第十話
その後、俺は泣き疲れて自分の部屋に着くとすぐに部屋にあった備え付けのベットに倒れるように眠り込んだ。
ここは一人に一部屋当てられているようで本当に助かる。こんな状態を他人には見せたくないしな。
そして、今日。俺は結局そのまま朝まで寝てしまったようで、起きて携帯の時間を見て軽く絶望を覚えながらも起きて支度を始める。
部屋にはトイレと洗面台がついているが、シャワーはついていなかった。
俺は洗面台で顔を洗い、歯を磨いてと、日常的なルーチンワークをこなくしていく。
「制服が、これか」
さぁ、着替えようと部屋にすでに届けられていた制服を見た俺は、そんな言葉を吐いていた。
目の前にあるのは黒を基調とした冬用のブレザータイプの制服と夏用の半そでタイプのカッターシャツのようなデザインのもの。この二つが置かれていた。
この二つには一応俺にも見覚えのある物によく似ていた。
「ああ、これ、軍人のみなさんが着てる軍服に似てるんだな」
一応、自衛軍の軍人を教育する学校なので、こういうデザインなんだろうと自分の中で結論付けてとりあえず夏服の方を取り出す。
今の時期は夏服を着用するように指示されているようなので、俺もそれに従って夏服を取り出す。
「さて、初登校と行きますか」
制服を着た俺は部屋をでて学校に行くべく部屋を出る。
*********
学校への道のりはそんなに時間はかからなかった。
道中、何となく人の視線をちらほらと感じたが、できるだけ気にしないようにした。
いちいち気にしていても仕方がないしな。
そして、今、俺は学校の職員室の前にいる。
一応、早めに来るように言われているので、始業である八時半の三十分前の八時にはついている。
これから俺は、クラスの担任と会うことになるらしい。詳しいことはあまり案内のプリントには書いていなかったけど、そこは先生に直接聞けということでいいのだろうか。
「はぁ、とりあえず入るか」
俺は溜息をひとつ吐いて職員室のドアをノックする。
「失礼します」
そう言って俺は職員室の中に入る。
中に入ると、そこはかつて俺が通っていた高校とあまり変わりないように見えた。
ちらほらと軍の訓練用の迷彩服を着ている人がいなければ。
「すみません、今日から編入することになった斎藤ですが、一年A組担任の唐橋先生はいらっしゃいますか?」
俺は職員室全体に聞こえるように、できるだけ大きな声でそう言った。
「おう、貴様が今度編入してきた噂の英雄君か」
そうすると、奥の小さな部屋、たぶん給湯室から一人の大柄な男がコーヒーのカップ片手に近づいてくる。
「はい、今日からお世話になります斎藤祐司と申します」
目の前に来るとよくわかるが、この人本当にでかい。たぶん190は軽く超えて、下手すると200はいってるかもしれない。
その上、服の上から見てもわかるほど筋肉が全身についてる。というかサイズ合ってないんじゃないだろうか。
「おう、自分が貴様の担任になる唐橋仁だ。よろしくな」
ニッと笑う唐橋先生の笑みは、さわやかというよりはその迫力から獰猛な笑みにすら見え、俺は少し体を後ろに引きそうになった。
「ああ、それは自分は元軍人で、教官を務めていた経験もある。今はここの特殊陸戦兵器操縦科のガキどもに機体の操縦を教えている」
そこで唐橋先生はまたニッと笑う。
「まぁ、貴様が英雄だろうが、特務官殿だろうが、関係なくじっくりとしっかりと叩き込んでやるよ。正しいパイロット魂ってやつをなぁ」
今度の笑みは俺の勘違いなどではなく、確実に獰猛な、今にも捕食されて無残な最期になりそうな気がしてくる微笑みだった。
「失礼します」
その時、俺の後ろから声がして、扉が開かれる。
「おう、貴様も来たか。いいタイミングだな。いちいち、二度も同じ説明をするのも、待つのも面倒だしな、二人一緒に説明を聞いてけ」
新たに入室した人物に唐橋先生はそう声をかけて、奥の衝立とソファの置いてある空間に歩いていく。
「え、先生。今日からこいつも来るんですか?」
俺は入室した人物を見て唐橋先生に尋ねる。
「そうだ、聞いてなかったのか?」
ああ、聞いてなかったさ。まさか、同じクラスにこいつが、ある意味俺と同じ軍人であるはずの元クラスメート、北島がいるなんて。
「久しぶりに会ったクラスメートに対して、いきなりこいつとはなかなか失礼じゃないか斎藤祐司」
北島はそう言うと俺の目の前を通り過ぎて唐橋先生のあとについていく。
いや、そんなことより、あいつってあんな感じの口調だっけ?というか雰囲気も何となく違うような。
「早く来い、斎藤。自分は愚図の世話をするほど優しくはないぞ!」
そう言われて俺は急いで北島の後ろに追いつく。
まったく、俺の人生はこんなにも驚きと予想外に満ち始めたな。
ああ、まったく、楽しくなりそうだぜ。こんちくしょう!
