第十四話
なんだ、なんなんだ。急にこっちの位置がばれたみたいに銃撃を打ってくるなんて!
俺は被弾個所の確認をしながら、モニター下部の文字に従って、次の襲撃ポイントに向かう。
「同じラッキーが二度起こると思うなよ!」
俺は慎重にあいつのいる地点の背後を取る。そして『手榴弾』を投げいれ、爆風が過ぎてから銃弾を撃ち込む。
これで終わりだと思い、銃口を下して試合終了のアナウンスがなるのを待つ。
が、それの代わりに鳴ったのは、ロックオンの警告音だった。
「な、馬鹿な!」
それはほぼ反射だった。
俺はもう一度銃口を前に向けて撃つが、土煙の先に機体はなく銃弾は空を切る。
俺が愕然としていると、強い連続した衝撃と銃撃の音が俺を襲う。
コックピット内には損傷を伝える警告アラームがけたたましく鳴り響く。
俺はすぐにその場から逃げる。
「くそ!急になんだっていうんだ!」
*********
俺は慌てふためく敵の様子を見てニヤリと笑う。
あいつらは今、何が起きたのかわからずに慌てふためいてるだろう。
だが、こんなこともきちんと予想しておくべきだろうさ。自分たちの使ってるチートが相手にも使われる、むしろ逆に利用される可能性も。
俺は一つのモニターに映る市街地のマップと、それに映る一つの動く点を観察しながら、もう一つのモニターに映る同じ市街地のに別の点を撃ち込む。
「さぁ、狩りの時間だ」
俺はキーボードで直接入力して機体を動かしつつ、もう一つのキーボードで別の入力をする。
そして俺は目的の位置に到着すると、ちょうど敵が、誰もいないはずの地点を警戒しながら移動していたので、その背後から銃弾を撃ち込む。
今度はさっきのようにはいかず、すぐに回避行動をしながら俺の方に向いて反撃をしてくる。
俺は深追いせずにすぐに逃げる。
相手は混乱しているだろう。自分たちが絶対的優位に立っていたはずなのに、俺のことを嬲り殺しにするはずだったのに、どうしてこうも上手くいかないのかと。
俺が相手のタネに気づいたように、相手もそろそろ感づいてきそうだが。もし、気づいてなかったら、もっと遊んでやろう。
さっきと同じように俺は、相手の背後に回り込んで銃を構えようとするが、敵はすぐに振り返りこっちに銃撃してくる。
さすがにばれたか。
俺がやっていることは二つ、システムに直接介入して相手の位置を把握することが一つ目。これはおそらく相手も使ってる。だから相手はこちらの奇襲が簡単にできたんだと予想できる。
俺はそれに加えて、相手にこちらの偽の位置情報を送ってその行動を誘導して、逆にこちらが奇襲しやすくした。これが二つ目だ。
さすがに二回もしたら相手も気づいたようだけど、そのダメージは馬鹿にならないだろう。
さてここからは、読み合いになるのかなと、そう思っていると、相手の位置を知らせる点は、この市街地の中心部の大通りに向かっていた。
「これはまずいな」
俺はちょっと負けた後どうしようかと考えてしまった。
*********
「ふむ、なんとも流れがおかしくなってきたな」
モニターの前で教師は腕を組みながらそうつぶやく。
「ですね、お互いの動きがどうも腑に落ちませんね」
その隣で女生徒がそのつぶやきに答える。
そしてモニターを見つめ続ける教師はそのまま女生徒に聞く。
「貴様はあの動き、どう見る」
女生徒はわずかに思考してから、自分の考えを述べる。
「そうですね、おそらくですが、お互いに何かしらの方法によって、相手の位置情報を得ていると考えられます」
教師はふむと一つうなずいてから、口を開く。
「かもしれんな」
そして女生徒は、その教師の言葉少なな答えにわずかな疑問を抱きつつ、周りを観察してそこにいない人物を探し始める。
そして移動し始める。
「どこへ行く?北島」
教師はモニターを見たまま女生徒に問う。
それに女生徒は何気なく答える。
「いえ、お手洗いに行くだけです」
*********
大通りの開けた空間。そこのど真ん中に敵は立っていた。
俺はその様子を建物の陰から覗く。
「まさかの正面戦闘。俺勝てるかな」
俺は冷静に相手との技量の差を分析して勝ち目が少ないことを予想する。
「奇襲作戦がうまくいかないから、正面戦闘に移行したってだけじゃない気がするなー」
相手はおそらく、まだ『手』を残している。と俺の直感は告げていた。
