35.これって告白!?
*** 心矢小春視点 ***
陸は、急に自分の口元を押さえたわたしを不思議そうに見つめる。対してわたしは、ついさっき陸が口にした言葉を脳内に反芻する。
『俺、小春とずっと一緒にいるから、いつでも甘えてね?』
よく考えたらこれって告白だよねっ……!? いやでも待って! 落ち着けわたし。陸のことだからまた無自覚に紛らわしいこと言ってるだけかもしれないじゃん。
わたしは火照る頬を冷ますためにブンブンと首を横に振り、陸に聞く。
「りり陸……さっきの『小春とずっと一緒に居るから』ってどういう意味で言ったの?」
「ん? どういう意味って言われても、そのままの意味だけど?」
「そのまま……っ!?」
じゃ、じゃあやっぱり陸は告白してきたってこと? このタイミングで!? いやまあ、タイミング的にはありかもだけど……えぇ……!?
わたしは、平然と微笑む陸を足先からつむじまで値踏みするように見る。
でも陸だよ? わたしを一ミリも異性として見てくれなかった陸だよ!? ほんとに告白なの?
「陸。そのままの意味ってところもうちょっと詳しく」
わたしが詰め寄ると、陸は迷いなく口を開く。
「えっとね、一言で言うと──」
陸はそこまで言うと口を開けたまま固まってしまった。
えっ? なになに!? 言いずらいことなのっ!? 恥ずかしいことなのっ!? やっぱり告白!?
バクバクと心臓の音がうるさい。呼吸が浅くなって、息に熱がこもる。そんな中、陸は満身創痍なわたしの前で顎に手を当て、考えをまとめるようにゆっくりと話し出した。
「つまりね、小春は現状に満足してたのに、俺の勝手で小春に変わってもらおうとしてるでしょ? だからこれは俺の自己満足なんだよね。俺の自己満足に小春を巻き込んだから、せめて最後まで責任をとらせてほしいっていう意味だけど、わかりずらかった?」
へっ……? ……そういう意味なの?
肩透かしを食らったわたしは呆気にとられ、心臓の音が鳴りやんだ。そして、叫んだ。
「わかるかぁー!! 言葉足らずにもほどがあるよっ!」
じゃあさっきのは告白じゃないの? やっと陸がわたしを異性として見てくれたと思ったのにぃー。
わたしは頬を膨らませ、ジト目で陸の顔を覗き込む。
それにしても危なかったぁー。もう少しで勘違いするところだったよ。全く陸は……紛らわしことばっかり言うんだから。
「ごめんごめん」
陸は耳の裏をかき、ハハハと笑って誤魔化そうとする。
その手には乗──ってあげてもいいかなぁー。ズルいよ陸のその困った顔。かわいいんだもん!
そうは言ってもすぐに許すのも癪なので、一応ジト目は向けたままにする。すると不意に、陸は苦笑いをやめて表情を引き締めた。
「それで小春。長澤さんたちのことなんだけど、あの三人をどうにかしないと、今の『心矢さんはなんでもやってくれる便利な道具』っていうクラスの最悪な雰囲気を直せないと思うんだよね」
「確かにそうかも。だけど陸、わたしが長澤さんたちの頼みを拒絶するだけじゃダメなの? 断るのが苦手って言っても、『穏便に』って条件がなければできると思うよ?」
「それだとみんなが小春に頼みごとしずらくなるでしょ? 仲良くなろうとしてくれてる女子たちも遠慮しちゃうかもしれないからね。それは最終手段かなー」
「なるほど」
「だから俺、長澤さんたちだけを拒絶するために────っていう作戦を考えたんだけど、小春はそれでいい?」
わたしは迷わず頷いた。
「うん! ちょっと怖いけど頑張ってみるよ!」
「そう。でもそんなに緊張しなくても大丈夫だよ。失敗しても俺と栞と恭平でカバーするから」
「それすっごく助かるよっ! ありがとう陸!」
そうしてわたしたちは、六時間目の授業と帰りのホームルーム、掃除まで全部終わった後、誰もいない教室に荷物を取りに寄ってから一緒に下校した。
*** 志喜屋陸視点 ***
翌朝。俺と小春は一緒に教室に入った。すると案の定、俺はクラスの男子たちに取り囲まれた。
「なあ志喜屋。昨日のあれなんだ? おまえ心矢さんとどういう関係だよ」
「おまえも心矢さんもお互い名前呼びして、いつからできてたんだ?」
男子たちは席に座った俺を鬼気迫る勢いで問い詰める。それを俺は作り笑いで誤魔化した。
「心矢さんとはマンションが同じなんだよね。登校時間とか一緒でよく顔を合わせてて、それで仲良くなって──」
「それでおまえらいつから付き合ってたんだ?」
「心矢さんとはどこまで行ってるんだよ?」
「えっと、俺たちはそう言う関係じゃないから」
昨日小春と相談して、同棲していることは隠すが、同じマンションに住んでいることは話していいことになっていた。なんとかそれで誤魔化そうとしたけれど、獲物を囲んだ捕食者のように目をギラギラとさせている男子たちには焼け石に水だった。
俺は言葉を濁し、作り笑いを浮かべることで彼らの質問攻めをしのぐ。そうしてなんとか始業のチャイムにありついた。
──が、当然それで終わるはずもなく。授業の合間の十分休みではクラスの至る所から俺と小春の話が聞こえてきて、昼休みになるとまた俺はクラスの男子たちに囲まれた。
「それで志喜屋と心矢さんが仲良くなったのはいつからなんだよ?」
「うーん……一か月前くらいかな」
これ、作戦決行を明日にして正解だったなぁ……。今日は俺動けそうにないし、長澤さんたちだって様子見するでしょ? 迂闊に小春に近付くこともないはず、だよね?
