第十三話
戦闘開始です!
「唐橋先生!あれはどう見ても不正ではありませんか?!」
坂下と斎藤の戦闘の様子を、教室にある観戦用のモニターで見ていた片桐は、唐橋に訴える。
「どうだろうな、ああいうことも実戦ではある。戦場での不意打ちは日常だが?」
唐橋は片桐の言葉にどこ吹く風で、ただじっとモニターを見ていた。
その背に向かってもう一人、異議を唱えるものが言葉をぶつける。
「唐橋教官、私も少し不可解に感じます。確かに実戦において不意打ちは常套手段ですが、この両者同時に戦闘が開始された状況においては、あまりに坂下に好都合すぎると思いますが?」
「唐橋先生と呼べ、北島」
唐橋は振り返って、異議をぶつけてきた女生徒に向き合う。
「このシミュレーターには、ありとあらゆる状況が想定されている。こんなこともあり得なくはない」
「しかし、私は中等部時代にもこれらを使っていましたが、こんな状況にはなったことはありません」
理路整然と北島は唐橋に語るが、そんな言葉に狼狽えることなく、唐橋は不敵な笑みを浮かべながら答える。
「所詮は確率論だ。当たる時もあれば、当たらない時もある。自分ですらこのシミュレーターの想定状況数は知らない。より正確に言うなら、このシミュレーターには専用のAIが搭載され、常に新しい状況を作っているから、知らないんじゃなくて、知ることができないんだがな」
その言葉を聞いてさすがの北島も黙る。
片桐もまた言葉を繋ぐことができずに黙り、ただ祈るように斎藤の戦闘の様子を見る。
*********
「あいつ、勝負が終わったら絶対一発殴る」
俺は開幕ショットされた銃撃の直撃を避けた。
そして俺は放たれた方向から敵の位置を予測して、死角になるように建物を盾にして隠れている。
「確実に、状況の開始される前からこっちの居場所が分かってやがったな。それに立ち位置に関しても、開始されるまでは移動ができないはずだから、そこもいじってきやがったか」
俺は一人つぶやきながらも周囲の状況を確認して、これからのプランを練る。
「とりあえず、敵の索敵だが、どうするかね。はっきり言って、策なんて考えてないぞ」
ハンドルグリップを握り直し、俺はゆっくりとグリップを押し込み機体を壁に沿うように歩かせる。
俺は今、軍でも一般的に使用されている40.96mm陸戦用兵器専用機関銃を装備している。
ハンドル先端のジョイスティックの左手側は押して銃を構える状態を維持して、ジョイスティックの右手側は奥に倒したり、上に動かしたりして周囲に銃口を向けて警戒する。
建物の角まで行くと、慎重にそこから視認できる範囲の安全を把握してから、角の向こう側に敵がいないか、機体を傾斜させて頭部をわずかに出して探る。
モニターに見える範囲ではいないようだ。
俺は大きく一拍置いてから、素早く飛び出ていく。もちろん銃を油断なく構えてだ。
俺は周囲を警戒しながら、飛び出した通りを渡り、また路地に入って周囲の警戒に入る。
「あいつ、どこに行きやがった。開幕ショット以降全然出てきやがらねぇ」
俺は油断なく銃を構えて通りに敵がいないか、背後の路地から現れないかを確認をする。
するとその時、頭上から機械の駆動音がわずかに聞こえてきて、俺はとっさに銃口を上に向けて、右手側人差し指の部分につけられたトリガーを引く。
案の定、そこには坂下が銃口をこちらに向けて撃とうする瞬間だった。だが、今回は俺が先手を取る。
鳴り響く銃声と機械の駆動音、ブースターを吹かす音と風。
金属を叩く音が数発聞こえたことから、俺の撃った銃弾が相手の機体に被弾したことを予想し俺は少しの喜びを感じる。
しかしこれは大きな油断となる。
銃撃を狭い空間で、盛大にしたせいで巻き起った砂埃の中から一つの金属の塊が落ちてくる。
俺はロックオンの警告音もなかったので、来た瞬間は警戒していなかったが、次の瞬間、その落ちてきたものの正体を知ったその時、すぐに機体のブースターをフルバーストさせて、通りの開けた空間へと回避行動に移る。
「あの野郎!お土産ボムとかシャレになってねぇ!」
さっきまでいた空間に、爆風と鉄の嵐が起きているのをわずかに確認してから、俺は今やられたことを考える。
あれは確実に特殊陸戦兵器用時限式投擲炸裂弾、平たく言えば手榴弾だ。だがそれは、陸戦兵器などの装甲を貫き、内部の機構にダメージが通るように改良された特別製だ。
なんか三下っぽい感じだから忘れてたけど、あいつらは俺よりもシミュレーションとはいえ、実戦を何度も経験して、戦いを学んでるんだったな。
何とか回避してから姿勢を立て直そうとしている間、わずかに俺は考えていたが、次に起きたロックオンの警告音ですぐに戦闘に集中する。
