最近の話だ。
俺も武装の説明を見たときはちょっと引いた。だってこれは理論的に可能と言われていて実際に実験がされたのは数件。しかもそのほとんどは成功率が五割を切る結果になってる。理論的に可能でも、技術的に難しいと言われていたものを突っ込んでくるのは、さすがにどうかと思ったが、結果的に役に立ったから良しとしよう。
俺はそう考えながらも、機体の姿勢を制御して視線の着点を探す。
すると、ちょうど飛んでいく方向に、敵のうちの一機がいた。
「チャンス到来!」
敵はあの一撃で俺が死んだと、少なくともまともに動ける状態ではないと思っていたのだろう、動きがワンテンポ遅れた上に、ぎこちない動きだった。
それでも、敵は両肩の戦車砲の砲口を俺に向ける。
さすがにブースターだけでは足りないことを悟った俺は、左腕を向ける。
「まったく、今日は新機能の実戦実験じゃないんだぞ!」
俺は「飛炎」で威嚇射撃しながら、「飛炎」の小さな円形のバックラーようになっている部分の中に収納されているロボットアームを射出した。そのアームはワイヤーでつながれた二本爪で、その姿はおもちゃのマジックハンドを厳めしくしたようなものだった。
俺はそれで敵の脚の一本をロックして、一気にワイヤーを引く。さらにブースターで機体を左右上下に動かして照準を合わされないようにする。
敵はそれでも必死に戦車砲で攻撃してくるが、一発も当たらずに俺は敵の懐に入る。
「チェックメイトだ」
俺はアームのロックを外してから右手に持つ超音波振動刀でコックピットを刺し貫く。
「あと二機っ!」
まだまだ、戦いは始まったばかりだ。




