第十一話
俺が教室に入ったとたんに静まり返る教室。冷ややかな視線を向けてくるクラスメート。
どう考えても、今のこの状況はアウェー以外の何物でもなかった。
「さて、改めて今度来た二人の編入生の紹介をするぞ。と言っても、北島に関してはあまり関係ないだろうけどな」
唐橋先生は、この教室の空気をガン無視して話を進める。
「今年の春にここの中等部から一般の高校に任務の関係で行っていた北島と」
そこで歓声が上がる。
なんだよこの人気。確かにこの教室には男子の方が多いけど、男女問わずに歓声を上げてるぞ。
ってか中等部ってなんだよ、聞いたことないぞ。
「同じ学校で通っていたが、いろいろあって特務官に任命され、こっちに任務の関係で編入してきた斎藤だ。みんな上手くやっていけよ」
そして、俺が紹介されるとすぐに止む歓声。
これで実は俺の勘違い説の可能性は、ゼロになった。
「まぁ、聞きたいことは山のようにあるだろうが、時間も押してるからな。とりあえず、お前たちの席は後ろの席だ。斎藤は通路側、北島はその逆側だ」
唐橋先生が差した席は、教室の一番後ろにある予備の机だった。
これによって俺は、通路側の一番後ろになって、北島はその逆側の一番後ろになった。
ちなみに教室には机が縦に五個、横に五列の計二十五個あって俺たちが来るまでは、二席余っていたようだが、俺たちが着たことによって、席はちょうど埋まった。
「さて、今日も午前の普通授業もがんばれよ。午後からはまた俺がたっぷり絞ってやるからな」
唐橋先生はまたも獰猛な笑みを浮かべながら教室を後にした。
さて、とりあえずは俺のするべきは......。
「おっす、俺、斎藤祐司。よろしくな」
隣の生徒とあいさつすることだった。
渾身のさわやかな笑みを俺は浮かべているはずだ。これなら好印象も間違いない、はず。
「...っ!」
と思ったら隣にいたメガネの女子にすごい勢いで目を逸らされました。
なぜだ...?
と考えていると、教室のほとんどの生徒は、いつの間にか北島の方に集まっていた。
「北島さん、お帰り!」
「「お勤めご苦労様です!」」
「いやぁ、よかったよー。あのニュースを聞いてから気が気でなかったから」
ちらほらと聞こえてくる会話からも、ずいぶんと北島が慕われていることがわかる。
北島は俺と同時に高校に入学してる。なのにここでは、こんなに慕われている。あれは画面の向こうにいる有名人に対する好意とかじゃなくて、もっと親しい人間に対しての好意だと思う。
もしかすると、実は年上とか?年齢ごまかして高校に入ってとか?いや、ここが高校の一年だってことを考えると、年齢をいじってるわけじゃないのか。
とすると、さっき言っていた俺の知らない情報。ここに中等部があるってことに、なにかキーがあるんだろうな。
ということで、聞き取り調査と行きますか。
聞き取れそうな人物は、俺の隣にいた。というか隣にしかいなかった。
「ねぇねぇ、君、名前なんて言うの?隣同士になったのも何かの縁だし、教えてよー」
口調は街中でナンパするお兄さん風になっているが、気にしない。
クラスのほとんどが北島に群がっているのに、隣の彼女は自分の席で次の授業の準備をして、本を読んでいる。
「ねぇねぇ、聞こえてるんでしょう。わかってるんですよ?」
ナンパ師から借金取りのお兄さんにクラスチェンジするが、これも気にしない。
「な、なんですか?」
すると、やっと女子は少し怯えながらも、こちらを向いてくれる。
「ああ、やっとこっち向てくれた。いやぁ、よかった。まぁ、とりあえずは、俺、斎藤祐司。よろしく」
俺はやっと会話の成立したことに、少し安堵しながらも改めて自己紹介する。
「わ、私は、片桐梓です」
そう自己紹介してくれた女子は、メガネにショートカットの髪を揺らす、クラスに一人はいそうな、図書委員みたいな子だった。
「へぇ、片桐っていうんだ。趣味は読書?」
「ええ、まぁ」