「いやだなぁ、行きたくないなぁ」
だからと言っても、この周辺に奇襲に適したポイントがない。つまり、直接戦闘に持ち込むしかない。
「ふう、しょうがないか」
俺は腹を括る。もう戦うしかない。
「さて、いきますか」
俺は銃をリロードしてから装備していた「手榴弾」を構える。
そして俺は、それを大きく放物線を描くように敵に投げる。それと同時建物の陰からブーストを点火して、今投げた「手榴弾」の飛んでいる範囲から外れるように、弧を描くように飛び出す。
敵はこちらに気が付くが、同時に迫る「手榴弾」に気が付いて銃で打ち抜く。
そして打ち抜かれた「手榴弾」は爆発し、その爆風によってわずかに視界を悪くさせる。
俺は迷いなく銃を構え、銃弾の雨を敵に向けて降らせる。
敵もすぐに反応してこちらと同じようにブースターを点火しながら弧を描きながらこちらの銃撃に対応してくる。
その瞬間だった。急に俺の機体の動きが、何かに制限されるように重くなったのは。
「やっぱりやってきたか!」
俺は自分の機体の感知に、なにも引っかかっていないのを確認すると、すぐに片手で機体の操作を必死でしながら、もう片方の手でシステムに介入して、今の俺の機体に起きていることを調べる。
「やっぱりか、そりゃそうだよな」
俺は額に汗を流しながら、その結果に納得する。
「やっぱりクラッキングされたか」
そう、相手はシステムに介入するだけじゃなく、こちらの機体のシステムにも入り込んでいたのだった。
だが、こと電子戦に関しては......。
「負ける気がしねぇなぁ!」
俺は今でも十分に集中していたが、そのギアをさらに上げる。
見える景色がゆっくりになる。システムの内部のプログラムを映しているモニターに流れる文字列が止まって見える。そのうえで俺はその先に出る文字列とその対抗策を同時に考え、さらに敵の動きを把握しながら、次の動きをマニュアル入力する。
その結果か、機体の主導権は徐々に俺に戻ってくる。
プログラムに文字列から敵も焦っていることがわかる。
だが、もう遅い。
次の文字列で俺の機体に新しくファイアーウォールが完成する。
これでやっと普通の戦闘に集中できる。
俺はシステムの完成を確認すると、フルマニュアル操作をやめて、通常の操作に移行する。
「さぁ、ラストスパートだ」
俺は銃撃を続けるが、残弾が心もとないのを横目で確認する。
そして銃弾は底を尽きる。
だが、それは敵も同じなのか、同じく銃撃が止まる。
その瞬間、お互いに低い弾道で「手榴弾」を投げる。そしてそれらは偶然にもぶつかって、二人の中心で落ちて爆発する。
俺は何の迷いもなく、二本の対装甲ナイフを構えながら、その爆風の中に突っ込む。
そしてその爆風の先には、今まさに、銃の補充を終えて銃撃に移行しようとしている敵の姿があった。
その突きつけられた銃口を俺は左手の対装甲ナイフで弾き、前傾姿勢のままブースターを点火して敵の懐に突っ込む。
敵は思わず後方に逃げようとするが、こちらの右手のナイフが装甲を貫くほうが早かった。
その瞬間、試合終了のシステムコールが鳴る。
*********
シャバの空気はうまい。そう、俺は思った。
試合が終わって外に出た俺の、最初の感想はそれだった。
そして改めて周りを見ると、そこにはほとんどの生徒が集まり、俺たちの試合の様子を見守っていたようだ。そしてその視線は、当初の物よりも少し和らいだのが五割、さらにきつく警戒の色が出たのが四割、あとの一割は好意的な視線を向けてくる。
その好意的な視線を向けてきていた生徒の一人が、近づいてくる。
「お疲れさまです!おめでとうございます!」
片桐はにっこり微笑みながらも、わずかに興奮した様子で言う。
それに俺はニヤリと笑いながら言う。
「言ったろ?俺はなんとかするって」
そうやって話していると、もう一つのシミュレーターから出てきた坂下が、まっすぐにこちらに歩いてきて俺の前に立つ。
「斎藤、確かにお前はただのコネでテストパイロットになっただけじゃないみたいだな」
その顔には屈辱のためか眉間にしわが寄り、険しい表情になっていた。
その剣呑な雰囲気に当てられてか、片桐は隠れるように俺の後ろに隠れ、俺のスーツを軽くつかんでいる。
役得だな!ナイスだ坂下!