*********
唐橋先生を先頭に俺たちは校舎の中を歩いていく。
この学校の敷地は広大で、その大きさは1平方キロメートル。東京ドームにして約二十一個と少し。しかも、これはここにある施設の分だけなのである。郊外の野戦用の訓練施設、海上フロート施設などを含めるとこの二倍近い表面積になるらしい。
まぁ、一部は防衛大学や軍と共用みたいなところもあるらしいから、ある意味では妥当な広さなのかもしれない。
そしてこの学校には多くの学科があり、俺たちが向かう『特殊陸戦兵器操縦科』、海上の守りのキーとなる『特殊海上兵器操縦科』、航空戦力の要『航空兵器操縦科』、ほかにもそれらの兵器や戦艦の整備を担う『整備兵専門科』、戦艦の運営を行うための各専門科がエトセトラ......。
高校だけで約千人弱の生徒数を誇っているだけあって、施設の量も多い。
体育館や運動場、武道館やプールなどもそれぞれいくつか保有している。
校舎も一つにつき地上から地下までぎっしりと教室やその他の施設が詰まっている。正直、どこの超大型商業施設だよって思う。
どれもこれも、この日本の防衛費によって、つまりは国民の税金によって賄われていると思うと、ここまでする必要があるのかと思ったりするんだが、この他国からの脅威にさらされている中で、無駄遣いしようなんて思わないだろう。
と、ここまでが教室に行くまでに先生と北島が教えてくれた内容だ。
正直、桁が違いすぎてあんまり頭に入ってこない。
そうこうしているうちに俺たちは教室に着く。
「じゃあ、今から自分が入って朝のホームルームをしてくるから、呼んだら入ってきてくれ」
そう言うと唐橋先生は、扉を開けて教室の中に入っていく。
このタイミングで俺は北島に話しかける。いろいろ気になってることもあるしな。
「なぁ、北島。お前ってさ、スリーサイズいくつ?」
「......」
いきなり核心を聞いていくのは気が引けたので、ちょっと外してみたらものすごい睨まれました。ですよねぇ~。
「冗談だって、そんなに怒んなよ」
「急にそんなことを言われて怒るなと言うほうが難しいと思うが?」
そりゃそうだ。
北島は俺を睨む眼光を緩めることなく言う。
「いや、どう話しかけたらいいかわかんなくってよ。ってか、お前軍人だろ?軍の方に行かなくていいのかよ」
俺はその眼光に怯みながらも北島に果敢に話しかける。
「私は君と同じく嘱託の特務官だ。それにこうやって学校に通うのも任務の一環だ」
北島は俺からやっとその鋭い視線を外してくれたが、次は一切目線をこちらに向けずに話す。
「は?任務?任務ってなんだよ、それ」
俺は困惑する。学校に通うこと自体が任務ってどういうことなんだろう。
さらに北島に聞こうとするが、そこで教室の中から唐橋先生の呼ぶ声がして仕方がなく会話は中断される。
北島は俺より先に中に入っていく。そして、歓声のような声が教室の中に響くのが聞こえる。
え、何、そんなに歓迎されるの?俺そういうの苦手なんだけど、大丈夫かなぁ?
そうちょっとした期待と不安を感じながら俺も教室に入るが、俺の不安は結果的に杞憂に終わった。
そう、俺が教室に入るとさっきの歓声の歓迎ムードが嘘のように静まり返り、教室内の生徒たちが見てくる視線は、驚くほどに冷たかった。
どうしてこうなった?




