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人型陸戦兵器「|武士《もののふ》」   作者: 荒井尾 麓
第二部 防衛高等学校編入編
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第十五話

 彼女の一言は、教室内にざわめきを生む。


「私と君が?」


 北島は片桐をじっと見つめて、その真意を探るように聞く。

 その問いに片桐は一歩も引くこともなく、むしろそれに競るように北島を見据えて言う。


「はい、私とあなたで、真剣勝負をしましょう」


 本日二試合目のエキシビションマッチの火蓋は静かに切って落とされた。


     *********


「本当にやるのか?俺が言うのもなんだけど、あいつ一応軍人なんだぜ。一応戦ったこともあるけどかなり強いんだぜ?」


 俺は、いきなり北島に勝負吹っかけてきた片桐に近づいて行ってそう言う。

 そして片桐はそんな俺のことを一瞥もくれずに、集中したようすで言う。


「はい、分かっています。だからなんです。私は彼女と戦いたい、私の努力に意味があって、私自身の実力を証明するためにはこれしかないんです」


 この時の片桐の様子はいつもの気弱さはなく、むしろ刃物のように研ぎ澄まされていた。


      *********


「大丈夫か、あいつ」


 俺は、シミュレーターの中に入っていく片桐の後姿を見ながらも、心配な気持ちでヤキモキしていた。

 その時、背後から急に話しかけられる。


「なかなかに面白いことになったね」


 俺は反射的に振り返る。そしてそこにいた人物を見て、俺は言葉を失う。


「君もそうは思わないかい?」


 俺はこいつの顔を見た瞬間から、もう既に気づいていた。こいつは紛れもなく俺の敵だと。確証なんてない。だが、俺の根本的な部分、それこそ遺伝子に刻みこまれた本能ってやつが、俺に教える。こいつは敵だ、排除しろ、殺られる前に殺れと。俺の獣の部分が叫ぶ。


「ん?なんだい?親の仇を見るようなおっかない顔をして」


 そう、こいつは......『クソイケメン野郎』だったのだ。

 ああ、恐ろしいぜ。こいつらはそこに存在してるだけで、周囲の女子の人気をこそぎ取っていきやがる。ああ、憎い、憎いぜ。動物の生存競争において一歩リードしてるこいつがなぁ!