とふざけたことを考えながらも、坂下の言葉を聞いている。
「だが!俺の実力はこのクラスの中でも低位。この程度でいい気にならないことだ!」
坂下はそんな言葉を指さしながら俺に言う。
その時俺は思った。おいおい、おまえはどこの土属性の四天王だよ、と。
嫌だよ?こんなイベントあと三回してから、ラスボス戦に至るとか。
その時、人ごみを割いて一人の男子が一人の女生徒に連行されて、俺たちの目の前に来た。
「試合が終わってからで申し訳ないが、試合中の不可解な現象の張本人を連れてきたぞ」
北島は華奢な男子の襟をつかみながら言う。
「それはどういうことだ、北島」
その後ろから唐崎先生も来る。
そして北島はその先生の質問に答える。
「はい、こいつはシミュレーターのシステムに介入して、敵の現在地を坂下に教えたり、敵の動作システムに介入して動きを制限するなどの不正行動をしていたので捕まえてきました」
北島にその行動のすべてを暴露されて華奢な男子はしゅんとなり、坂下も居心地の悪そうな顔をする。
だが、その報告を聞いて唐橋先生の顔つきは変わらない。
「で?それがどうした?北島」
その言葉に北島はわずかに不思議そうな顔をして言う。
「こいつらは、不正を働いたのですよ?厳正な処罰が必要だと思いますが?」
その言葉への唐橋先生の反応は芳しくなかった。
「不正か、北島、それのどこが、不正なんだ?」
「は?」
北島は唐橋先生の言葉が、心底理解できないという表情をする。
そして唐橋先生は無表情のまま言う。
「戦場においては、電子戦も当たり前だ。この特殊陸戦兵器というのは、その挙動のほとんどを電子制御に頼っている。ある意味では精密機械を言えるが、それが情報攻撃されるのは当然のことだ」
唐橋先生は腕を組んで仁王立ちで言葉を続ける。
「それともなにか?貴様は戦場で電子戦を仕掛けてくる敵を、いちいち探してきてこいつはこんなに卑怯なことをする奴なんだと、いちいち裁判にかけるのか?
戦場では、何でもありだ。結局勝ったもん勝ちだ。負けたやつが悪で、勝った奴が正義だ」
その唐橋先生の言葉に北島は悔しそうにしていた。
だが、次の瞬間、唐橋先生はその無表情を崩して、ニヤッといつもの獰猛な笑みを浮かべて口を開く。
「だが、それは戦場での理。そしてここは俺の授業だ。ここは基本技術を学ぶための場所だ。故に、確かに自分はこいつらを厳罰に処する必要があるようだなぁ?」
その獰猛な笑みに、対象の二人はぶるりと体を恐怖で震わせていた。
その対象からはずれているはずの俺も不覚にも膝が笑いそうになる。
だが、次の発言で俺も恐怖することになる。
「そういえば、斎藤、貴様も見ている限りでは、システムにクラッキングしていたよな?」
俺は背中に嫌な汗が流れるのを感じながら、必死に抵抗する。
「え?そ、そんなことありませんよ?俺、頑張って自力で戦ってましたよ?」
ああ、嘘は言ってない。クラッキングも自力ででやったから、なにも嘘はついてない。
「残念だ、斎藤。俺の手元には各コックピット内の様子をモニタリングするための端末があるんだ」
先生の手元には四角くて薄い端末が持たれていて、その画面にはさっきまで俺のいたコックピット内の様子が映し出されていた。
まさかの詰みだった。
「安心しろ、貴様ら」
唐橋先生は優し気な表情を浮かべる。
その表情に俺たちは一縷の希望を見出す。先生も言っていたじゃないか。戦場ではなんでもありだって。だから情状酌量の余地はきっとあるはずだ。
だが、そんなことはあり得なかった。
「ちゃんと貴様らの魂の一片に至るまで、軍人としての在り方を刻みこんでやろう」
そういいながら先生は指の関節を曲げるだけでコキコキと鳴らして見せる。
先生の言葉には末尾に(物理的に)とか付きそうだなぁとか、俺は現実逃避していた。
俺はこの日、本当の絶望を知ることになるかもしれない。
そんなことを考えていると、俺の後ろに隠れていた片桐が、北島に近づいていくのが視界の端に映って、俺は無意識にそれを追う。
そして片桐は北島をまっすぐに見据えて言葉を発した。
「北島さん、少しいいですか?」
その言葉に反応して北島が片桐の方を向く。
「なんだ?片桐さん」
片桐は少し考えて、それから決心したように言い出す。
「私と勝負してくれませんか?」
ここに本日、二本目のエキシビションマッチが開始されようとしていた。
*********
私は考える。
彼は電子戦を受けながらも、坂下君との勝負に勝った。
その勝負強さ、センス、才能、それらはいつかは私なんかでは追い超されてしまう。
そう、私にできるのは、常に挑み続け、強い相手から学び続けることだけ。
だから、今私がすべきなのはこの選択だ。
私は、北島さんに近づく。そして、話しかける。
「北島さん、少しいいですか?」
北島さんは私の言葉に反応してこちらを向いてくれる。
私自身かなり緊張していた。
これから私の戦おうとしているのは、クラスの中でもはや伝説か、神話のように語られる人間なのだから、それは当然のことだった。
「なんだ?片桐さん」
私は考える。
本当に勝てるのか。戦うことに意味はあるのか。無意味ではないのか。
だが、私は私自身の不安を否定する。
勝てるかではなく勝つと、意味はあるものではなく作るものだと、無意味なことなどないと。
そして私は心固く決めて言う。
「私と勝負してくれませんか?」