俺の考えた作戦はそもそも長澤さんたちが動かないと始まらない。それに念のため栞に、小春に長澤さんたちが近付きそうになったら阻止するよう頼んである。
だから今日は、小春は大丈夫。今日は俺が頑張る日……わかってるんだけど、久々に大勢と喋ったからちょっとキツい。
「おまえほんと何した? 今まで数多の男子の告白を断り続けてきた心矢さんがあんなに心を許すとか、まさかおまえ、心矢さんを脅してんじゃないだろうな?」
「そんなことするわけないでしょ」
「そうだな。志喜屋がもしそんなやつなら、昨日あそこで助けには入らないだろ」
そう助け舟を出してくれたのは恭平だった。あくまでも俺との約束通り他人のふりをしつつ、こっそりとウインクを送ってくる。
ありがとう恭平。助かるよ。
「それもそっか」
「にしてもなんでおまえなんだよ。俺も心矢さん狙ってたのになぁ」
「ほんとそれ! マジズリィよおまえ。彼氏じゃないってんなら心矢さん紹介しろよぉ」
「おまえらなんかに俺のかわいい妹はやらん!」
とか言ってみたかったけれど、やめておいた。代わりに黙り込むことで話が流れるのを待つ。すると、不意に恭平がパンッと手を叩いた。
「なぁみんな、志喜屋をいじめるのはこのくらいにしておかないかい? そろそろ志喜屋がかわいそうだ」
「そうは言っても──」
「みんな、クラスのマドンナを取られて悔しいのはわかるさ。でもさ、それをいつまでも引きずるのはかっこ悪いだろ? こうなった以上、潔く二人を応援しようじゃないか」
「確かにな……」
「言われてみればダサいことしてたな」
「でもやっぱ羨ましぃー!」
やっぱり恭平はすごい。たった一言で男子たちを説得して、俺と小春を応援する雰囲気を作り出すなんて、俺じゃ絶対無理だよ。
***
「小春。一緒に帰ろう?」
「うん」
放課後。今日小春を一人にして長澤さんたちに絡まれたら作戦がうまくいかなくなる可能性があるからと、俺は小春と帰ることにした。
「おっ! 志喜屋はもちろん心矢さんと帰るよな?」
「ヒューヒュー! 熱いねぇ!」
からかってくる男子たちに白い目を向けて、俺は小春と教室を出る。その様子を、長澤さんたちは不気味なほど静かに見つめていた。
長澤さんたちは今日一日、俺や小春に何もしてこなかった。おそらく、今日の「志喜屋陸と心矢小春がどういう関係なのか気になる」というクラスの雰囲気を壊したら自分たちが責められるとわかっていたのだろう。
やっぱり、勝負は明日だね。
小春がいいように使われないようになるためには、「心矢にはどんなお願いしても許される」、「心矢は便利な道具」という、長澤さんたちが作ったクラスの雰囲気を壊す必要がある。
「小春。明日頑張ろうね。俺もできる限り手伝うよ」
「うん! 見てて陸。わたし頑張るから!」
小春は胸の前で両手を握り締めて意気込む。俺は、夕日に照らされた小春の頭をそっと撫でた。
この話を読んでいただきありがとうございます!
「面白かった!」
「続きが気になる!」
と思っていただけたら、
ブックマーク登録や感想、
↓の「☆☆☆☆☆」をタップして、応援していただけるとうれしいです!
星はいくつでも構いません。評価をいただけるだけで作者は幸せです。