「てめぇと話すことなんてねぇよ。帰ぇんな」

「あれ、君ってそんな口調だっけ?なんか僕に対する風当たりきつくない?」


 俺はついついイケメンに対して排他的な雰囲気を全開にしてしまう。

 そんな俺の様子に、クソイケメンも戸惑ったような表情になる。そんな表情もイケメンのままなのが気に入らなくて、俺の機嫌はさらに悪くなる。


「ああ?俺ぁ、いつもこんな感じだけどぉ?なんか文句あんのかよ」


 俺は完全にチンピラモードに移行する。こうなった俺は、そうそう簡単には機嫌を直すことはない。


「んー、いや、そんなつもりはなかったんだけど。もしよかったら、君の英雄譚を聞きたいっていう女の子が何人かいたから、紹介しようかと思ってたんだけどなぁ」

「よし、詳しい話を聞かせろ」


 俺の機嫌は一瞬で回復する。ぐへっへ、分かってるじゃねえか、ニイチャンよぉ。


「というのは、嘘なんだけど」

「よし、わかった、表出ろ」


 俺は悪鬼羅刹モードに移行する。こうなった俺は、対象を地獄の底に叩き込むまで止まらない。

 終始微笑みを絶やさないクソイケメンに重度の殺気を覚えつつ、改めて目の前の人間の話を聞く。


「はあ、で、本当に何の用だよ。つーか、お前誰だよ」


 俺は目の前の人間に確かクラスにいたなぁ、くらいの認識はあるが、それ以上の情報は持ち合わせていなかった。

 そんな俺の言葉にクソイケメンは、芝居がかった仕草で自分の胸に手を置き自己紹介する。


「これは失礼。僕は東雲 稔(しののめ みのる)。以後お見知りおきを」

「けっ、二度と関わり合いたくねえな!」

「同じクラスの限りそれは難しいと思うけど」


 俺たちの会話は、俺の一方的な険悪な雰囲気のまま進められる。


「それはそうと、君はどう思う?彼女たちの勝負」


 東雲は話を最初のところに戻す。

 俺はその問いに、モニターに映る両者の準備画面を見ながら答える。


「どうだろうな。俺は片桐の強さは知らねえけど、北島の強さの片鱗は知ってるからな。正直、あの北島が負けるとは思えないがな」


 俺は「武士(もののふ)」に乗ったときのことを思い出す。

 あの時、あいつは「(つわもの)・壱式」という警察などに配備された暴徒鎮圧用の第一世代機で、まだ未完成とはいえ最新鋭機と対等以上に戦った。

 そんな化け物みたいな実力を持つ奴相手に、片桐は大丈夫なのだろうか。


「かもしれないね。でも、片桐さんにもまったく目がないわけじゃないと思うよ」


 東雲は微笑みを絶やさずに、話を続ける。


「片桐さんは、あんな感じで普段は気弱そうだけど、クラス内のシミュレーションの勝率は一番、つまりは今の段階でこのクラス内で一番強いのは、片桐さんってことになる」


 あ、ついでに二番は僕なんだけどね、と付け加えて東雲は言うが、そんなことよりも、俺にとって聞き捨てならないことが聞こえた気がする。


「は!?片桐は高校からの編入組だろ!?なのに、クラス内最強?どこの俺TUEEEE設定だよ」

「君も一応編入組だけど、中等部からの持ち上がり組に勝ってるんだよ?」


 俺は改めてモニターを見つめる。

 あいつなら、もしかしたら、と。俺は考える。


「まあ、僕個人としては、この勝負も気になるけど、君のことも気になるんだよ?」


 東雲はそう言って、俺の隣に並んで観戦モードに入る。


「は?何気持ち悪いこと言ってんの」

「ははっ、そんなに邪険にしないでおくれよ。強い味方と親しくなっておくのは、とっても重要だからね」


 俺はそんな東雲の言い方が気になって聞いてみる。


「ほう、その心は?」


 すると東雲はにっこりと笑って、こちらを向いて言葉を吐く。


「ほら、強い味方と親しくなっておけば、戦場でいざというとき、助けてくれそうだし...」


 そこで東雲は一呼吸置く。


「それに、危険な状況で高性能な盾になってくれそうじゃない?」


 み、味方を盾扱い...!こ、こいつ、さらっとイケメンスマイルで腹黒いこと言いやがった!

 こいつはただのクソイケメン野郎ではなく、腹黒イケメン野郎だったと心の中の人物評価を改める。


     *********


 私は試合の始まる前のわずかな時間に、心を落ち着かせるためにも今回の前にあったひと悶着と、そこで決まったルールについて考える。

 


 私が北島さんに試合を申し込んだ後、北島さんが答えようとした瞬間に私たちの間に唐橋先生が入ってきた。


「ほう、それは面白そうだな。いいだろう、自分がその試合、許可する」


 そのいきなりな物言いに、北島さんはわずかな不満を滲ませながら唐橋先生に言う。


「唐橋教官、それは私が答えるべきなのでは?」

「北島、自分のことは先生と呼べと言っているだろう?」


 当の唐橋先生はどこ吹く風といった感じで、どんどん話を進めてしまう。


「お互いに技術があるからな、下手に自由なルールでやると授業時間が無くなる。というわけで二人には短期決戦仕様というこで撤退、降伏の禁止に加え、全火器、全飛び道具の使用禁止、近接装備のみを使ってもらう。ああ、それと超音波振動武器、高温武器の使用も禁ずる」


 唐橋先生はそう言う。

 これは厳しい条件だ。私の戦術が大幅に制限される。


「先生、使用する機体に関しては制限しませんよね?」


 私は少しでも勝ち目を増やすために手を回す。機体の自由な使用は重要なファクターとなる。


「そうだな、機体は自由に選択することを許可する」


 私は内心胸をなでおろす。そこまで制限されたら私の勝ち目はぐっと落ちるからだ。


「では、お互いに健闘を祈る」


 そう言って唐橋先生は下がる。

 その様子に北島さんは溜息をひとつ吐いてから私に向く。


「唐橋教官は困った人だ。人の勝負に勝手に口出ししてくるのだから」


 北島さんは少し呆れたように言う。おそらく二人は短くはない付き合いなのだろう。だが、唐橋先生が口出ししてきたのは、興味やおせっかいだけではないと思う。


「でも、それは自体は仕方のないことだと思います。だって...」


 私は確信をもって言う。


「全火器や飛び道具が使えたら、北島さんでも、勝てませんから、私に」


 北島さんは目を細め、身にまとう雰囲気を変える。

 普段の私だったら、恐怖で震えあがってしまうだろうが、今の私は気分が高揚しているせいか、あまり恐怖を感じなかった。


「面白いことを言うな?私が勝てないと?」

「はい、『絶対に』」


 私はあくまで確定事項を言うように、北島さんに言う。


「ふふっ、面白い、面白いよ。片桐さん」


 北島さんはとても獰猛な笑みを浮かべ私を睨む。


「格の違いというのを教えてやろう」


 北島さんのやる気も出てきたようだ。でも、そうでないと私も困るからよかった。

 これでやっと私は、証明することができる。己の努力の過程と結果の実力を。


 私は震える手をぎゅっと握って誤魔化す。

 これから戦う相手は確実に格上だ。でも、それ自体はこれまでやってきたことと変わらない。

 そう、いつも通り。


「いつも通り、下剋上するだけ」


 私はカウントダウンの始まったモニターを見つめながらつぶやく。

 そしてその先にいる彼女の機体を見る。

 敵の機体は「T-5A2ティーファイブエーツー兵・伍強・弐型つわもの・ごきょう・にがた」軍で使用されている強襲型の機体。特徴は流線型のフォルムで風の抵抗を抑え、高速戦闘を可能にした比較的新しい機体。

 対して私の機体は、「T-4A2(ティーフォーエーツー)兵・四強・弐式つわもの・よんきょう・にがた」軍では滅多に使われない強襲型の機体。この機体の最大の特徴は他のどんな機体よりも薄く軽い装甲にある。形状は彼女の機体を同じように流線型で、空気抵抗を無くしているが、この機体は高速戦闘を目的としていない。この機体の目的は迅速な敵の殲滅。奇襲にある。ある意味では、奇襲特化型と言ってもいい。つまりは殺られる前に殺れという機体なのだ。その装甲の薄さは通常弾一発で貫通されてしまうほどの薄い。掠るだけで致命的な損傷になりかねない。

 だから、私は一発も攻撃を食らうつもりはない。


 残りの時間は一秒、そして状況は開始される。

 先手必勝とばかりに、私は全力で前に、彼女の方へと、装備していた片刃の大型曲刀を投げる。


 さぁ、下剋上の時間です。


おかしい、こんなに戦闘シーンが書きたいのに、戦闘になかなか入らない。

ということですみません、戦闘は次回からです。

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