言葉少なに答える片桐。
かなりの警戒レベルだ。これを突破するのは、なかなかにして困難と言える。
「いやぁ、転校なんてイベント、俺、初めてだからさ。こういうときってホント寂しいんだな」
フレンドリーに、且つ自分こんな環境に放り込まれて寂しいんです、不安なんですオーラを醸し出す。
すると、片桐は少し同情してくれたのか、こちらをちゃんと向いて話す態勢になってくれる。
「そうですよね。私も何回か転校したことありますけど、心細いですよね」
「そうなんだよな。新しく入学してとかだったら、クラスの中の交友関係とか、グループとかも全然定まってないから、比較的楽なんだけどな。ほら、全体がバラバラだと、自分が一人でも気にならないけど、クラスである程度まとまりができてから放り込まれると、自分が一人だってことが浮き彫りになるっていうか、あるじゃん、そういうこと」
俺は気軽さの中にも、哀愁を漂わせて語る。
何となく、手法が詐欺師っぽいが、気にしてはいけない。
「ああ、わかります。そうですよね。私も高等部からの編入組なんで、ここに来たとき思いました。みんな中等部からの持ち上がり組だから、もう友達関係が出来上がっちゃってて、何となく疎外感がありますよね」
ここでやっと、俺の知りたいことへのチャンスが開かれる。
「そうだ。そう言えば、先生がさっき、中等部がどうこうって言ってたけど、どういうこと?」
俺は何気ない風に、ちょっと気になってので聞いてみましたよ?という感じで聞く。
「ああ、あんまり一般には知られていないことですもんね。私もここに来たとき、はじめて知りましたから」
片桐は思い出したように語りだす。
「この学校には、一応中等部があるんです。それも『特殊陸戦兵器操縦科』と『特殊海上兵器操縦科』のみに限って。しかも、あまり公にはしないように」
片桐は少し小声になって、内緒話をするように話す。
「それまたなんで?」
「それは、この二科は特に習熟が難しく、早い段階で訓練を始めないと、軍に所属してからの殉職率が非常に高いんだそうです」
なるほどな、そういうわけで中等部があるわけか。
まぁ、あとは公になってない理由も察することもできるけどな。
「あと、公になってないのは、中学生からそんなに戦争にかかわらせるのは、という世論を恐れてのことだそうです」
まぁ、そんなのどうしたっていつか世に明らかにされるような気もするけどな。
今現在にあまり知られていないのは、情報統制されてるのかな。
「はぁ、なるほどな。それで、あの状態か」
俺は北島に群がるクラスメートたちに視線を向ける。
「たぶん、元クラスメートだからってだけじゃないと思います」
俺の予想を否定するように片桐は言う。
「このクラスに来た時からことあるごとに話を聞くんですが、彼女は中等部の時点で特務官に任命されていて、常にクラス内での成績はトップ。ある意味クラスのアイドルのような憧れの対象のような存在だったんだと思います」
片桐は少しげんなりした風にそう言った。
たぶん、いやというと程に『布教』されたのだろう。
「なんていう完璧超人ぶり。本当に同じ人間かよ」
俺は北島のすごさに羨望を感じるよりも先に、呆れの方が先に来た。
まあ、そうなりたいとは、あまり思わないけど。
「そうですね。ちょっと近づき辛いですけどね」
そう言って片桐は苦笑する。
そうして話してると、一限の始業のベルが鳴り、教科担任の先生が入ってくる。
後で聞いた話によると、この学校は午前は普通の現文や数学といった教科の授業があり、午後から訓練が入ってくるらしい。
つまり、これから昼までは、退屈な授業が目白押しなわけだ。
まぁ、今の俺にできるのは一つだけだ。
「片桐、すまんけど、お願いひとついいか?」
「?なんですか」
「実はな...教科書忘れたから見せてくれ」
そう、俺は、ちゃんと前もって配布されていた教科書を丸ごと、部屋に忘れてきていたのだった。
ガッデム!