まず俺はブーストを併用しながら機体を走らせて、その場をはなれ、次に周囲を見て敵の姿を確信する。
「くっ、上から偉そうに見下ろしてんじゃねぇよ!」
敵はさっきいた建物から移動して、別の建物の屋上からこちらを狙ってくる。
俺は右手のジョイスティックを押して銃を保持しながら、そのまま動かして狙いを敵に合わせて右腕一本で銃弾をばらまく。
敵も移動しながらこちらに銃弾を撃ち込んでくる。
お互いの銃弾が周囲の道路や、建物を破壊していく。
その銃撃戦もお互いの銃弾が尽きたことで、一時的に止む。
俺は急いで補充しようとするが、敵はそんなのお構いなしにまた『手榴弾』を投げてくる。そして自分は、建物の陰に隠れるように逃げる。
俺は補充をやめて回避に専念する。
「くっそ!うざい!」
さすがに敵は戦うことに慣れている。銃の残弾管理。銃弾が切れた時の対応、判断の速さ。正面から戦っても、勝てる確率は高くないだろう。
そこまで考えて俺は、一度頭を冷やすべく近くの建物に背をつけて周囲の安全を確認する。
「これは思ったよりも、きついな」
*********
「動きが素人臭いな」
モニターを見つめる教師はそうつぶやく。
そしてその隣にいる女生徒はその教師の言葉に反応して、言葉を返す。
「彼はこの前まで、ただの一般人でした。素人臭いのは当たり前かと」
「それはそれでおかしいんだけどなぁ」
教師は顎を撫でながらつぶやく。
「斎藤は機体にまともに乗ったこともほとんどないのに、仮にも三年以上機体に乗って戦う訓練をしてきた坂下と、普通に戦闘になってるってのは、自分からすればかなりの異常事態といえるのだがね」
言われてから女生徒も考える。
彼の証言が正しいとするなら、彼は初陣で敵の機体を下し、自分とわずかといえど競り合ったことは普通だろうかと。
「まあ、なんであれ、あのままでは斎藤が勝つのは難しいだろうな」
その言葉を聞いて女生徒は頭では同意していたが、心のどこかで違うような気がしていた。
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俺はコックピット内でほくそ笑む。
英雄だのなんだのと持て囃されているから、警戒はしていたが、箱を開けてみれば、やっぱりただの素人だ。なにも分かっちゃいない。
このままいけば、そこまで「奥の手」を使わなくても勝てそうだ。
その時、モニターの端に文字が出る。その文字に従い機体を移動させると、ちょうどあいつの乗っている機体がよく見える襲撃ポイントに到着する。
あいつの機体は建物に完全に背をつけて、だらんと両腕を垂らして休んでいるように見えた。
「はっ!斎藤、お前はどうあっても俺たちには勝てないのさ」
俺は銃を構えて、銃口をあいつの機体に合わせようとするが、次の瞬間、あいつはノーモーションから銃を急にこちらへと向けて撃ってくる。
正確に撃たれた銃撃に俺は驚きで一瞬反応が遅れ、何発か銃弾をまともに食らって装甲が損傷する。
「くそ!なんでだよ!」
俺は今の一連の現象が理解できないまま逃走する。
*********
俺は思考の海に自分の意識を沈める。
確かにあいつには技術がある。だが、技術だけでは片付かないことがいくつかある。
その最もたるのがこちらの位置と状況をまるで知っていたかのように索敵されることだ。
今の状況ではそれが最も重要だ。どこに隠れても最適の襲撃ポイントから狙われかねない。
俺は周囲の環境を見る。
周囲には多くの建物。電柱、道路。別に監視カメラがどこかにあって、あいつがその監視カメラの視界を使って俺のことを監視していると思えない。
だとすれば、考えられることは一つだな。ともすれば、俺もできることがあるんだろうな。
まあ、とりあえずは。こそこそ隠れて俺のことを狙ってるやつを返り討ちにしてやりましょうか。
そして俺は、コックピットのシート横にしまわれているキーボードとタッチパネルを取り出し、タッチパネルはキーボードになるように設定をいじり、それぞれに対応するパネルを接続する。
「はぁ、俺はなんでこんなにフルマニュアル操作に縁があるのかねぇ」
俺はそう愚痴を言いながら普通のキーボードを操作して、システムの深層に介入していく、そして求めていたものはすぐに見つかり、逆のタッチパネルの方のキーボードを操作して機体を動かす。
「フルマニュアル操作の難点は、ほとんどの機能を切ってるから、傍から見たら無気力に立っているようにしか見えないんだよな」
そういいながら俺は、機体を操作して他人から見たら、ノーモーションから急に動いたかのような気持ち悪い挙動で銃を構え、放つ。
今度はしっかりと着弾を確認する。
「よし、ここからが反撃開始だ」
戦闘が一話で終わるといつから錯覚していた?
すみません、次回に続きます。