*********
その後、午前の授業は、片桐の協力によって何とか乗り切ることができた。
クラスの大半と先生からは白い目で見られたが。
「いやぁ、助かったよ片桐。お前がいなかったら俺は、死んでいたかもしれん。精神的に」
「そう思うなら、明日からは、ちゃんと教科書持ってきたほうがいいと思います」
昼休み、四限の終わった後に俺は、片桐にお礼を言うとそう呆れ交じりに言われた。
まったくもって、ごもっともです。
「そういや、ここって学食あるんだよな。そこでとりあえずは食いに行くか」
「斎藤君、それはいいんですけど、午後の授業の内容と場所は分かっているんですか」
俺が学食に向かってエネルギー補給に向かおうとすると、その背中に片桐はそう声をかける。
「あ、あー。あれだよな。戦技シミュレーションの授業だよな。場所は、あれだ、あそこだよ、あそこ」
「操縦シミュレート室です。それで次の授業間に合いますか?」
片桐さんは普通に心配そうに言う。
「いや、大丈夫だろ。同じ校舎だ、ろ?」
「お忘れかもしれませんが、ここは校舎だけでも、広大な敷地と膨大な数の教室が存在しています。下手に迷うと授業一時間分は、サクッと消費してしまいますよ?」
片桐さんは哀愁を漂わせながら言った。
たぶん、それは彼女自身の体験談なんだろう。いやすぎる。
「はぁ、なるほどな。じゃあ、片桐が道案内してくれよ」
俺は名案とばかりに片桐に提案する。
「私が、ですか?」
「おう、なにもタダでなんて言ってない。昼飯はおごるからさ」
片桐は意外そうな顔をしているが、そんなに意外だっただろうか?
「いやか?いやならいいんだけど」
「あ、いえ、大丈夫です。分かりました。道案内役、引き受けましょう」
「そうか、なら、行こうぜ。時間がもったいない」
そういって俺たちは食堂に向かった。
「そういえば、次の戦技シミュレーションってどんな授業なんだ」
俺は道中の話のタネに次の授業の質問をする。
「戦技シミュレーションというのは、早い話が操縦のシミュレーション用の機械を使って対機体戦の訓練をしたり、集団戦のシミュレーション練習を仮想敵を用いてする授業です」
「なるほどな、つまりロボットのアーケードゲームをして操縦技術を高めようと」
「身もふたもないですね...」
片桐の要約された説明をわかりやすく変換した俺の言葉に、片桐は何とも言えないという微妙な心境を現した表情をしていた。
「だけど、そんなので本当に操縦技術が向上するのか?」
俺は純粋に疑問に思う。
所詮はシミュレーションだ。実戦には劣ると思うんだが。
「それは確かに、実際の機体を操縦をしたほうがいいのは確かですが、そう簡単に機体の順番は回ってきませんよ。この学校、これは防衛大学校も、もちろん中等部も含みますが、その中だけでも実際にある機体は五機のみ。それに対して、パイロットの候補生は三百人近いんです」
まさかの競争率六十倍。
「それでも、実際のクラス数はそんなに多くないだろう?クラスごとに回していけば...ああ、なるほどな」
そこで俺は何となく察してきた。
「実際にクラスごとに回しても、一人当たりに当てられる時間はわずかになるし、機体もそんなに連続稼働できるわけじゃない。ってわけか」
「はい、そうです」
つまりはそういうことだった。午後の授業いっぱい使っても、一人にはうちのクラスで約三十分の計算になるが、実際には交代などに時間をとられるし、三時間も連続稼働をした機体を使用後、整備もせずに連日稼働させるのは、あまりにも危険だ。
「というわけで、この学校では、五人一組の小隊を作り、その小隊で持ち回り、機体を使っていくシステムを採用しています。その順番がまわってきたときは、平常の午後訓練を抜けて、本物の機体を用いた特別訓練メニューになるんです。しかも、機体使用は一日ごと。稼働と整備を交互に繰り返していくんです」
なるほどね、五人小隊ね。まあ、そうでもしないと、安全に効率よく動かすことなんて難しいんだろうな。
そうこうしていると学食に着いたが、ここでも俺は驚くことになる。
「で、でけぇ」
入口から見える中の様子は、まさに人がごm...。
「何してるんですか。早くいかないと食べる時間が無くなりますよ?」
俺の思考は片桐の言葉によって遮断され、俺はおとなしく昼飯を得るために、食券の券売機に並ぶ列に加わる。
「さて、何を食おうかな」
俺は、この後訪れることに何の予期もせず、ただ呑気に昼飯のことだけ考えていた。
次回やっと、久しぶりに戦闘シーンが書ける、はず、です。




